新たな街と新たな装備
ノームの村を離れ、東へと向かう。三日ほどを移動して、ようやく次の街へとたどり着いた。
夜になればラミアの宿に戻って、風呂と宿とを利用できるので、この世界にしてはかなり快適な旅だろう。
途中、綺麗な花畑にでくわし、セラドの採取やドリスが遊び回っていると、植物系モンスターに襲われるハプニングはあったが、大事には至っていない。
セラドの洗髪剤も毎朝の様に苦心しているが、本人は楽しんでいるので問題はないだろう。
森を抜けた先にあった街『レスニア』は交易の街で、本来は東、北、南に道が伸びていて、それぞれの国を繋ぐ要所となっている。そのため、色々な旅人と冒険者も行き交い、活気のある街になっていた。
ついたのは夕暮れで、まずは夕食兼宿探しだ。いつでもラミアの宿には泊まれるが、せっかくの旅なので、その街に泊まるのも良いだろう。
「これは、鼻に、来ます」
フェネが食事を食べて涙目になっている。マスタードの効いた料理だったらしい。東から来た料理は、スパイスが効いていて、獣人には刺激が強いようだ。
南からはカンプランなどの街から来る道で、馴染みのある料理が並んでいる。
北は乳製品が多いのか、チーズやシチューのような温まりそうな物が多い。まあ、夏も近いので今はスパイシーなのを選んでみたのだ。
「そろそろマモルさんにも覚悟ができたはずです」
夜になり部屋決めの際に、エイレスの言葉をレイラが代読した。新たな街に来ることを契機に、次なる一歩を求められてしまった。
人はあらゆる種と交わる事ができる。それにはエルフも含まれ、エイレスもその覚悟を持って俺に接しているということだろう。
当然ヒトであるレイラも。
色々とあって仲が深まったセラドと、旅に出て不安感のフェネは、達観の様子を見せている。
俺が決断するしかないのだろう。
というか、二人との旅もかなりの時を重ね、十分に彼女らの魅力は分かっている。
そんな二人から求められて、拒絶する必要はない。二人を伴って夜を迎えることになった。
以前からの予行練習と、セラドにもらったというローションにより、初めての本番というには、濃厚な夜になってしまった。
レイラの鍛えられたしなやかな肢体と、エイレスの華奢だけど柔らかい体。それぞれに違う抱き心地に女体の神秘を感じさせられた。
今まで我慢させすぎたのか、互いに競うように求められ、なかなかに大変な夜になった。
「ソナタら、一晩で使い切るとかやり過ぎじゃ」
翌朝、セラドには呆れられてしまった。どうやら用法を間違っていたらしい。
疲労の残る朝、街中を散策する事にする。交易の要所だけあって、多種の品々が集まっている。
サラマンダーの群れを撃退した事で、それぞれがレベルアップしたので、装備品の向上も検討する。
ドロップ品の懐炎石は、レイラの剣にしてもらう事にした。やはり消耗品として使うには、懐炎石は稀少でもったいなかった。
街の武器屋に行くと、店の中で鍛冶を行っていた。といって、炉があるわけでもなく、必要な素材を合成で生み出す形だ。目の前でそれは行われ、刀身の赤い綺麗な剣が仕上がった。
「これ……本当に、私がもらっていいの?」
あまりの見事さに、レイラが戸惑っている。
「パーティーの強化は、皆の為だからね。是非使いこなしてくれ」
続けてフェネの武器も見に行く。矢よりは弓を強化するべきだろう。合板を使ったコンポジットボウという弓に、切れにくく弛みにくい魔法の弦をあしらった一品を購入。フェネの戦いに合うように、射程よりは取り回し易さを重視した小振りな弓だ。
「大事にしますね」
フェネも満足そうに弦を鳴らしていた。
「ワシの杖はあまり出番がないからのぅ」
セラドの回復魔法は、出番がないに越したことのない魔法。また、杖自体もかなり値打ち物らしく、当座は変える必要はなさそうだった。
なので先日杖を買ったばかりのエイレスと共に防具を見てみることにする。
「な、なんじゃこれは」
防御力の高いミスリルの金属糸を利用して作られたローブは、どうしても高価になるので、布の面積が抑えられていた。
アオザイやチャイナ服のような飾りは少なく、ボディラインの出る服になっている。
下もズボンではなく、脚にフィットしたタイツ仕様になっていた。
「これで本当に防御力が上がっておるのか……」
