紅の傭兵団
翌日、兵の詰め所にサソリの尾と毒針を持っていく。
「えらく狩ったな。規定数以上は報酬は払えないよ」
「ああ、分かってる」
エイレス達が張り切り過ぎたせいだ。もしかすると他の人の稼ぎを奪ってしまったかもしかししれない。
「それとあんたに渡すモノがある。コレ、『紅の傭兵団』からの招待状」
「何?」
「安心しろ、昨日の奴じゃなく、正式に上からの招待だ。まあ、騒動のお詫びって事だと思うから、素直に行ってみればいいよ」
俺はその招待状を受け取る。確かに突っぱねても新たな火種になるだけだろうしな。
今日の夕方にはセラド達のローブもできあがる。ソレまでの暇つぶしにはなるか。
一応パーティーにも確認したが、反対意見はでなかった。
「ここか」
なかなか立派な二階建ての建物だ。宿屋などよりもしっかりとしている。
入り口には冒険者らしき衛士が立っている。こちらをじろりと見る目には、親しみは感じない。
「ここは紅の傭兵団のクランハウスだ」
「ああ、招待されて来たんだが」
招待状を見せると、署名や印章などを詳しく観察された。
「わかった、中へ入れ」
態度はあまり変わらないまま、中へと通された。建物の中もしっかりと作られていて、内装にもこっている。お金はあるんだろうと感じさせられた。
「本日はどのようなご用件でしょうか」
メイド服を着た女性が、応対に出てきた。黒髪をアップにまとめ、フリルのついたカチューシャが乗っている。黒のワンピースに、白いエプロンドレス。ウェイトレスもどきではなく、ちゃんとしたメイドのようだ。
「招待を受けてきたんだが」
「マモル様ですね、伺っております」
メイドには話が通っていた。これまた豪勢な応接室に通され、紅茶が準備される。パーティーの面々もこうした場所は不慣れなのか、落ち着かない様子だ……いや、レイラはいつも通り落ち着いているか。
やはり騎士として、色々とマナーは躾られているらしい。
「やあ、わざわざ呼び出してすまない」
応接室に入ってきた男は、気さくな様子で話しかけてきた。年は二十代半ばくらいか、鍛えられた180cmほどある体は、線が細く見えるくらい絞られている。
無駄のない体の運びに、強さが感じられた。この人が団長ということか。
「紅の傭兵団、カインズだ。この度は、うちの奴が変なちょっかいを掛けたようですまない」
「いえ、実害は無かったですから」
何か言いたそうなセラドを、テーブルの下で抑えて、団長に対応する。
「若いのにしっかりとしてるな。仲間もみんな優秀そうだし、何より美人揃いだ」
キラリと白い歯がこぼれるイケメンは、あの男のようにがっついた様子はない。これがモテる男の余裕か。
「今日はお詫びと友好の印に、簡単ではあるが、食事を用意させてもらった。ぜひ、昼食をとっていってもらいたい」
「なるほど、それは嬉しいですね。感謝します」
「いや、迷惑をかけたのはこっただからね。あとは食べてみないと、本当にお詫びになってるか分からないしね」
団長が立ち上がると、メイドの方から案内しますと、移動を促された。
団長が先導し、メイドが俺たちのサポートにつく。階段を上って二階に上がると、中庭が見下ろせるようになっていた。
そこは簡易の訓練場もかねているらしく、複数の団員が練習を行っていた。
「なかなかの連中じゃな」
具体的なレベルをいわないのは、メイドが側にいるからか。俺に絡んできたあいつも20レベルはあったし、中心メンバーは更に上にいるのだろう。
通されたのは中庭が正面から見下ろせる食堂だった。実際、普段から練習風景を見られるようにしているのだろう。
複数のメイドと、長テーブルには何人かの団員の姿があった。俺たちが入ると揃って席を立ち一礼する。
俺はテーブルの中央に案内され、右隣にセラド、左隣にフェネが座った。
正面には団長であるカインズ、その両隣にはかなりの美人が座った。大人を感じさせる女性たちで、今は胸元を強調した簡易なドレス姿だ。
「所詮俺たちは冒険者だ、堅苦しくしないで結構。リラックスしてくれ」
その言葉に、左右の美女が肩の力を抜く。やや動きかぎこちないのは、着慣れない服のせいのようだ。少し苦しそうにも見える。
「料理も気取ったものじゃない、いつも通りな」
俺たちよりも女性に対して言っているようだ。俺たちは何かに利用されているのかとすら思える。
「駄目だぁ、こんなのしんどいよ」
カインズの左側にいるやや日に焼けた女性が、弱音を吐いて崩れた。さすがにテーブルに突っ伏す事はなかったが、がっくりと肩が落ちている。
「マモル、すまんな。そっちが美人連れだと聞いて、こっちも腕と顔のいいのを見繕ったんだが、根か蛮族だったり、無愛想だったりしてな」
カインズの右隣の女性も、どこを見てるのか分からない表情で、出された食事には手を伸ばしている。
あえてこちらをリラックスさせようと、メンバーを揃えたのか。そもそも、カインズの狙いがわからない。
