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傲慢なエルフと逃亡

 お預けされたセラドが涙目で訴えてくるが、ここは心を鬼にして旅を続ける。

 エルフの村を出て、昼近くになりそろそろ昼食を食べる場所を探そうかとしていた頃だった。

 エイレスが俺の陰に隠れる様に移動し、目深にフードを被った。どうやら人目を避けたいようだ。

 前を見ると鎧を纏ったエルフの一団が歩いてきていた。どうやらエルフの警備隊が巡回を行っているらしい。

 エイレスのこそこそとした態度が、かえってその警備隊の目を引いてしまったらしい。

「そこの冒険者、少し待て」

 エルフの一人に声を掛けられた。俺としては特にやましいことはないのだが、エイレスはもしかして犯罪を犯してエルフの村から出てきたのだろうか。しかし、それならエルフの国に向かう時点で反対するか。

「なんでしょうか」

 大丈夫だと思いながら、丁寧に対応する。

「そこの者、フードを取れ」

 やはり目を付けられたのはエイレスか。名指しされたエイレスは仕方なくフードを脱いだ。

 ほうとエルフの口から感嘆の息が漏れた。エルフの中でもエイレスの美貌は、美人に入るらしい。

「なぜ顔を隠そうとした? 名前は何という」

「すいません、この者は声が出せませんので……」

 俺が横から説明しようとすると、一団の中から出てくる者がいた。

「エイレスか、エイレスじゃないか!」


 現れたのは少年とも言えるくらいのエルフだった。綺麗な金髪に緑の瞳、整った顔立ちと嬉しそうな笑顔。少年アイドルのような輝きがあった。

 そんな少年エルフに対して、エイレスは俺の背後に隠れて出てこようとしない。

「どうしたんだ?」

 対照的な様子にエイレスに問いかける。エイレスが返事を書き始めたところで少年の方が答えてきた。

「エイレスは僕の許嫁なんです」

 その言葉にやや衝撃を受けつつ、エイレスを振り返ると首を振りながらボードを見せてきた。

「単なる幼なじみで、そういう約束はありません」

 レイラが代読する。

「照れてるのかい? 僕は君を迎える為に騎士の試験にも合格して、今は警備隊の一員だ。もっと上も目指している」

 エイレスの方はブンブンと首を振って拒絶している。

「どうも君とエイレスの間では認識が違うようだけど?」

「村には同世代がいなくて、ずっと一緒だったんです。将来、立派になって結婚しようと約束しました」

 その言葉にエイレスは、筆を走らせる。

「シュバインが一方的に言ってるだけです。私は断ったのに、余りにしつこいので村を出る羽目になりました」

 レイラはやや呆れながらも代読してくれた。

「エイレスは昔から恥ずかしがり屋なので、皆さんがいるから遠慮しているんですよ。向こうで二人で話そう」

 シュバインと言うのだろう少年エルフが、エイレスの手を取ろうとすると、エイレスはそれを避けて俺の背後に回る。

「どうにも嫌がっているようにしか見えないな。それにエイレスは恥ずかしがり屋でもないと思う。自分の言いたいことはしっかりと伝えてくるよ」

「あんたに何が分かるんだ。僕はエイレスと60年一緒に暮らしてきたんだ。エイレスの事は僕が一番分かってるし、幸せにできるんだよ!」


あるじよ』

「ああ、分かってる。しかし、こうも頻繁に会うのは何かあるのか?」

『そういうモノはないはずだが、異世界からきた主には、そうした歪みがあるのかもしれんな』

「こいつは傲慢ってところか?」

『うむ、傲慢プライドだ』

「何をゴチャゴチャ言ってる。とにかくエイレスは連れて行かせてもらうぞ」

「何を勝手に。本人は嫌がってるんだ、聞くわけにはいかない。そちらの隊長さん、何とかならないのか?」

「個人の事に立ち入る気はないが、このまま長引かれても任務に支障がでるな。ここは決闘で決着するのが良かろう」

「は?」

「お主も剣士であれば、問題は己の腕で決する方が楽だろう?」


