稼ぐ難しさ
タイトルをちょっと改変。あまり根暗感がだせてなかったので……
朝。
気候は春先のようで、昼間は暖かいが、明け方近くは冷え込むらいし。簡素な毛布一枚では、寒いくらいたが、温かい熱源が近くにあってそれほど辛くはなかった。
「ってか、無防備過ぎるだろう」
俺の方に頭を預けるように、一緒の毛布にくるまっているセラド。長すぎる前髪が流れ、睫毛の長い愛らしい目が見えている。
「顔立ちは整ってて、可愛いんだよなぁ」
その声が聞こえたのか、セラドの瞳がうっすらと開く。俺と視線があった。……はずだが、特に気にせず、俺の胸に顔を擦り付けるようにして寝直した。
寝るのかよ。
しばしの間があり、パチリと目を開ける。ギギギと油を差してないブリキ人形のような動きで俺を見た。
「にゃー、にゃ、にゃにゃー!」
毛布を引っ剥がして、ベッドから転がり落ちた。
「よく見ろよ、俺は動いてないからな」
ベッドから目だけ出して、こちらを伺うセラドに言った。
落ち着くまでしばらくかかりそうだったので、食堂に朝食をもらいにいく。堅めのパンと野菜の切れ端が浮いたスープ。野菜のサラダやベーコンは別料金らしい。安宿だから仕方ないか。
俺はトレイを持って部屋に戻ると、上着を着たセラドが髪を梳いていた。深い緑色の髪が、朝陽に照らされサラサラと流れている。こちらを振り返る瞳は赤と紫、なかなかに幻想的な姿だ。
「ほれ、朝食」
何かいうとまた暴れそうだったので、最低限の会話に留める。
朝食を終え、身支度を整えると詰め所に行ってみる。何らかの討伐依頼があるかもしれない。
金貨二枚、昨日一気に八枚稼いだから勘違いしそうになるが、日本の価値で考えると二百万だ。15人の盗賊を討伐した報酬は、金貨一枚。それくらいの仕事を二回こなすか、奴隷を売るかしないと金貨など見れないんじゃないか。
セラドを売れば金貨二枚にはなるか、処女っぽいし。まあ、やらないけど。
「あ、マモルさん。おはようございます」
昨日の兵士が詰め所にいた。
「昨日の盗賊のアジト、早馬で確認したら残党はいませんでしたね。雑貨なんかは残ってたんで、あれで全部だったみたいです」
こちらの意図を予測したのか、聞きたかった事を先に言われてしまう。
「何か討伐依頼はあるか?」
「そうですねぇ、残ってるのは難易度の高いものばかりで。グリフォン討伐とか、ワイバーン討伐とか……飛行系は難しいですね」
さすがの魔剣も当たらなければ意味がない。飛行系は俺も無理だろう。
「冒険者は普段、何をして稼ぐもんなんだ?」
「そうですね、輸送の警護とか森の巡回とかでしょうか。街の人の依頼なんかはあまりないのが普通ですんで」
「となると、魔物を倒した時のドロップ品とかになるのか……」
「そうですね、リャドの遺跡ならまだ魔物も残っているかもしれません」
話しぶりからしたら、そこももう狩り尽くされた遺跡らしい。都合良く新しい遺跡でも見つかる……なんてのも、ないよなぁ。
魔物を倒しさえすれば、稼げると安易に思っていたが、そうでもないらしい。魔物が多く住む地域は、当然人は近寄らない。人が街を作るのは、魔物の少ない安全な場所なのだ。つまり街の側に、稼げる場所などない。
「どうしたものか」
「稼ぐんでしょ?」
「稼ぐにも、相手がいないことにはなぁ」
『主よ、我の存在を忘れてはいまいか?』
「ん? 何かできるのか?」
『我は魔物の気配を探る事はできる。近くの森でも、多少の狩りはできよう』
そういえば、スライムを倒した直後に、ラットの居場所を教えてくれたか。
「じゃあ、行くだけいってみようか」
「ちょっ、何、独りでしゃべってるのじゃ!」
街近くの森、途中までは道も整備され、踏み固められた跡もあったが、少し入ると鬱蒼と木々が生い茂り、太陽も差し込んできていない。
魔剣に導かれるままに奥へと進んでいくと、寝袋のようなものを見つけた。半透明の袋状で、網の目のようなものが浮き上がっている。
「大蛇の抜け殻じゃな。魔法の触媒としてそこそこ値がつくぞ」
セラドは嬉々としてその抜け殻を回収していく。こいつの中身はどこだ?
太さは人がすっぽり入ってしまうほど。長さとしては途中で千切れているだろう。全長にすればいかほどの長さか。
蛇は意外と木登りが上手い。脱皮直後の柔らかな間は、いかな大蛇でも安全なところに隠れるだろう。
ガシッ!
近くの木を蹴ってみた。身体能力が上がっているので、思ったより大きく揺れる。木の上からはバサバサと折れた枝や何かの木の実など色々と降ってくる。
「い、いきなり何をするのじゃ!」
とセラドが叫んだ時に、それは降ってきた。黒く細長い影は、どさりと地面に落ちるなり、シャァァァアと威嚇声を発し始めた。
「外れか」
落ちてきた蛇は、3mほど。抜け殻の主では無いようだ。俺は魔剣ソウルグラトニーを抜いて、その蛇と相対する。セラドは腰を抜かしたように、尻餅をついたまま蛇から後ずさっていた。
蛇の基本的な攻撃は締め付け、対象に巻き付いて動けなくして丸飲みする。あとは毒があるかだが……攻めればわかるか。
一歩踏みだし、剣を振るう。
蛇は切っ先を綺麗に避けて、飛び上がってきた。蛇もジャンプできるのか。
驚きはしつつも、対処はできる。手首を返して切り上げると、蛇の体を両断した。残った頭部が向かってきたが、左手ではたき落とす。地面に転がる頭部を、剣で地面に縫い止めて息の根を止めた。
「これも持って帰れば換金できるのかな」
倒した蛇は、腕くらいの太さで3mほど。種類は知らないが、蛇の目模様の皮をしている。
「血抜きして縛れば、かさばらぬかな」
さっきは驚いていたセラドも、相手が死んでたら気にしないようだ。ちゃかちゃかと作業を進めて、荷造りしてしまう。
「とりあえず、何かするなら声をかけるのじゃ!」
「ああ、すまない」
セラドは他に落ちてきた物も確認して、色々と拾っていた。
「手慣れているな」
「村では森の散策くらいしかやることが無かったからな」
冒険者としての素地は、セラドの方がかなりありそうだった。
それからもしばらく森を探ってみたが、抜け殻の主は見あたらなかった。あれだけの巨体なら、移動するだけでも、かなりの跡がのこるはずなのだが。
街に戻って、拾ってきた物を鑑定に出してみる。抜け殻が銀貨五枚、蛇自体は銀貨一枚。木の実類は合わせて銅貨50枚ほどの稼ぎだ。俺の目標には遠く及ばないが、セラドの生活費には十分だろう。
「別の部屋を取れそうだな」
「え、や、別の部屋までせずとも、ベッドが別なら問題ないと……」
金銭的に考えればそちらの方が安いということだろう。今日は多少稼げたが、節約するに越したことはないのかもしれない。
ゲームのように敵を倒せばお金が増えるくらい単純だとありがたいのだが。
今のペースじゃ、フェネを買う代金は手に入らないだろう。
あの森に金になる獲物がいるのか、もっと情報を集めるべきか。魔剣のおかげで、生き物の気配が分かるのを活かさないと。
明確な結論のでないまま、その日は眠りに落ちていた。