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弥生の愚者

 ラミアの宿に戻ると、いつも迎えてくれるラミアが姿を見せなかった。風呂を入れに行ってるのかな。

 そう思いながらも、体はなぜか動かない。

あるじよ、現実は目を背けても去らぬぞ』

 冷酷な魔剣の声。

 俺は気づいていたが、視界に入れてなかっただけだ。

「わぷっ、どうしたのじゃ」

 妖精の輪から出てきたセラドに押される形で、二、三歩前に踏み出した。パチャパチャと濡れた音が響く。

「ら、ラミア!」

 セラドの声に下を見る。あるはずのないモノ。そう、モノになっていた。普段から裸身のラミアの胸元、そこには大きな穴が開き、大量の血液が辺りに広がっていた。

 焦点の定まらぬ瞳に、だらしなく開いたままの口。血の気が失せた唇は、青く変色していた。

 次々に妖精の輪を抜けて、メンバーが到着する。その誰もが予想外の光景に硬直していた。


「ああ、貴方はいつぞやの冒険者ですね」

 場違いな陽気な声、気さくな雰囲気。小綺麗な衣服は、革鎧から金属製の甲冑に変わっていた。

 軽薄そうな笑みに、底を見せない瞳。名前は知らないが、知った顔ではあった。

「貴様は強欲グリードの!」

「やはり気づいてましたね。嫉妬エンヴィもそうですが、魔剣の持ち主は、特別な雰囲気を感じます」

「貴様が、やったのか?」

「はい、この森のヌシだそうで、魔物討伐は仕事でしたし」

「ラミアが襲ってきたのか?」

「いえ? 何を思ったのか、フレンドリーに話しかけてきましたよ。魔物の癖に、何を考えているのか……外に風呂があるから入るかとか聞かれて、戸惑いましたよ」

「それで?」

「まあ、楽な仕事だと胸を貫きました。さすがにヌシと言われるだけあって、高度な水魔法を持っていました」


 仕事として、害意のないラミアを一方的に殺したのか。

「セラド」

「盗賊のレベル13、以前とさほど変わってないのう」

 その声には怒りがこもっている。

 俺は魔剣を抜きながら、一気に切りつけた。それを男はあっさりと受け止める。

「なんです、いきなり」

「ラミアは俺たちにとって、かけがえのない仲間だった。それをお前が殺したというなら、仇を討つまでだ」

「やれやれ、いくら美人だからって相手は魔物ですよ。過去には被害が出てるんです。風呂なんか作って、何を考えているのか……観光地にして、餌を集めようって魂胆でしたか?」

 ひょうひょうと答える男に、再度魔剣を叩きつける。レベルでは勝っているはずなのに、びくともしない。力で圧倒的に負けている。ならばと速さで、連続的に剣を叩きつけるが、ことごとくはねのけられた。

「いやはや、配下に加わってほしかったのですが、無理そうですね」

 次の瞬間、強欲グリードの右手が閃いた。それはガードという概念を思い出す前に、左肩を切断され、両太腿が大きく切られる。

「がっ」

 痛みというよりも衝撃、熱さだけが全身を駆けめぐる。立っていられなくなり膝を付く。

「マモル!」

 駆け寄ったセラドが治癒術を行おうと呪文を唱える。

「神術士は面倒ですね」

 トンッ。

 軽い音と共にセラドの声が止まる。その胸には銀色の刃が突き立っていた。

「な、あ……」

 目の前の光景が信じられない。いつも側にいた少女の瞳から色が失われていく。わななく唇は、見る間に血の気が失せていく。

「セ、ラド……」

 俺の震える声にこちらを見ようとして崩れ落ちた。

「そういえば、この方は見ただけで相手の能力を見抜ける人でしたね。《観察眼》貴重な能力をありがとう」

 そんなことを呟く男に、フェネが矢を放つが、空中で切り払われる。レイラが切りかかるが、その剣を絡め取られ、鳩尾へと魔剣の柄が打ち込まれた。

 突如、男を鋭い竜巻が包み、血煙が舞う……が、次の瞬間に男はその中から飛び出し、エイレスが斬り伏せられた。

「呪文は聞こえませんでしたが……ほう《無声魔法》ですか。これまた便利な能力ですね」

 そこへフェネが短刀を手に襲いかかるも、あっという間に床へと崩れ落ちる。


「マモルさん、愛されてますね。セラドちゃんも、エイレスちゃんも心の中は貴方で一杯でしたよ」

 残った右手を上げようとしたところで、肩へと魔剣が突き立てられた。そのまま仰向けに倒され、見下ろされる。

「セラドちゃんの能力は私のレベルしか見えなかったみたいですね。魔剣で奪った能力までは、サポート外だったのでしょう。私には、剣士50Lv、神術士38Lv、魔道士36Lvといった職業もあったんですよ」

 出血の多さから遠のきそうになる意識が、肩への痛みで引き戻される。

「安心してください、フェネちゃんとレイラちゃんは殺さずに可愛がってあげますよ。娼夫Lv45の技量でなぶってあげれば、すぐに従順になります。嫉妬エンヴィの様にね」

 男は目の前で手を振って、こちらの反応を確かめている。

「もう終わりですか。思ったよりあっけないですね。貴方は私を脅かす程の存在かと恐れていたんですが……買いかぶりでしたね」

 声がどんどん遠くなり、視界が闇に蝕まれていく。その中央で軽薄そうな笑みを浮かべ、男は魔剣を振り上げた。





「かはっっ」

 呼吸を奪われたような衝撃で目を覚ます。辺りを見渡すと傍らで寝ころぶラミアの姿。思わず胸元を漁るが、当然穴など開いてはいない。

「どうしました、マモル様。朝から愛してくださるんです?」

 妖艶な笑みを浮かべたラミアが、俺の首へと手を回す。抱き寄せられると、温かな体温が伝わってきた。

 紅の唇が俺に重なり、呼気を奪われる。

「ふふ、無防備なマモル様は可愛いですね」

「夢……か」

 ようやく気持ちが落ち着いてきた。こちらをのぞき込むラミアは、少し心配そうだ。

「すまない、変な夢を見たようだ」

「大丈夫ですか? 汗をかなりかかれてますよ。風呂に参りましょうか」

 ラミアは起きあがると、俺を抱き抱えたまま移動する。改めて魔物だという実感と、それでも人を襲わない知性とを感じる。

「ラミア、人には気をつけてくれ。お前が魔物だというだけで、殺しにくる奴もいるかもしれない」

「そうですね、気をつけます。早いところ、世継ぎも作らないと駄目ですね」

 そのまま風呂場で子種を搾り取られる事になってしまった。

エイプリルフールらしいネタを一つ。

こういう終わり方もありかなぁとか思わないでもないんですよね。

主人公があっけなく死ぬような……

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