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決戦、火トカゲの巣

 いよいよ産卵所への襲撃を掛ける日。ノームには村の周囲を警戒してもらう。サラマンダーにそこまでの知能はないはずだが、もし村へ直接攻撃にくると厄介だ。

 ラミアとムートをパーティーに加えて、川へと向かい、下流を目指す。しばらくすると気温が高くなっているように感じた。

「サラマンダーの巣が近いです」

 先導してくれるのは、フェネだ。獣人としての鋭敏な感覚に、偵察術のスキルは、安心して任せておける。

 時折、するすると木に登り、視覚でも方向を確認。狐人なのに、猫科のような働きをしている。

「あと500mほどですね」

 思ったよりも近い。木々はあるので、視界が狭い。さらには、サラマンダーのいる地点の方が高いので、どうしても視認しにくくなっていた。

「ラミア、どんな感じだ?」

「そうね、これだけの水量があれば、ある程度は撒けると思います」

 作戦的には、ラミアの水流で産卵所までの道を作り、一気に駆け抜けて卵を破壊。後は臨機応変に逃げる予定だが、囲まれない様にするのが大事だった。



 フェネの指示を頼りに、ラミアが狙いをつける。ラミア自身も木に巻き付いて上半身を高くあげて、方向を確認していた。

 地上では、俺達も移動する準備を行う。気休めに川の水を浴びて、服を濡らす。

「先頭は俺とレイラ、セラドとエイレスを挟んでムートとフェネで後ろを警戒してくれ」

 皆が頷くのを確認し、ラミアに合図をしてもらう。

「いきます。多分、視界は一時悪くなるので、方向を確認してください」

 俺が指を丘の方に向けると、フェネが方向を確認して頷く。

 それを上から見ていたラミアが、呪文を詠唱し始めた。ラミアの周囲に水が集まり、大きな玉となって浮かび上がる。それが二つ、ラミアの腕の動きに合わせて、打ち出された。


 辺りが湯気に包まれた。サラマンダーが密集する事で温まった地面に、ラミアの水玉が落ちて、一気に蒸発したのだ。

 もうもうと白くなる視界の中で、丘を一気に駆け上がる。なだらかではあるものの、距離もそれなりにある。

 途中では逃げ遅れたサラマンダーが、もぞもぞと動いていたが、一撃だけ入れて駆け抜ける。後続も足を止めないようについてきているのを確認し、先を目指す。

 丘の上に出ると、辺りにはサラマンダーしかいない。

「そのまま正面、あと100mほどです」

 ばしゃんと、再びラミアの水玉が落ちて、蒸気があがる。気温も湿度も高く、長居したくない状況だ。

 白い靄の中、黒い塊が現れた。他のサラマンダーよりも一回り大きい。首を上げた高さが、俺と同じくらいあり、全長は4、5mはあるか。

 ラミアの水玉が三度、前方に落ちようとしたのを、目の前のサラマンダーが、たたき落とした。じゅわじゅわと水の蒸発する音が聞こえるが、目の前のサラマンダーは揺らいではいない。

「こいつが卵を守ってるのか」

「多分、その体の向こうに塊がありそうです」

「倒すしかなさそうだ」

 俺達は武器を構える。


 あまり広がると他のサラマンダーに絡まれる心配もある。最短距離を、短時間で攻めるしかない。

「エイレス、君の全力をぶち込んでくれ!」

 返事はないが信じるしかない。俺は正面からサラマンダーへと切り込んでいく。硬い頭に鋭い牙、時間を与えれば炎を吐かれる。左右の前足にある爪も無視はできない。正面から迫れば、簡単に振るっただけでも、引き裂かれそうな力がありそうだ。

 俺を追い抜くようにして、フェネの矢が胸元へと突き立つ。サラマンダーは頭を振り下ろしてこちらを睨みつけてくる。そして口を開ければ1m近い口に、びっしりと生えた牙が並ぶ。

 迫ってくる口に、魔剣を構えて受け止める。その喉の奥には、チロチロと炎が見えそうだ。

 昨日の悪夢が蘇る。口の大きさから言えば、左手はおろか全身が焼かれるだろう。

 しかし今日は仲間が近くにいる。レイラが共に口を押さえてくれて、無防備なそこへフェネの矢とムートの槍が突き込まれる。

 そして、俺とレイラが離れると、そこへエイレスの魔法が飛んできた。弱点を突く水魔法ではなく、自分の得意な風魔法。それがサラマンダーの体内で暴れている。

 レイラと少し離れて様子を見ると、大サラマンダーはどうと倒れて動かなくなった。

「流石だ、エイレス!」

 俺は大サラマンダーを避けるように先へと進む。そこには、白く丸いモノがいくつも転がっていた。

「少し可哀想な気もするが……」

 ここは心を鬼にして叩き潰していく。辺り一帯の卵を潰していると、当然のようにサラマンダーが寄ってくる。

 ラミアからの援護水玉も飛んできて、周囲は混乱に陥っていく。大量の水を浴びたサラマンダーは、動きが鈍くなる。

「セラド、卵を頼む。俺達はサラマンダーに対処するぞ。ラミアのおかげで動きが鈍ってる!」

 硬さまではどうにもならないが、攻撃速度も、回避速度も鈍くなってくれれば、かなり戦いやすくはなる。それぞれに目標を定めて、セラドには被害が出ないように、サラマンダーを撃破していく。

