火トカゲの襲撃と負傷
「なんじゃこりゃー!」
セラドの絶叫で目が覚めた。見るとセラドの頭が爆発していた。ストレートだった髪が、アフロとは言わないが、ソバージュがあたったかのように、ちりちりと広がっていた。
涙目になったセラドは、櫛を通してみているが、梳いたくらいでは元に戻らない。
「セラド、治癒術を使ってみたらどうだ?」
「!?」
セラドは慌てて杖を取り出し、術を掛けてみる。すると膨らんだ髪が何とか収まってきた。
「よ、良かったのじゃ……」
何とか元の髪に戻って、セラドは安堵の息を漏らした。
しかし、パーマをあてたようになるとはな。治癒術で治ったということは、何らかのダメージがあったということか。パーマは髪に良くないとか言うし、似たような状態になったのだろう。
「どうも髪が痛んでしまったようじゃな。油分が取られすぎたのかのぅ」
セラドはめげずに原因を探っているようだ。魔法で治るのが分かったら、もっと色々試しそうだな。セラドの綺麗な髪が痛むのは忍びないんだが。でも折角始めたことだし、やり遂げても欲しいのだ。何とか協力できればいいんだけどなぁ。
ノームの村に戻ると、二日目でもさらにやる気になった村人が盛り上がっていた。
川の流れが変わると、サラマンダーの襲撃が減ったのも効果があるように感じたのだろう。
ただ個人的には、サラマンダーがこちらの動きに反応しないかが気になるところだ。もしこちらの行動を潰そうと動き出すと、多数のサラマンダーを相手にしなければならなくなる。
早めに工事を終わらせる必要はあった。
川の工事で大事なのは、上流からの水が途中で流れ出し、水量が減らないようにすることだ。できる限り、水量を保ったまま産卵所へと導きたい。
多少は川を深く掘る必要もあるだろうか。エイレスの水魔法も駆使してもらいつつ、その流れを整えていく。
しかし、恐れていた事が起きてしまう。
「群れが来ます!」
フェネでも把握しきれない数が迫っているようだ。
「工事しているノームの人は、一時退避! 俺達は進行を遅らせるぞ」
そう言いながら俺は走り出す。一度、引いている川の中へと浸かり、全身を濡らしてから群れへと向かった。
ざっと見ただけで十匹はいる。それがわさわさと足を動かし、迫ってきていた。
「レイラ、相手の炎を防ぐぞ。フェネとエイレスは遠距離から牽制、あまりばらけないようにコントロールしてくれ。ムートは離れた奴を足止めしてくれたら助かる!」
俺の隣にレイラが並び、フェネの矢がサラマンダーへと向かう。撃破するなら各個に叩きたいが、ノームを逃がすのを優先するなら、一カ所に固めて防衛戦をはるべき。そう思って指示を飛ばす。
「くるぞ!」
サラマンダーの何匹かが口を開いてこちらを向いている。そこから魔法の様な火の玉が吐き出された。俺は手甲で、レイラは盾。ミスリルの防御力をあてにしながらの迎撃だ、火の粉がはぜるとやっぱり熱い。
口を開けた所に、フェネの放った矢が刺さり、その動きをひるませる。俺達を避けて進もうとする奴は、エイレスの魔法とムートの牽制で足止めされた。
距離が縮まれば、ある程度戦うしかない。俺とレイラがそれぞれに周囲のトカゲの気を引き、他のメンバーが少しでもダメージを与える。
「きゃあっ」
囲まれると逃げ場は限られ、どうしても攻撃を受けてしまう。セラドがそこをフォローしてくれるが、そんなに長くは耐えたくない。
緊張する時間の中、工事の中心となるノームの声が聞こえた。
「俺達は十分下がれた、あんたらも早よう逃げぇ!」
「フェネ、エイレス、まずは川を越えろ。レイラはそれを待って後退、ムート追ってこようとするのを牽制してくれ」
ネットゲームの盤面を思い出