エイレスも試着してみて戸惑っている。そこから更に、体に合わせて調整するらしい。
外見は幼い二人がそうした色気のある衣装というのは、似合わないかと思ったが、なかなかに可愛い。単に俺がスケベなだけか。
「手触りは良くて軽い。伸縮性もあって着心地も良い。魔術師には良い装備なのじゃが……」
「俺はすごく似合ってると思うぞ、二人とも」
「お二人とも小柄なので、費用もそこまで高くなりませんよ」
店員の一押しもあって、ミスリルローブの購入が決まった。
俺自身も部分鎧の胸当てを、ミスリル製に更新した。全体でフェネの購入費が消えるくらいの出費にはなったが、命を守るためだし高くはないだろう。
セラド達のローブは、体に合わせた仕立て直しに二、三日かかるので、それまでは街に滞在する事も決まった。
今後の方針を決めるのにも、時間は必要だろう。
「このまま東に向かうと、少し砂漠などもある乾燥地帯。北は木々の多い森林が続く寒冷地か」
「やはり東に向かうと、あのような料理が増えるのでしょうか……」
刺激の強い食事に、獣人のフェネが少し心配している。
「砂漠ってなると、植物も減るよねぇ」
森の妖精であるドリスは、木々がないのが心配なようだ。
「その土地の植物はあると思うが。砂漠だとサボテンとかか」
「サボテン?」
食堂の店内を見渡すと、鉢植えがあった。
「ああいうのだよ」
教えてやると、ドリスは飛んでいった。元々好奇心の強いセラドもついて行く。
「北はエルフが多く住む地域みたいだね」
エイレスと筆談していたレイラが教えてくれた。
「エイレスの故郷もあるのか?」
エイレスは頷いた。その後、ボードにすらすらと文字を書く。
「故郷に帰る気はないし、寄って欲しくないそうだ」
「冒険者になる人間には、それなりの理由があるのじゃよ」
サボテンから戻ってきたセラドが代弁してくれた。
「トゲトゲだったー。大きさにもよるかもだけど、アレだと妖精の輪は作れないね」
東に向かうと、フェネの食事に妖精の輪が作れない。北はエイレスの故郷があって寄りたくないと。
「北といっても広いので、私の故郷は遠い……らしいよ」
「なるほど、それもそうか。ならこれから暑くなる季節になるし、北に向かうでいいかな?」
特に反対も出なかったので、今後の方針は決まった。
「よう、姉ちゃん。見ねえ顔だな、こっち来て話そうぜ」
フェネに絡むように、男が話しかけてきた。その顔は赤く、すでに酔っているように見える。
「お断りします」
フェネはきっぱりと言い切った。その返答に、男は引き下がる事なく、フェネの肩に手を置く。
フェネはそれを体の軸をずらすことで避けた。
すると男は酔いもあるのだろうが、バランスを崩してテーブルを激しく叩く事になった。周囲の目が集まる。
「姉ちゃん、余所者だからわかんねえのか。ここで俺らに逆らったらどうなるか……」
俺が出た方がいいかと、席を立とうとするのを、セラドが止めた。
「剣士のLv20じゃ」
「酔っ払いにレベルもないよ」
俺は席を立って、フェネの側に行く。
「うちのパーティーメンバーに何か用か?」
「ああ? 何だてめえ」
今言ったじゃないか。聞けよ、人の話。
「うちのパーティーメンバーに何か用か?」
仕方ないのでもう一回繰り返す。
「てめえ、田舎モンか。俺達が誰か分かってねえのか?」
「ああ、昨日街に入ったばかりだからな」
「だったら教えてやる。俺達は『紅の傭兵団』だ。この街で知らぬ者はいねぇ、一大クランだよ」
「そうか」
「じゃあ、この子は借りてくからな」
「何でそうなる」
「ああ? 俺に逆らうと言うことは、『紅の傭兵団』に逆らう事だぞ。分かってんのか?」
「いや、分からん」
「舐めてんのか、てめえ」
これだから酔っ払いは困る、説明の意味が分からない。
「とにかくうちのパーティーの子に手を出すな」
「貴様っ、わかった。そういう態度で来るなら、分からせてやるよ」
何でだ。因縁かけてきたのはそっちだろうに……この酔っ払いはやる気のようだ。店には迷惑かけたくないし。
そこでフェネが動いた。酔っぱらいに当て身を食らわせて、意識を奪ってしまう。
「申し訳ありません。早めに対処しておけば」
「い、いや、とりあえず、店の外に出しとくか」
俺は男を抱えて、店の外の壁に寄りかけておく。変に注目を集めてしまったし、会計を済ませてラミアの宿に戻ることにした。




