隊長からの修行
「さて、次は君の番かな」
エルフの警備隊長、アインは僕の方へと向き直った。昨日の決闘の際に、僕に起こった事を知りたいようだ。
特に隠す事もないだろう。僕は魔剣とそれによって恐怖心を無理矢理抑え込んでいた事を伝えた。
今頃になって、シュバインとの勝負による恐怖が蘇ってくる。緊張が解けたという事か。
「なるほど、先の対戦でもチグハグな様子が伺えたのはそのせいか」
体の軸がやや後方に、腰が引けたようになっていたのに、決着の際には大胆に動いていた。その二面性が極端で、剣士としては不自然だったようだ。
「怖がる気持ちと、体が勝手に動く部分が混ざったような感じで」
シュバインの剣に貫かれながらも、相手の腕を掴めたのは体が反射的に対応してくれたからだ。
「体はどこまで耐えられるかを覚えているのだろう。なかなか酷い戦いをしてきたようだな」
あまりそんな記憶はないのだが、レベルより上の敵とも戦って来ているのは確かだった。特にサラマンダーとの乱戦はギリギリだったのかもしれない。
「よし、ならば一つ鍛えてやろう」
アインは僕を立たせると、木から降りて村の下に広がる場所へと連れだした。
どうやらシュバインを倒した剣術にも興味があったようだ。
しかし、僕の方は必要でもない戦いに萎縮している。
「やはり最初は準備運動からだな」
そんなアインの言葉とは裏腹に、鋭い一撃が打ち込まれる。左手にはめた手甲を動かす暇もなく、左肩が打ち抜かれる。
「ぐあっ」
「マモル!」
悲鳴を上げるセラドを手で制しながら、僕は構え直す。切っ先はブレブレで、なんでこんな事しなきゃならないのかとも思う。逃げ出したいが、それはダメなんだと理性で分かる。
逃走本能を理性で制御できるか、それは今後の生死に繋がる。それは僕だけじゃなく、セラドやエイレスにも関わって来るのだ。
「うむ、良い覚悟だ!」
僕の内心を見透かしているように、アインは容赦なく打ち込んでくる。構えや軌道はシュバインと同じなのだが、スピードが全く違う。見えてからでは反応が間に合わない。
肩、胸、腿、胴、どんどんと殴られ続け、痛みが麻痺し始める。木刀を持つ手を狙ってこないのは、これが僕に課せられた訓練だからだろう。
徐々に意識が遠のき、逆に体の様子が分かってくる。全身が熱を持ってきているが、骨や筋には影響はない。相手の切っ先ではなく、体の動きを追い始める。
自然と体は無理のない動きをするようになり、初めてアインの突きを、手甲が弾いた。
「まだまだ遅いな」
防御に動いて出来た隙に、アインの木刀が突き刺さり、呼吸が止まる。
ドサリ。
立っていられなくなり、膝から崩れ落ちた。我慢しきれなくなったセラドが駆け寄り、回復魔法を使ってくれる。
しかし、麻痺していた痛みが回復して、全身が激しい痛みに襲われた。
「あがっがががっ」
「な、何じゃ、大丈夫なのか!?」
「大丈夫、痛いだけだ。しかし、意識の切り替わりが遅い。本来の敵であれば、一撃で終わらせにくるぞ?」
「わ、わかり、ます」
戻った痛覚が、傷が癒やされたのを教えてくれる。息は荒いが、立ち上がることもできた。
「じゃあ、体が覚えるまでやるしかないな」
後にアインは鬼教官として知られている事を、エルフの警備隊員から告げられた。
指一本動かす気力がなくなったところで解放され、セラドに看病されながら休む。
「あやつ、手加減を知らぬな」
「セラドがいるの分かってたからね。それに手加減されてたら、掴めないものもあるだろうし」
実際のところ、アインは実力を出してはいないので、手加減はされている。ただこちらの負傷を気にしない攻撃であったのは確かだ。何度か骨折までいく一撃もあり、激痛に晒された。
「それで何か掴めたのかの?」
「さて、どうかな……」
恐怖心がなかった僕は、根本的に防御が弱かった。それを見かねた部分が、アインにはあったのだろう。
「とりあえず、僕は皆を守れるように頑張るよ」
「そうか」
痛みこそなくなっていたが、全身が軋んでうまく眠れない夜をすごした。エイレスとレイラもエルフの若者たちとかなり遅くまで話していたようだ。
フェネは前日の徹夜があって昨日は、たっぷりと眠っていた。
僕の看病の名目の元、添い寝していたセラドも元気そうだ。
ふと気配を感じて手甲を動かすと、そこに木刀が当たる。
「ふむ」
アインの声が聞こえて、木刀が更に動いて額を突く。
「がっ」
「無我の反応は良くなったが、その後はまだまだだな」
ぐわんぐわんと頭に衝撃が広がる。そこから反撃の一撃を見舞うが、それもあっさりと打ち落とされた。
「奇襲は速さが大事だ。自身の体が崩れていては、その成功率も落ちるな」
返す刀で、再び額を打ち据えられた。
「さて、私としてはもう少し相手をしてやりたいが、警備の仕事があるからな。このままリュエリアに向かうのだろ? 我が師への紹介状を書いておいたから、訪ねてみるといい」
「ありがとうございます」
「まあ、あった後に感謝できるかはお前次第だがな」
やや視線を逸らしながら、何かを呟きていた。
「エイレスはどうだ?」
「まあ、同族と会えて色々と話せたのは良かったと思うよ」
レイラの口調が少し重い。シュバインとの行き違いも、しっかり話せた事でかなり埋まったようだ。
「エイレス、君はどうしたい?」
僕の言葉にエイレスは、不思議そうな顔をする。
「魔剣に見込まれるほどの傲慢さが消えた幼馴染は」
「話せるようにはなってました」
レイラが代読してくれる。
「一緒に過ごしたいとは思わないか?」
笑顔で首を横に振った。
「ようやく周りが見えるようになったお子様です。まだ母にはなりたくない……だって」
レイラが複雑な表情で、読み上げた。当のエイレスは、僕へと抱きついてきた。
シュバインもまた複雑な表情でこちらを見て口を開いた。
「僕はまだ周りが見えてませんでした。これではエイレスを幸せにはできません。ちゃんと経験を積んで迎えにいきます」
エイレスは僕に抱きつきながらも、シュバインに頷いていた。二人の間でそう決まったのなら、僕が口を挟む事じゃない。
「それじゃ、行くか」
僕たちは、エルフの国の首都を目指して、村を旅立った。
書くペースが遅くなってすいません。
なかなか並行して進めるのは難しいようで。
あと目標をどう定めるかが、曖昧になっててその辺で苦労している感じです。
章タイトルのように主人公達の強さを伸ばせれば佳いのですが。




