表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
悠久の賢者とアプリマジック  作者: 雨音響
1章:魔法科学
5/5

5:驚嘆

…最近急に寒くなりましたねぇ

「……へ?」

間の抜けた声が、部屋を泳ぐ。


(何を言ってるのかわからない……)

あまりにも突然だったその提案に私の頭は、真っ白になる。


「いや、そんなに呆然とされても困るんじゃが……」

シシウドさんは言う。


……いや、これは出会って数日の人に言うべき台詞じゃないでしょう。

なんとか思考を回転させる。


「……本気なんですか? その、理由を聞いても?」

段々と冷静になる思考で、問いかける。


シシウドさんはゆっくり頷き口を開く。

「勿論じゃよ……。ワシはこの通り、老いぼれじゃ。妻には先立たれ……2人いた息子と娘も家庭を持ってしまった。今はワシ一人きり……寂しい生活を送っておる。」


まぁ、これはワシの今の家庭環境じゃ……と寂しそうに笑う。

「それに、カナデちゃん。お前さんはこの世界の事を知らんじゃろ。遅かれ早かれ、いずれ行き当たる問題じゃ……。ならば、ここで会ったのは何かの縁じゃろ……このおいぼれの娘になってはくれんかのう?」


そう、シシウドさんは震える声で言う。

物凄い、決断をしたのだろう。まず普通、見ず知らずの知らない相手に言う言葉ではない。


「ここ数日のカナデちゃんを見ていただけじゃが……一つだけわかることはあるんじゃよ。カナデちゃんは、決して悪い子じゃない……それだけは確かじゃろうて」

そう言い、どうかな?とシシウドさんはその先の言葉を濁した。

全て、私次第という事なんだろう。


「あの、その……本当にいいんですか?こんな素性も知らない私を受け入れて……その、迷惑をたくさんおかけしますよ……?絶対」

それは、軽い断り。

真正面からではなく、やんわり断る。

それでも、シシウドさんは「いいんじゃよ」とただ、優しく笑うだけだった。


「本当に、いいんですね……後悔しますよ……きっと」


「そんなことないじゃろう……寂しいおいぼれの生活にこんなかわいい娘が来てくれるんじゃ」

それは、贅沢じゃろうて……

そう、いいシシウドさんは……部屋から退席していった。

その際、顔に……眼に涙が溜まっていたのは、きっと私しか知らない事だったのだろう。


「……私は、このままお世話になっていいのだろうか。」

そう呟く。不安な気持ちは胸に抱いたまま……意識はまた微睡みの中に落ちていく。



夢の中で見た景色は遥か昔の私。

家族と笑って過ごした……最後の夜。


あの日は確か……お父さんの誕生日だった。


いつもの様に、仕事を終え帰ってきたお父さんが、お母さんの手料理を今か今かと待ちつつ……

幼い私と遊んでくれていた。

その夜は、いつもより楽しい夜になる……ハズだった。


異変があったのは、丁度夜ご飯を食べ終えた頃だ。

家のドアをノックする音が聞こえる。


「なんだ……こんな時間に誰だ……?」

お父さんは立ち上がりドアノブに手をかける。


その様子を見ている私は突如襲い来る頭痛に頭を手で押さえる。

無意識のうちに言葉を紡いでいた……

小さく「開けないで」と。


その言葉は無情にも……打ち砕かれる。

これは、夢……いわば過去をなぞった夢。

今更覆すことはできない……そうゆう事だった。


ドアを開けた先に待っていたのは、黒いフードを着た数人の男たちだった。

その男たちはお父さんに向って、こう言った。


「お前が……反逆者だな? 国家に逆らう屑が!! 」

何のことだ!? その言葉を口にするよりも先に……

父親は倒れ伏す。見れば黒いフードの男たちは懐に短刀を忍ばせていた。


「……娘を探せ。あの娘が……未来のために必要なのだ」


フードの男たちは最低限の会話だけを通し、部屋の中に押し入ってくる。

お父さんは「やめろ……」と力ない声で言う。


フードの男は見下すようにお父さんを一睨みし……一言。

「しぶとい奴だ」そう言い、手にした短刀で胸元を一突きした……。


そしてお父さんは……その凶刃に命を落としたのだった。


夢の中でその光景を見た私は……。

ただ泣き叫ぶことしかできなかった。

「もう……もうやめて」と。


けれども、そんな事お構いなしに夢は続く。

私を探すフードの男たちから……

私が見つからないようにと、お母さんはクローゼットの裏にある隠し扉に私を押し込め……

一言「音がしなくなるまで絶対に出てきちゃ駄目よ……?」そう言った。


それから聞こえるのは、懐かしい呪文の詠唱。


「鏡よ……真実を濁す盾となれ……」


その呪文は、初歩的な魔術。

物を隠すときなどに好まれていた魔術だ。

自身が移した箇所の扉や、壁に張りぼてを張るのだ……

一見すると部屋の中にある扉が物がわからなくなるように。


それから、すこししてフードの男たちはこの部屋にやってくる。

「お前が、母親か……子供は何処だ!? 」

怒号が飛び交う。


お母さんはそれに負けず凛とした態度で「私の娘なら……今日はいないわ残念だったわね」

と精一杯の嘘を吐いた。


その態度がフードの男たちは怒らせたのだろうか?

元から、そうするつもりだったのだろうか。

「じゃぁ、用はない……死ね!! 」と一太刀。

お母さんを切り捨てるのだった。


声にならない悲鳴と共に物凄い音が部屋に響く。


幼い私は……お母さんとの約束を守るため……

息を殺し、存在感をここにない物とした。


涙を流しながら……。


その様子を夢で見ていた私も、涙を流す。

ずっと、誰にも言わないまま背負ってきた悪夢げんじつだ。


こんな夢見たくなかった。

そんな思いが芽生えるころには、夢は終わり朝を迎えていた。


「お母さん……お父さん……」

夢の中でだけ涙を流していたと思ったが、起きてみると……私の体を包む毛布や枕は……少し湿り気を帯びていた。


ふと部屋の隅を見ると、シシウドさんがコーヒーを飲みながら座っていた。

こちらを見たシシウドさんは、バツが悪そうに言う。

「すまん……悪気はなかったんじゃ。あの女性の看護師……ナツキちゃんがな。カナデちゃん、お前さんが酷くうなされていると教えてくれてじゃな……」


こう、心配になって見に来たんじゃよ。

そう、シシウドさんは照れ臭がりながら言った。


その様子を見た私は……ただ一言。

「ありがとうございます……」

そう、力ない声で言い……涙を手で拭った。


ちょっとだけ過去編。

家族の話から昔の事を思い出すのはよくある事です。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