しながら、撤退の指示を出していく。防御の弱いところを抜かれないように、川を防壁に見立ててそこへ逃げ込むしかない。
身軽なフェネは素早く川を渡って木を登り、上から射撃を再開している。魔法を連発していたエイレスは、息があがっているらしく、足下が覚束ない。
「レイラ、エイレスを支えてやってくれ!」
「わかったわ」
「ムート……」
「わかっている」
レイラが抜けて下がりそうになる防衛線を、ムートが支えてくれる。さすがは歴戦の戦士だ。
「川を渡ったわ!」
レイラからの声を聞き、俺とムートも川へと下がっていく。目の前のしつこいサラマンダーを、少し威嚇するつもりで鼻先を叩こうとした。しかし、素早く首を振られて、切っ先が流される。上体が前のめりになった所へ、噛みつかれた。
「マモル!」
「大丈夫だ!」
セラドの心配そうな声に返事をする。サラマンダーの鋭い牙も、ミスリルの手甲までは食い破れなかった。咄嗟に差し出した左手を、ガシガシと噛みきれずにいる。しかし、その口内が赤くなり始める。
「ヤバッ」
その頭に魔剣を振り下ろし、叩くがなかなか頭は外れない。口内が熱くなって、左手が焼けそうだ。俺は更に何度か頭を殴りつけると、その内の一発がサラマンダーの目を捉えた。たまらず口を離して下がったが、同時に炎もはじけた。
手甲に守られた左手で、極力炎を防ぎつつ、尻餅をつくように川へと転落。追撃しようとしたサラマンダー達だったが、川の手前で止まってくれた。
そこへフェネとエイレスが攻撃を加え、レイラとムートが俺を引っ張り上げてくれた。
川の向こうから何発かの炎は飛んできたが、レイラがそれを撃ち落とし、かわりにフェネが矢を見舞う。しばらく止まっていたサラマンダー達も、ゆっくりと引き上げていった。
「マモル!」
セラドが掛けより、俺の傷口を見てくれる。手甲は硬く、しっかりと俺を守ってくれたが、剣を握るための手の部分は、革の手袋だった。サラマンダーの炎を受け止め、手の感覚は無くなっている。
セラドが必死に回復してくれようとするが、止血するので精々だった。
「今のワシでは、回復まではできぬ……」
「大丈夫、街に戻れば回復できるだろ」
無念そうなセラドに、俺は答えてやる。サラマンダー十匹に対して、こちらの負傷が左手一つなら上出来だ。
「サラマンダーもしばらくは戻ってこないだろう。ノーム達に作業を急いでもらってくれ」
「ああ、わかった」
ムートがノーム達を呼びに行ってくれる。多少回復して、むず痒くなってきた左手を抱えつつ、俺は立ち上がって周囲を見渡す。
川を境にサラマンダーは引き上げてくれた。やはり川を渡るには、それなりの覚悟がいりそうだな。その結果に満足する。
「フェネ、警戒を頼む。今度は戦わずに逃げるんで、早めに連絡をくれ」
エイレスも疲労困憊といった感じで座り込んでいる。魔法を使いすぎたのだろう。レイラがついて、水を飲ましてやっている。
ノーム達が戻ってきて、工事を再開してくれる。かなり気合いを入れてやってくれているのがわかった。
「ムート、俺はちょっと治療に戻る。ここを任していいか?」
ムートは森を睨みながら頷いた。
「エイレスも無理しないようにな、レイラは見てやってくれ」
そう言い残し、俺は現場を後にする。セラドはついてきてしまったが、仕方ないかな。
ドリスの力を借りて、ラミアの宿に戻り、そこから街へと入る。相変わらずの活気で、人が賑わっている。
セラドに案内されながら、治療院を目指した。
「すまぬ、ワシが至らぬばかりに……」
「いや、俺が油断したんだ。あれだけ鼻先の攻撃は避けてたのに、逃げるのに逸って手を出してしまった」
「ワシは見るしかできぬのが、辛いのじゃ」
「回復役がいるから、思い切った事ができるんだが……まあ、心配なのは仕方ないよな」