出てくる食事はこちらが女性が多いというと言うこともあり、軽めのおしゃれなものだが、味は良い。クラッカーに乗せて食べるチーズやら、鳥の皮を炙って照り焼きにしたものなど、量よりも種類が豊富に用意されていた。
セラドやフェネもそれぞれに合ったものを見つけて楽しんでいたようだ。
「満足してくれたようで何よりだ。そして、俺の思惑は無理そうだと納得したよ」
「俺たちを団に入れようと思いましたか?」
「まさに、ね。でも君たちは自由に過ごすのが良さそうだ」
「そうだな、狐人もいるし一カ所に留まることはできないよ」
「俺達も別にこの街に留まるつもりはなかったんだが、仕事を多くこなしているうちになぁ。気ままな旅もしたいんだが……」
「それは駄目です」
右側の女性が声を出した。
「守るものが増えすぎたな。まあ、そんな訳で羨ましいが、君たちを止めるつもりもない」
「はぁ……」
ある種の権力を手に入れた男は、独自の論理で動いているのだろう。俺は両手で守れる者がいれば、それで十分なのだが。
先ほどから視界に入っていた中庭の訓練場へと連れて行かれた。腹ごなしの運動らしい。
木刀を渡され、打ち込んでこいという。
「相手は53Lvじゃ、どうやってもかなわんぞ」
そんなに上か。かえって吹っ切れるな。
俺はカインズへと打ち掛かった。力でも速度でもかなわない。ならばもう一歩、更に深く、手数を増やし、木刀の取り回しが難しい間合いへと詰めいる。
「ふむ、臆せずつっこんでくるのか……だがっ」
カインズの手が閃く。視覚では追いきれない速度の一撃。ただ狙いは絞られる、間合いの近さから打ち込める場所は少なく、こちらに大きなダメージは与えたくないはずだ。
左の手甲を肩口への軌道に上げて、逆に振り下ろされる腕へ攻撃。とったと思った木刀がカインズの左手でつままれていた。指先で挟むように掴まれただけで、ピタリと動きが止まる。
さらにはガードした手甲ごと力技で、押し下げられた木刀で肩口を強引に叩き伏せられた。
「若くて無鉄砲だが、読みはいいな」
これがレベル差か、小手先の技量では小手一つ奪えない。
「死中に活とはいうが、大抵は恐怖で足が止まるが、君にはそれがない。それは強さではあるが、弱さでもある。守るモノが増えれば、自らの身を縛るかもしれんぞ」
剣士の先達としての意見を神妙に聞く。恐怖心は人に備わった防衛本能でもある。それを封じるということは、どうしても防御がおろそかになりがちだ。
脳裏に残る悪夢。
俺より強いモノに蹂躙される可能性はこの世界にいる以上、十分にありえる。が、それに怯えて過ごすつもりもない。
「ああ、気を付けるよ」
それだけを答えて、木刀を返そうとする。
「もう一人相手してもらえるか?」
その声と共に現れたのは、昨日絡んできた男。さすがに団長の前で、あからさまな敵意は見せていないが、瞳はこちらを見据えている。
「仕方ないか」
男のレベルは俺よりも上、だが渡り合えないほどではない。対人としての動きが単調に感じる。こちらのフェイントにあっさりと崩れ、それを反射と力で盛り返す。
(ガラハド師匠の指導のたまものか)
わずか一週間でも基礎を習ったのは、力だけで魔物を倒してきた男には負けない技を与えてくれていた。
「はっ!」
声だけで相手の身が防御にすくむ。それを見てから木刀を伸ばすと、相手は不利な体勢で受ける。受ける、受ける。一方的に押し込まれ、立て直す事もできずに肩口に一撃が入った。
「……!」
力量差を実感し、こちらを睨み歯を食いしばっている。
「まあ、そうだよな。君の剣には、師匠が見える。我流では一代、生きた時間だけしか経験はないが、師匠の経験も上乗せされると違いは大きいな」
全てを見通すほどの経験を積んできただろうカインズは、俺の動きだけでそれを察する。
「まだ付け焼き刃のようだが、それでもその差だ。君の剣はまだまだ伸びるよ。何かの迷いも、それで少しは晴れるだろうさ」
これが人をまとめる者の視点か。ありがたく受け取って頭を下げた。
また気楽に訪ねてくれと言われつつ、紅の傭兵団のクランハウスを後にした。
その足でセラド達のローブを受け取りにいく。新調したローブは、体にフィットしたシンプルな作りだが、それが女性の魅力をそのまま引き出している。
チャイナ服に近いワンピースで、スカートにはスリットが入っていて動き易さを確保している。それに加えて下に履いたタイツがちらりと見えるのも点数が高い。
「うう、う~」
セラドは自分とエイレスを見比べて、胸元を気にしているが、大きさなんて関係ないのである。ようはバランスだろう。
セラドの頭を撫でながら、ラミアの宿に戻った。
エイプリルフールネタは消そうかとも思ったんですが、話に組み込む方向にしました。
深層心理での警戒か、夢にはそういう不安の増大もあるようなので。




