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小さな相棒

 ノームの少女は、こちらをぽかんと見返している。俺がそんな無理難題をふっかけると思ったのか?

「とりあえず髪飾りからだな、案内してくれ」

「へ、そ、そんな、ワシはまだ、知り合ったばかりで、プレゼントを貰うとか……」

「誰がお前のを買うと言った。知り合いに贈るんだよ」

 はっと顔を上げて、慌てて顔を逸らす。この子、かなり自意識過剰なのか?

「わ、わかっておる。こっちじゃ」

 なんか右手と右足が一緒に出てるが、それがノームの歩き方か……あ、転んだ。


 四等区にたどり着く頃には、何とかノームも落ち着いてきた。辺りを見回しながら、こっちだと俺を招いてくれる。

「そういえば、名前を聞いてなかったな」

「ワシのか? そうじゃな、ここから人通りも多くなるし、パーティーを組んでおくか」

 ノームが何かを呟くと、視界の右側に何かが現れた。意識を向けると、そこには『パーティーに誘われました。参加しますか?』の文字が。先程のステイシアといい、ゲームなのかと思ってしまう。とりあえず、はいと意識すると、右手の辺りにパーティー情報というのが出た。

「セラド……」

「うむ、無事にパーティーを組めたようだな……マモルよ」

 当然、相手からも俺の名前が見えるようだ。セラドの情報としては、神術士Lv3とあり、女性・28歳とあった。

「28……!?」

「ふふん、ワシの方がかなり先輩じゃろ?」

 俺は今17歳なので、一回りも違う感じか。見た目は十歳そこそこなのに。

「ほれ、あそこがアクセサリーショップだ」


 セラドの年齢に衝撃を受けている間に、目的地へとたどり着いていた。ショップといっても、道ばたに商品を並べた露天だ。

「明るい髪色に似合う髪飾りがいいな」

「歳は?」

「十五、六かな」

「ふむ、とすればあまり豪奢なのではなく、可愛い感じがよいな」

 と子供に言われてすごく違和感はある。でもまあ、俺が選ぶよりは参考になるだろう。

「これなんかどうじゃ?」

 赤い花をかたどった髪飾りで、それほど大きくもなく、派手すぎない。髪に刺す感じで使うようだ。

「ふむ……良さそうだな」

 値段も手頃で、丁度良さそうだ。

「これと、あとこれも別に包んでくれ」

「あいよ、銀貨二枚ね」

 エリザベスへの贈り物が銀貨一枚半、残りは銀の櫛を包んでもらった。

「ほい、これ」

 櫛をセラドに渡す。

「ふぇ!? な、なんじゃ!?」

 酷く驚いた様子で慌てた。

「もう少し買い物につきあってもらうから、その報酬だ」



 それから二人で街中を巡った。とりあえず、旅に必要そうな一式を揃える。あとは防具。動きにくくなるのは嫌だったので、部分的に補強する胸当てや小手などを革で揃えた。金属の方が安心はできるのだろうが、ガチャガチャいうのは性に合わなかった。

 その間にセラドについても少し分かった。職業の神術士は、神の力を行使して呪いを解いたり、癒しを与えたりできるらしい。あと固有スキルとして《鑑定眼》というものを持っており、物の本質や人のステイシアを確認できたりするらしい。

