動けぬ自分とやるべきこと
「ここにいましたか」
森の中でうずくまっていると、聞こえてきたのはフェネの声。獣人の感覚と偵察術による追跡は、僕の逃亡は許さないだろう。それ以上に、モンスターがいるかもしれないこの森を、逃げ回る勇気は僕にはなかった。
木を背にフェネを振り返る。
いつも通りの美しい顔に、少し心配げな表情。
「大丈夫ですか、マモル」
「ああ、元に戻っただけだからね。これが本来の僕だ、恐怖心を魔剣の力で抑えていただけ。もう戦うどころか、剣を握ることすら怖い」
震える手をフェネに見せる。
フェネはそんな僕にふっと表情を和らげた。
「そうですか、良かったです」
「ああ、もう僕に縛られる必要はない。どこでも自由に行けばいいよ」
「はい」
そういってフェネは僕の側に腰を下ろした。
「マモルはいつもどこか無理をしてるのは感じていました。その歪みの原因が分かって良かったです」
フェネは僕の肩を抱き、頭を撫でてくれる。優しくゆっくりと。温かな感触に、強ばっていた心までほぐされてしまいそうだ。
「僕がフェネを助けられたのも、魔剣があったから。今の僕じゃもう君を守れないんだ」
「ならこれからは私が守ります。セラドさんやレイラさんもいます」
「僕には守るような価値はないよ……」
「マモル、いくら強くても、私を助ける事はできませんでしたよ。私を助けたいとマモルが思ってくれたから、助かったんです」
「でも魔剣が恐怖心を食べていてくれたから……」
「マモルは自分が動けなければ、別の手段をとってただけだと思いますよ」
フェネは一度言葉を切って、僕と向かい合う。
「今、かつての私と同じ様な境遇になりそうな子がいます。マモルにそれを見捨てられますか?」
「あ、う……」
あの決闘は僕の負けとして、処理されただろう。そうなるとエイレスは、シュバインに連れ去られるのかもしれない。彼は傲慢の持ち主で、一方的な愛情でエイレスを見ている。助けた方がいいのだろう。
「でも、僕には戦うことは……」
『主よ、再び封じればよい。お主の恐怖心は人には大きすぎる』
「駄目だ、それじゃシュバインを相手にできない。レイラでも剣技では勝てるだろうが、切られたら精神に影響を受けるんだろう?」
『傲慢に切られれば、己の力を過信する。そこには隙が生まれるだろう』
「僕がやらないと……」
「はい、マモルならそうしたいと思うはずです。そこが私がマモルを好きな理由ですから」
フェネは僕を引き上げで立たせる。
「セラドさん達がこちらを探しています。合流しないと」
フェネによって決断させられた僕はまだ恐怖に縛られたままだ。魔剣には魔剣の持ち手でないと対抗できない。かといって、魔剣があれば勝てるという訳でもない。
あの時点で技量では勝っていたと思う。ただ恐怖が僕の心を縛る。そんな状況では、傷付く事を恐れる心では、到底勝てるものではないだろう。
「ふむ、呪いが解けておるな」
一通りの説明を受けたセラドは、それを確認する。セラドとの出会いを思い出し、少し笑えてしまう。
「ソナタは呪われておる!」
思わず口に出し、セラドに睨まれた。その顔は赤い。強引にもほどがある接触だったが、それが今に続いていた。
おほんと一つ咳をして、セラドがあの後の事を話してくれた。
「決闘自体はシュバインの勝ちとなったが、そこに議論の余地はある。あの時点でマモルの勝利は決定的じゃったからな。エイレスはシュバインに連れて行かれたが、再戦する事はできるはずじゃ」
「でも僕にはシュバインには勝てないよ……」
「ならば私が鍛えてやる。戦えるようになれば、あやつ程度マモルの敵じゃない」
レイラが名乗りをあげる。それしかないのか。僕が僕として戦い、シュバインに勝って、エイレスを解放する。
僕はレイラから特訓を受ける事になった。
「ここまでとはのぅ」
あれから数時間、何とか魔剣は握れているが、レイラと正対するだけで膝が震え、切っ先がブレる。
レイラの一撃で剣は飛ばされ、何度も拾いにいく。
「たらたらするな! 拾ってる間は安全だと思ってるだろう!」
レイラは声を張り上げ、僕にプレッシャーを与えてくる。その声にも体が強ばり、鉄拳を受ける羽目になる。
ガラハド流のスパルタを思い出す。あの時は感じなかった恐怖によるプレッシャーは、僕の心を苛んだ。
「駄目だ、やっぱり僕には無理だよ……」
「くっ」
レイラが怒りに顔を赤くして、僕はそれを見ることもできなかった。
レイラによる訓練はそこで中断となり、僕は一人で素振りを続ける事になった。
それをセラドやフェネが見ていてくれる。素振りではちゃんと体も動くようにはなった。人に向かうと駄目なのだろう。
「セラド、エルフ達の居場所は分かる?」
「この辺りの警備隊じゃから、詰め所も近くにあるばずじゃ」
「私が探してみます」
フェネは言うが早いか、森の中へと姿を消した。自分はでも動けず他人を頼るしかない。そんな自分に嫌気がさす。
「ソナタはソナタのやれることをやっておるよ。ワシも普段は見守るだけじゃしな。どうなったら、どうフォローするか。それをしっかり考えておれば、意外と体は動くものじゃ」
僕はそんな意見を聞きながら、素振りを繰り返した。
更新ペースが落ちて申し訳ないです。
なかなか筆が進まず苦戦中。
この作品で一番書きたい部分でもあるので、時間をかけるかもしれません。




