傲慢(プライド)の解放
シュバインや隊長に続いて木の上にある家へと上っていく。大きめの家に入っていくと、警備隊の隊員だろうエルフ達が並んでいる。
その前を通って、奥にある一室。そこにエイレスは軟禁されていた。
「……!」
僕の姿を見たエイレスは声にならない声を上げながら、僕に抱きついてきた。
その頭を撫でながら、エイレスに話しかける。
「酷いことはされなかっな?」
コクリと頷く。
「ごめんね、僕が情けなかったばっかりに……」
フルフルと首を振って答える。その様子に不自然なところもなく、囚われてはいたが無碍には扱われていなかった事を確認できた。
エルフの隊長と、シュバイン、それにうちのパーティーとで今後の事について確認する事になった。
「まずはエイレスが丁重に扱われていた事に関しては、お礼します。ありがとうございました」
「いや、昨日の勝負はおかしかったからな。必ず再戦は必要だと思っていた。それにシュバインもエイレスを大事に思っているのは確かだしな」
隊長の言葉を受けて、僕はシュバインに向き直る。
「そこを確認したい。シュバインはエイレスを自分のモノだと思っているか?」
「僕は負けた。エイレスはあんたのモノだ」
「そういうことじゃない。エイレスを人間だと分かっているのか、ということだ」
この場合の人間とは、知性があり人型をした生き物という意味だ。
「? 何を言っている、エイレスはエルフで人間だ」
シュバインもそれは分かっているが、こちらの意図までは汲み取れないらしい。
「エイレスにも意思があって、考えて行動できる人だと分かっているよな?」
「当然だ」
「エイレスは戦利品ではない」
そういい置いて、僕はエイレスを向く。
「エイレス、君はシュバインを恨んでいるか?」
少し考えたエイレスだが、首を横に振って否定を示す。
「シュバインが嫌いか?」
んんーと、かなり悩んではいたが、首を横に振って答えた。
「え!?」
それにシュバインが意外だと声を上げた。
「シュバイン、君は傲慢に見込まれた人間だ。その振る舞いは自分勝手で、他人を考えて来なかっただろう。エイレスは自分といるのが幸せで、一緒にいるべきだと思いこんでいた」
シュバインは僕の言葉の意味を考えているようだ。
「でもエイレスも一人の人間で、考える頭を持っている。一方的に決めつけられて、そのまま進むのが嫌だった。そうだね?」
エイレスは頷く。
「君にはそれが当然だったかも知れないが、エイレスには色んな選択肢があった。それを無視した行動が問題だ」
「うう?」
僕は言いたいことを上手く伝えられていないのか、シュバインは首をひねる。
「相手を敬い対話する意思があるか、自分の思い通りに行かないと気が済まないか、どっちだ?」
「ぼ、僕は……エイレスの為に、強くなるって決めたんだ」
「ああ、それは君の勝手だ。ただ強くなればエイレスが手に入るわけじゃない」
顔を上げたシュバインには、まだそれが何故かが分からないみたいだ。
「これはエルフ固有の問題もはらんでるかもしれん」
隊長が言葉を発した。
「エルフはヒト族をはじめ、他の種族に比べて寿命がかなり長い。そのためかは分からないが、出生率が低いのだ。なので若い子供達を早く結婚させて、世継ぎを作らせたがる親が多いのだ」
確か五倍ほどの寿命があると聞いたが、それは良いことばかりではないらしい。確かに人間と同じペースで増えて、寿命だけが長いとエルフの人口はかなり増える事になるだろう。そうならない仕組みがどこかで働いているらしい。
「村に若い男女が一組しかいなおとなれば、自然とそういう縁組みはされるのだろうな」
「それは当然でしょう?」
シュバインはそのことに何の疑問も抱いていなかった。閉鎖された村では特にそうなのだろう。
「では例えばお前の同期であるミーシャがお前に求婚してきたらどうする?」
「え? そうなのですか?」
「いや、例えばの話だ」
ミーシャという子もシュバインの同期ということは、若いエルフなのだろう。エイレスではない女の子との縁談を提示されたとき、シュバインは何を思うのか。
「ぼ、僕はそんな事、考えたこともないので……」
「だから考えて見ろと言っている」
「でも、僕は、エイレスが好きで、だからミーシャには悪いけど、断るしかない」
「つまり、エイレスさんにもシュバインの他に好きな人がいるかも知れないという事だ」
「それがこのヒト族と言うんですか?」
「それは分からない」
僕の言葉に、更にシュバインは困惑を浮かべる。
「人の心なんて、正確には分からない。ただ、相手を知ろうとする事はできる。それをせずに一方的に決めつけるのはダメなんだ」
セラドやフェネ、レイラやエイレスとそれぞれに抱えているものは違った。それを理解するのは難しいし無理なのかもしれない。だからといって全てを無いものにもできない。それぞれに分かり合って進む事が大事なのだ。
「エイレスとちゃんと話し合ってみろ。もちろん、二人きりにはできないから、レイラもついてくれるか?」
レイラは笑顔で頷いてくれた。
「エルフならではの事情もあるだろうし、できればそのミーシャという子じゃなくてもいいので、若いエルフを一緒に参加させてもらえますか?」
「ああ、いいだろう」
隊長も快く引き受けてくれた。
「あとはシュバイン、君がエイレスの意見をちゃんと聞けるかだ。どうしても自分のモノにしたいか?」
「ぼ、僕は、今まで、何も考えてなくて、エイレスと一緒にいるのが当然で、当たり前で……でも、エイレスは考える事があったんだよね。僕は、エイレスの事を何も知らなかった。もっとちゃんと知りたいと思う」
その時、シュバインの腰から魔剣が落ちた。
「え?」
一同が固まる中、細かく刻まれた柄にヒビが走り、砕け散った。
「な、何が?」
『傲慢の持ち主が、その資格を失ったのだ。何が何でも我を通したいという欲望が、相手に合わせる道を選んだ事で絶対性が失われた』
魔剣の保有には、それに応じた心があるのか。
強力な武器を失ったシュバインだったが、その顔にはあまりショックがない。かえって憑き物が落ちたかのように、穏やかになっていた。
「じゃあ行こうか、エイレス。君のことをもっと知りたいんだ」
エイレスもそれに素直に従った。レイラもそれに続く。これがシュバインにとって良かったことなのかは分からないが、何かが進み出したことは確かだろう。