 事あるごとに自分の有用性をアピールしてくるのは、売り込んでいるのだろうとは思う。

 夕方前には村の商人に会いに行き、エリザベスへの贈り物を頼んだ。またそのうち会いにいけるだろうか。

 さすがに歩き詰めで、疲れも出ていたので、宿の方を決める。酒場兼食堂の二階が宿という、冒険者御用達の店だ。

 酒場の方はかなり賑わっていて、うるさくなっていたので、軽食を頼んで部屋に戻る。

 そこには当然のようにセラドが付いてきている。もう買い物も終わったし、別れてもいいはずなんだが。

「いつまでそこにいるつもりだ?」

「え、しょ、食事くらい、いいじゃろ?」

 まあ成り行きで二人前頼んだから、問題はないが。部屋は一部屋の値段なので、セラドの分は入ってない。

「まあ、今日は助かったよ。ありがとう」

「そうじゃろう!? ワシの価値が分かったかな?」

 殊勝そうな態度から、一転嬉しそうに喜ぶ。そういうところは見た目のまま、子供っぽい。

「じゃから、これからもワシがついて、アドバイスしてやろうぞ」

 などと調子に乗ってくる。

「部屋は別に取るのか?」

「いや、片隅にでも置いてもらえれば……」

 昼間一緒に行動して感じたが、セラドは金を持っていないんじゃないかと思う。

「女が男の部屋に泊まる意味をわかってるのか?」

「え、や、人間にとって、ワシは子供みたいなもの、だろぅ?」

 しどろもどろにうろたえる。

「でもノームの大人なんだろう?」

「もちろん、ワシは立派な大人じゃ」

 胸を張って応える。

「なら試してみるのも構わないかな……」

「や、その、ワシは、いきずりで、そんな、ええっと……」

「わかった、わかった。その気がないなら構わん」

 俺としても無理やりどうこうしようとは考えてなかった。ポンポンと頭を叩いて、席を立つ。

「ど、どこへ行くのじゃ?」

「今夜の相手を探しに」



 宿を出ると辺りはすっかり夜になっている。酒場はますますの盛り上がりを見せており、街角にはコールガールの姿も見かけるようになっていた。

あるじよ、止めはせんが、おすすめもせんぞ?』

「わかってるって、俺も買うつもりはないよ」

 昨日の今日でそんなに餓えてる訳でもない。少し気になった事を確認に行くだけだ。

 トテトテと足音がついてくるが、それもひとまず置いておく。

 四等区は冒険者相手の露天が多かったが、三等区は店舗を構えた商店が多い。それらも多くは店じまいしており、開いてる店舗は僅かだ。

 三等区にも娼館はあるようで、少し高級な建物には煌々と灯りがついている。こういうところなら、病気やぼったくりといったマイナス要素も心配なくなるんだろうが、今日の目的はそれじゃない。

 しばらく歩いて、目的の場所を見つけた。

『奴隷商か……』

「売ることができたんだ、買うこともできるだろ」

「こんな、大人な店……」

 セラドが隣で店舗を見上げて呟いている。

「宿で待ってていいんだぞ」

「わ、ワシは大人だし、《鑑定眼》も役に立つかもしれんぞ?」

 それはそうか。ステイシアが確認できると強さとかもわかるのか。

「じゃあ、好きにしていいよ」

 まさかここから一人で帰るのが怖いとかないよな。


 奴隷商は夜でも普通に営業していた。小綺麗な店舗で、目に入るのは受付だけだ。可愛い感じの女の子が、立ち上がってお辞儀する。

「本日は、ご購入でしょうか?」

「一通りの説明を聞きにきた」

「初めての方ですね、担当が参りますのでこちらでお待ち下さい」

 応接室のような個室へと通される。その接客は丁寧で好感がもてる。役所との繋がりもあるし、信用度も高い。セラドは革張りのイスにちょこんと座り、固まっている。

 こいつの《鑑定眼》を信じていいものやら。

「お待たせしました」

 現れたのは三十ほどの女性。銀行員を思わせるピシッとした身なりをしている。

「まずはお名前を伺ってもよろしいでしょうか?」

「冒険者のマモルだ」

「はい、マモル様ですね。確認がとれました。今日は説明を伺いたいとの事でよろしかったでしょうか?」

「ああ、まずは一通りの説明を頼む。利用するかはそれからだ」

「はい、それでは始めさせて頂きます」


 あらかじめマニュアルが用意されているのだろう。女性の説明は分かり易く、スムーズに進行される。詰め所との繋がりでの信頼性と、奴隷契約の仕組み。主に犯罪者や借金の形に奴隷になった者が多く、契約を結んだ時点で魔法的な繋がりができて、容易に裏切れないこと。また、雇用主側にも極度の虐待は違反であり、衣食住の提供、人頭税の納付など義務も伴うことが伝えられた。

「遅くなりました。お茶でございます」

 ティーポットを持った女性が部屋に入ってきた。受付や目の前の女性と違って若く、服装もウェイトレスのような魅せる格好をしている。

 黒を基調に、胸元だけが白のブラウス。よりその大きさが強調される服装だ。スカートも短く、白い太腿がほとんど晒されている。

 ストレートの銀髪は艶やかで、腰の辺りまであり、瞳は力強さを秘めたつり目がちで、長めの睫毛。表情は乏しいようだが、掛け値なしの可愛らしさ。成長すれば、かなりの美人になるだろう。

 そして何よりの特徴として、頭の上に三角の耳、スカートの裾さらふさふさとした尻尾が覗いている。

 人数分のお茶を入れ、彼女は入口付近に立つ。

「奴隷には、用途に応じて職業やスキルがあります。農家には、ファーマー系、商家には、算術系といった感じで」

 護衛目的なら、戦闘系。冒険者には、用途に応じた職が用意されているらしい。

「お気づきでしょうが、彼女もまた商品の一人です」

 直接紹介するのだ、目玉商品なのだろう。

「獣人か」

「しかも狐人こじんじゃ、敏捷性はもとより、知能や魔力にも優れた一族じゃ」

「さすがノームの方は、お目が高いですね。彼女は、獣戦士の職で、偵察術などにも長けています」

 セラドに確認してみると、確かに頷いた。

「かなりの掘り出し物なので、金貨十枚の値が付いています」

「き、金貨十枚!」

 セラドが目をまわさんばかりの驚きようだ。一千万相当か、確かに高いようだが、ヒト一人の値段としては安いような気もする。

「さすがに持ち合わせはないぞ」

「はい、それでは他の者も紹介しましょう」


 応接室を出て、地下へと降りていく。廊下にはランタンが掲げられ、かなりの明るさが維持されている。檻に遮られた個室は、牢屋の様に見えるが、中はそれなりに充実している。ベッドや姿見、クローゼットなどもあり、ホテルの一室のようだ。嫌な臭いも全くない。快適な住環境が提供されているのだろう。

