シュバインとの決着
レイラとの模擬戦を終えて、何とか型をなぞるくらいはできるようになってきた。しかし、以前のように踏み込む事はできてない。
「元々ガラハド流の中位の構えは、カウンターの戦法。相手を受けることを考えれば、自然と体は動くだろう」
レイラはそのように言ってくれるが、全然自信はない。素振りと型の鍛錬とを繰り返し、体に覚えさせるしかないのだろう。
僅か一週間の修行であったが、全ての基本となっていた。
エルフの駐屯する村までは半日、夜の森を移動するのは危険だという事で野宿する事になった。エイレスの事を考えたら、ラミアの宿に戻る気にもなれない。
マントにくるまる形で、木にもたれるようにして眠った。熊との格闘と、レイラとの鍛錬は思った以上の疲労を重ねていたらしい。気を失うように眠ってしまった。夜はフェネが見張りをしてくれていたらしい。
夜が明けてエルフの村へも、フェネの案内で進む事になる。頼りすぎてて悪いのたが、今はどうしようもない。村が見えたら、ゆっくり休んでもらおう。
昼頃にようやく村に到着、昼間は警備隊は巡回にまわっているらしい。エイレスは村のどこかにいそうだが、力ずくで取り戻すわけにはいかない。彼女がエルフの恨みを買うのは避けたい。
彼女が村を出なければならなかったのが、シュバインのせいだというのなら、彼をどうにかすれば村にも戻れるはずなのだ。
「傲慢……か」
己の力におごり、才能に溺れ、他人を見下すような印象だ。その魔剣は相手の増長を誘い、油断を作り失敗を犯させる。
同じ様な実力において、その力は脅威となるだろう。魔剣の持ち主には影響がなくて助かった。
逆をいうなら傲慢でありながら、シュバインは己を高める努力はしていたようだ。それは歪んではいても、エイレスの為でもあったのだろう。
「だからといって、相手を見ないのは違うからな」
警備隊が戻ってくるまでの間、様々な状況をシミュレート。ただ最後にはシュバインと一騎打ちで倒す必要があるだろう。
あの時、ほぼ勝敗は僕の勝ちで終わろうとしていた。しかし、それでもかなりの傷を受けて、結果として僕に掛かっていた魔剣による呪いが解けてしまった。
傷は避けられない。その上で一歩踏み出せるか、僕の中で恐怖が渦巻いている。
「また悩んでおるのだなぁ。ソナタの心は決して弱くはない。それでも躊躇があるとすらなら、己が傷つくのと、エイレスが傷つくのとどちらが恐ろしいかを考えればよい」
「それは……もちろん、エイレスを守りたい」
要は気の持ちようと言うことなんだろうが……。そこへ木の棒が飛んできた。咄嗟に魔剣でたたき落としていた。
「安心しろ、どんなに悩んでも戦士は体で答えを出す」
不意打ちはレイラの仕業だった。確かに体は勝手に動く。
「その、ありがとう」
「負けたら承知しないから」
最初に気づいたのは隊長だった。僕と目があって、にやりと笑った。その笑みは、嘲りではなく何かを期待するものを感じる。
「やはり来たか」
「ああ、魔剣にやられただけたからな」
何とか声に震えを出さないように答えた。隊長は後ろを振り返り、シュバインを呼んだ。
「お前もあんな決着じゃ、納得できんだろう」
「僕から逃げた相手なんて、どうでもいいですよ」
「そうか、次はお前が逃げてイーブンだな」
「なんでそうなるんですか」
「剣の勝負としてみたら、お前が負けてたからだ」
隊長が言い切った事で、シュバインの闘志にも火がついたようだ。
「分かりました。ちゃんと決着をつけましょう」
隊長が思った以上に分かってくれる人で助かった。あとは決着をつけるだけだ。あの時のように急な恐怖には襲われない。その代わりに、ずっと付きまとうような恐怖にさらされている。
「貴方の太刀筋は見極めました。もう負けることはないですよ」
「そうか」
短く答えて構える。ガラハドの教えを忠実に再現して、あとは体の動きに任せる。
「手がブレてますね。また逃げてもいいんですよ。心が折れた相手は雑魚ですからね」
「……」
僕は答えずに相手を見る。相手は剣を前に構えるフェンシングスタイル、その切っ先は常に揺れていて、手の震えを感じることはできない。
ダンッ!
