矜恃
やつが一体どうやって、こんな力を手に入れたのかは知らない。知る由もない。だが確かにやつは、死者を蘇らせる力を持っていた。それを私は、身をもって体験した。黄泉の国から自分が、現世に舞い戻ることを。こんな力がこの世に存在することが、ただただ恐ろしかった。
死とは救いであると、誰かが言った。だがその救いがどれほど偉大なものであるか、私は理解していなかった。死ぬことができない、ということが一体どのような結末を辿るのか、私は自分の体で思い知ることになる。
拷問とは痛みを与えるのが目的であって、殺すことが目的ではない。故に、限界がある。対象を殺すことなく痛みを与え続けても、いつかは必ず死んでしまう。だから私も、死ぬ覚悟を持って捕虜となった。
だが私は死ななかった。いや、正確には死んで、蘇った。何度死んでも、それは同じだった。死ねば解放されるはずのその痛みが、死んでも終わらない。つまりこの拷問は私が死ぬまで続くのではなく、私が情報を吐くまで永遠に続くということだ。
それを理解したとき、私は壊れてしまった。死んでも生き返るということは、死なないように加減をする必要もない。配慮する必要もない。一度しか味わうことのできないはずの「死ぬほどの痛み」を、永遠に受け続ける。それはまさに、終わらない地獄を意味していた。
私は、いつから壊れてしまっただろう。
それももう、思い出せない。
「ああ、騎士様。騎士様は本当に美しいわ。顔も、身体も、生き様も。ずっとあなたを、見ていたいわ」
やつが、私の頬に触れようとする。それに恐怖した私は、喚きながら地べたを這いつくばって牢の隅に逃げようとする。
「ひぃいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!!やめてぇ!お願いだからやめてよぉ!!痛いのいやぁ、怖いのもいやぁ!!」
「あははははは!竜さえも戦いた天下の騎士様が痛いのいやって叫んでるわ!滑稽ね、騎士様。とてもみんなには見せられないわねぇ、こんな無様な騎士様は」
私は牢の隅に体を埋める。体を抱きしめ小さく丸まった姿は、まるで弱い子供のようで。それが私の姿であるなど、思いたくはなかった。
「私だけがこんな無様で情けない騎士様を知っている・・・たまらない優越感だわ。本当に可愛くて素敵。大好きよ、騎士様」
私を大好きなどと宣いながら、やつがゆっくりと近づく。
「いや・・・いやっ・・・!もう許してぇ・・・・・・・」
「もういや?許してほしい?」
「はい!はいぃ!もう許してくださいぃぃ・・・・もぉいやですぅぅ!!」
「じゃあ姫様の居場所、教えてくれるわよねぇ?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・!!!それ、は、それだけは、いやああぁぁ・・・・・・・・・・・・・」
最後の矜恃。たとえ私が私でなくなっても、壊せない思い。それだけは、何があっても。
語らない。
喋らない。
12回殺されようが、100回殺されようが。
それだけは、いやだ。