 俺とシュバインでエイレスの身柄を掛けて、決闘する事になってしまった。エイレス自身が戦うべきだが、魔道士であるエイレスが不利だ。さらに魔剣の持ち主でもある。

 俺としてもエイレスは大事な仲間で、失うつもりはない。

「相手は剣士の19Lv、幼く見えてもエルフじゃ。長い経験をもっておる」

 セラドのアドバイスに頷き、剣を構えた。

 相手は小ぶりの盾を左手に持ちつつ、魔剣を持った右手を前に構えている。折角の盾が身を守っていない。

 俺はガラハド流の中位の構え、左の手甲を前に両手で魔剣を持つ。

「はじめ!」

 エルフの隊長の声で、シュバインが仕掛けてきた。手先をしならせながらの刺突の一撃。線ではなく点による攻撃は、鋭く早い。その分、当たる面積は狭く、ガードする範囲も狭くて済む。

 手甲で切っ先を逸らしつつ、そのままカウンターで、魔剣の刃を走らせる。相手の盾もミスリルか、魔剣であっても容易くは切れないようだ。こちらの刀身にぶつけるように弾き、体勢を崩そうとする。

 俺は左手を放して、魔剣を持つ右手は弾かれても手甲は防御に残し、相手の攻撃に備える。

 フェンシングのような前後の動きと、手首でのコントロール。切っ先が鋭く動き、突き刺してくるのを手甲で弾く。

 その間に引き戻した右手で上段から振り下ろす一撃を、シュバインは盾で横に打ち払う。無理にこらえず一回転、そのまま横なぎに払った一撃は、シュバインが大きく下がって避けた。

 呼吸を整えようとするシュバインに、こちらから詰め寄って迫る。下段から斜めに切り上げるのを、盾に当てながらさらに下がる。そこを押し込み、上から両手で握った一撃。先ほどより早く重い一撃は、シュバインの盾をかすめながらも止まらず、鎧の胸部に傷を作る。

「くっ」

 苦し紛れに放たれた一撃は勢いもなく、手甲で弾く。ただその切っ先が、わずかに袖を裂いた。

「あっ」

 僅かに起こる心のざわめき。それを見てシュバインの突き。手甲で弾くが、切っ先をブレさせかすかな傷が、袖に刻まれる。

 本来であればなんて事のないかすり傷、ただ相手は魔剣。魔剣の能力は魔剣の持ち主には通じない。ただ魔剣の呪いを上書きはできる。

 ソウルグラトニーに食らわせていた『恐怖』の感情が揺らぐ。

 こちらの心を見透かした訳ではないのだろうが、ここが攻め時とシュバインは手数を増やす。当たっても大したことのない牽制の一撃。僅かな切り傷しか与えない攻撃が、俺に当たっていく。その度に、心が揺れて反応が鈍る。

「くっ」

 守りに入っては、受けきれない。相手の剣を払うように剣を振るうが、相手は手首を返してそれをいなし、逆にこちらの持ち手を切られる。

 は何をしている。

 なんで剣なんて持って戦っている。

 心がブレる。

 俺は一歩踏みだし、手甲で相手の右手を狙う。シュバインも左手を攻撃に使うとは思っていなかったらしく、一瞬動作が遅れて鍔に当たる。

 体勢が崩れたところに、右手を打ち込む。相手の鎧に傷を付けるがまだ浅い。勢いが弱ったところを盾で弾かれる。シュバインは胸を反らして避けながら、僅かな切っ先が、脇腹を狙って繰り出される。

 薄く振れた刃は、僅かに皮一枚を切っただけ。なのに、度重なる攻撃で綻んでいた暴食グラトニーの呪いが、上書きされた。

 魔剣の持ち手なので、相手の呪いは効かないが、俺は封じられていた感情に押し流される。


『怖い!』


 こちらの攻撃を無理に避けようとしてバランスを崩し、尻餅をついているシュバインを置いて、俺は走り出していた。

 怖い。

 なんで僕はこんなところにいる。

 なんで剣を向けあって戦っている。

 ここはどこだ。

 怖い。

 逃げるしかない!



 僕は森の木の根元で、頭を抱えて震えていた。

明確な目標が無いままに話を進めていたら

どうやって展開させるか分からなくなってきたので、

初心に戻って臆病な少年に戻してみました。

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