こればかりは、役割だけに割り切ってもらうしかないか。
「もう少しレベルを上げれば、高度な治癒も習えるのじゃが、それもソナタら任せじゃしな」
そういえばサラマンダーと戦った事であがってないかな。
「ステイシア」
確認してみると、剣士がLv15になっていた。ダンジョンでの最後が13だったから、二つも上がっている。
「昨日のサラマンダー撃退で、あがってる様だな」
「何?」
セラドも自分のを確認している。よく考えたら、パーティーを組んでるからそちらにも出ているか。
「おおお、上がっておる。13Lvなら、もう一つ上の治癒術も覚えれるのじゃ」
セラドが高位の治癒術を習い、それで俺の手は動くようになった。
「ありがとうな、セラド」
「いや、ソナタが気づいてくれたからじゃ。でも、無茶はせんでくれ、寿命が縮む思いじゃ」
「ああ、気をつける」
治してもらった左手で頭を撫でる。髪質も今朝の爆発から戻っているようで何よりだ。
俺達はすぐにラミアの宿へと戻る。街に行くときはあまり会話せずにいたので、ノームの村に戻る前に会話する。
「怪我はよいのですか?」
「ああ、セラドが治してくれたからな」
「では次は私の番ですね」
「何の事じゃ?」
「ちゃんと川を導いてからと思ったが、サラマンダーが群れで来るなら、もう来てもらった方がいいな」
「私はマモル様のお役に立てるのは、嬉しいのですよ。遠慮なく使ってください」
「水の魔法じゃ、ラミアが一番と思ったからな。協力してもらう事にしてたんだ。川の水があれば、以前に風呂を入れる時のような大きな水の玉も使えるだろうし」
「そのような事を考えておったのか……意外と策士じゃな」
セラドの俺に対する評価は脳筋だったのか。まあ、結構反射で動いてる部分が多いから仕方ないな。
「ノームって、ラミア見ても大丈夫かな?」
「知性があるのが分かってるから、大丈夫じゃとは思うが、確証はないのぅ」
「魔法を使うなら、人化の維持は難しいです」
「行って説得するのがいいだろ。その程度には、信頼も得られているだろうし」
ラミアを連れて川の敷設工事現場へと赴いた。既に人化は解いて、下半身が蛇の状態だ。
それを見たノーム達は慌てて隠れてしまった。やはり、魔物という認識なのだろうか。
ムートは流石に逃げることなく近づいてきた。
「すまんが、上着くらい着てもらえるか。ノームはそのように肌を露出せんでな」
すっかりラミアの裸身に慣れきっていた俺は、全く気がついてなかった。フェネから上着を借りると、ラミアに着せる。ノームも人間もラミアもあまり外見に大差はない、美人が裸身を晒してたら男としては直視できないよな……。
ラミアは川の方を確認し、フェネから産卵所の方向を確認する。
5mを越える蛇が這うように進むと、それだけで道ができている。多少は意識して固めているのかもしれないが、ノームに頑張ってもらったのが申し訳なくなるな。
「いえ、ある程度道を作ってくれてたから、やりやすかったのですよ」
ラミアはフォローしてくれる。何はともあれ、産卵所へと水を導くこともできそうだ。
「サラマンダーは夜行性じゃから、攻めるなら昼間がよいじゃろうな」
セラドの言葉に作業の目途をつけて、ノームの村へと引き上げた。村の方でもラミアが拒否されることはなく、一緒に夕食を取ることになった。美人が増えれば、場は華やぐ。ノーム達も意外と積極的にラミアと接しているようだった。
英気を養い、明日にはサラマンダーとの決戦となるだろう。セラドの治癒術が向上したのも大きなプラスだ。
ドリスの妖精の輪は、中途半端な時間に開いてしまったので、今日はラミアもノームの村で泊まりだ。普段とは違う雰囲気を楽しんでくれているようで何よりだ。
しっかりと休んで、明日に備えた。