 やがて向かってくるサラマンダーも減り、徐々に包囲の輪が解けて、森の奥へと去るモノが出てくる。

「油断するな、あと少し、気合いを入れ直そう!」

 自分に言い聞かせるように叫ぶ。エイレスは魔法を使いすぎて、セラドの手伝いにまわっているが、他のメンバーはまだ戦えそうだ。

 ジリジリと去るサラマンダーが増えていくのを待ち、足下で生きているのがいないかを確認していく。

 丘からは生きたサラマンダーがいなくなり、村とは逆の方向へサラマンダーの群れは去っていく。

 その姿を見送り、ようやく気をゆるめて、その場に座り込んだ。


「これで最後じゃな」

 100匹程で形成されたコロニーで、産み落とされた卵は500個はあったようだ。殻もそれなりに硬く、セラドは石を拾って壊していたようだが、肩で息をするほどに疲れが見える。

「おい、セラド。怪我してるのか?」

 持っていた石や、割れた卵に赤いモノが見えた。

「回復役が怪我してちゃ駄目だろ」

 セラドの手を取り、水筒の水をかける。卵の殻で切ったのだろう、細かな傷がいくつもできていた。

「この程度、大したことはない。ソナタこそ、あちこち火傷しておろう」

「傷口から雑菌が入ることもあるだろ、まずは自分から治せ。セラドを治せる奴はいないんだからな」

「むう、しかたないのぅ」

 苦笑いしつつ治療を開始する。


 結局倒したサラマンダーは、大きい奴も入れて13匹だった。それぞれに1レベルずつ上がって、俺は16になっている。

 ドロップ品の懐炎石も三つほど見つかった。

「確か炎の武器を作るのにも使えたはずじゃ」

 俺の火傷の治療をしながら教えてくれた。ラミアの風呂以外にも使い道はあったようである。

「レイラかフェネの武器を強化できるといいな」

「私は盾を買ったばかりだし、フェネでいいんじゃないか?」

「私は補助役ですし、矢を加工するのは効率が良くないです」

 そうか弓ではなく矢を加工すると消耗品になるのか。

「まあ、慌てる事もないだろ。次の街で考えてもいいしな」

 ちょっとノームの村でゆっくりし過ぎてるのもあるし、次の街へ急ぐのもいいだろう。



 しかし、今日は流石に疲れたので、ノームの村で休む事にする。ラミアはやることがあると、宿の方に戻っていった。風呂でくつろぐのも魅力的なんだが、今日はノーム達と喜びを分かち合うのも大事だろう。

「マモル、感謝する。お前の活躍は、今後も村に受け継がれるだろう」

 ムートが声を掛けてきた。

「いや、ムートこそさすがの動きだったよ。撃破も一番多かったのは、ムートだろう」

「それはお前が守りに力を使っていたからだ。それに全体を見る目と、状況判断。一人で戦ってきた俺には無理だよ」

 そこで言葉を切って、俺を見つめる。

「正直、活躍して気を引きたかったんだが駄目だな。セラドさんを大事にしてやってくれ」

「あ、ああ」

 ムートほどの勇者だ。嫁には苦労しそうにないんだ、セラドは諦めてもらうしかない。


 夜はそのセラドと過ごすことにした。別にムートに張り合うわけではないのだが。

「実際の所、ムートはいい奴なんだよな」

「まあ、そうじゃろうな」

「セラドとしては気になる事はないのか?」

「ないのぅ。ワシは村に押し込められるのは嫌じゃし」

「でも子供が欲しくなったりしないか?」

「ん? 何の話じゃ?」

「ノームはノーム相手でないと子供できないんじゃないの?」

「そうか、異邦人じゃったな。ヒト族は、どの種族とも子をなせるぞ」

「へ?」

「ワシとソナタの間でも子はできる」

 そう言いながら体を寄せてきた。それって逆に責任感が必要な気がするんだが。

「ワシとしてはソナタとの子は欲しいが、まだ旅もしたいし、今のところは予行練習ということでも構わぬ」

「でもそれって……」

「その辺は神術でも制御できるゆえ、安心するが良い。だから、ちゃんと今日も愛して欲しいのじゃ」

 おおう、色々と都合が良さそうで不安になるが、セラドを信じるしかない。というか、ムートの件もあって、セラドの大事さを改めて認識していた。

 俺はしっかりとセラドを抱き留めた。

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