 その部屋に住むのが商品。ここにいるのは、十代の女性ばかり。俺のニーズを読んでの事だろう。

「身の回りのお世話なら、誰もが一通り行えます。職業等は申していただければ、お答えいたします」

 皆、付き従う狐人と同じ格好をしていて、なかなかに見目麗しい。こちらを見て微笑む者などもいた。

「戦える者は?」

「そうですね、この辺りが戦士、狩人、偵察兵スカウトといった者で、冒険者としての経験もあります」

 案内の女性が逆を向く。

「こちらは後衛職、魔術師や神術士などになります」

「レベルは?」

「3~5といった辺りです」

 檻にはいくつか札がつけられていて、値段は金貨5枚ほど。

「赤や青の札は?」

「性行の経験があるかどうかです。赤が処女、青は経験者でございます」

 顔色変えずに説明するのはさすがか。セラドの挙動は怪しくなっている。赤の方が比較的高いのは、それを求める人が多いということか。

「ちなみに、フェネも処女にございます」

 狐人を示して加えた。


 一通り見せてもらって応接室に戻る。やはり目玉というだけあってフェネという狐人は飛び抜けた印象はある。戦闘もでき、偵察もこなせるので、冒険者として重宝するだろう。

「なるほどな……十枚か」

「マモル様ならすぐに達する額かと」

 そうか一冒険者にやけに親切だなと思ったら、盗賊を捕まえた話が通ってるのか。それで金貨十枚、ギリギリのラインか。足元を見られている可能性もあるが、どちらかというと経済力に合わせた紹介と見るべきか。

「明日より、一週間はマモル様に優先権を発行出来ますがどうしますか?」

 手付けに一割、金貨一枚で予約。乗せられてる感はあるが、欲望のままに進むと決めたのだ。金貨を払い、奴隷商を後にした。



「あの娘を買うんじゃな」

「直近の目標はそれになったな」

「ワシはどうしたら……」

「そもそも何をしたいのか知らないしな」

「ワシは、閉鎖的な村を出て、色々見聞きしたかったのじゃ」

「じゃあ、それをやればいい」

「でも旅をするには金がかかって」

「じゃあ、稼げばいい」

「でもその為には力が必要で……」

 とぼとぼと歩くセラドの頭をくしゃくしゃにする。結局は、そうしたいじけた態度が原因ではあったのだろう。やって欲しい事はあるのに言い出さない。可愛い女の子ならまだしも、意気地なしの男の子。かつての自分はいらつく奴だった。

「な、何をする!」

「どうしてお前は、そんなに迂遠なんだよ。俺に手伝ってほしいんだろうが」

「手伝ってくれるのか!?」

「わからん」

「そんな無責任な……」

「何をするのか、いつするのか、どうやってするのか分からないのに、手伝うって言う方が無責任だろ。まずお前が何をしたいか決めろ。手伝えそうなら手伝うかもしれんし、やらんかもしれん」

「なんじゃそれは……」

 そういいながらも、セラドにも一つ区切りはついたのだろう。苦笑めいた笑みは浮かんでいる。

「それまでは俺を手伝え、金を稼ぐ」

「なんじゃそれは」

「お前、宿代すらないんだろ?」

「う、そ、それはじゃな」

「だから明日から稼ぐ、俺はフェネのため、お前は生きるため」


 宿に戻ると居候はいそいそと部屋の隅へ移動した。やはり宿代がないのを指摘したのが気になったのだろう。

「こっちきて、寝ればいいだろ」

 ベッドの隣を叩いて、呼んでみる。

「ワシはいい、ここで寝る」

「何もしないって、約束するから。明日から仕事するのに、変な疲れが残っても困るだろ」

 もそっと動き出すのが分かった。

「し、仕事の為なら、仕方ないのぅ」

 いそいそとベッドに上り、横に収まる。あまりに無防備な様子に、いたずら心がくすぐられる。

「上着は脱がなくていいのか?」

「そうじゃな、しわになってしまうの」

 あっさりと脱いで薄着になって、肌着一枚の姿で横になる。七分丈の簡素な上下で色気はないな。

 ふにふにとその小さな胸元を触ると、確かに柔らかな膨らみはあるようだ。

「にゃー、にゃにもしにやいって!」

 ゴロゴロとベッドの淵まで転がって、背中を丸めた。

「あんまり信用されても困るんでな。俺は男で、お前は可愛い女の子なんだからさ」

 ふるふると震える背中に伝える。その小さな頭を少し撫でてやるが、振り払われた。

「まあ、明日からは頼むぜ、相棒」

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