シュバインは足を踏みならす。その突然の音に、僕は僅かに身が強ばる。そこへ鋭い切っ先が向かってきた。
手甲を撫でるように切っ先が走り、服の袖に穴を開ける。しかし、体までは届かない。一歩踏み込みが届いていない。
そうか、相手も怖いのか。
さっき隊長が言った言葉。剣の勝負では僕が勝っていた。シュバインは傲慢な態度を崩していないが、行動自体は慎重さがある。
『主よ、魔剣の真価はその感情だ。奴がそれを捨てて、勝ちを拾いにくるなら、我らは貪欲に食らいに行けばいい』
相手を食らう。
その覚悟が必要なのだろう。僕は改めて、シュバインの切っ先を睨みつける。
「ふん、昨日までの動きはなさそうだな。一度負けて逃げたのだから、そのまま失せればいいものを。二度と刃向かえないよう、敗北の証を刻んでやる」
言葉に頼らざるを得ないのだと、自分に言い聞かせ、ただその動きだけに集中する。
ふらふらと動くシュバインの剣が、一点に定まる。来る!
突き出される剣を手甲に当てようと動かす。しかし、その切っ先は途中で軌道を変えて、くぐり抜けてくる。それを手甲で追いかけようとして、思いとどまる。
「!?」
僕の左腕に、シュバインの魔剣が突き刺さる。しかし、それと同時に、シュバインの右腕をしっかりと掴んでいた。
そして右手の魔剣を振るう。シュバインは左手の小型な丸盾で攻撃を打ち払うようなスタイル。
近すぎる間合いでは太刀筋を見てからの防御は間に合わず、さらにはシュバイン自身の体が邪魔になる。
ミスリルの鎧は、魔剣を弾くがどんどんと傷は増えていく。自らの盾を打ち付け、更に傷を増やす。反撃の為の魔剣は動きを封じられ、シュバインは一方的に追いつめられる。
「こんなのおかしい。僕の剣は相手を貫いたじゃないか。それで決まりだろう!?」
「そうか」
僕はシュバインの眼前に切っ先を構える。盾を滑り込ませて防ごうとするが、それは自ら視界をふさぐことになる。
無防備になった腹に膝蹴りを食らわせ、前屈みになった後頭部を魔剣の柄で殴りつけた。
「勝負あり!」
エルフの隊長の言葉で、僕はシュバインの右腕を放す。今頃になって激しい痛みが、僕を襲い始めた。
「全く無茶しおって」
セラドがいち早く駆け寄り、治癒を行ってくれる。
「セラドがいるから怖くなかったよ」
「嘘付け、こんなに震えておるではないか」
立っているのも辛くなり、僕はその場で腰を下ろす。シュバインは、両腕をついて上半身を起こして僕を睨みつけている。
「隊長、僕の一撃の方が早く当たりましたよね」
「試合ならそれで勝ちかもしれんが、これは決闘だからな。実際、あいつが殺す気なら命はなかったのだぞ」
「そんなっ、決闘だからこそ、命のやりとりはおかしいでしょう!」
「今の子らはその程度の覚悟か、決闘とは命をかけるモノだったのだがな」
認識の違いにシュバインは愕然とする。
「こんなのはおかしい! ちゃんと命を取る気なら、もっとちゃんとやれた!」
「なら、もう一度構えてみろ」
僕はセラドに癒してもらった後で、シュバインの前に立つ。シュバインも立ちあがり、改めて構えようとしたところで気づく。
「あ、あれ、待て、違う……」
シュバインの手は、ガタガタと震え、武器を落とさないのがやっとの状態だった。
一連の攻防の中で植え付けられた恐怖。その抑えられない感情は、僕にもよく分かる。すでに戦う心を食われていた。魔剣が無くても、人の心は食える。
「ではエイレスのところに案内してもらおうか」




