パーティーに売られた少女
夜が明けた。フェネもセラドも可愛かった。まだ来ぬエルフに対抗した訳じゃないだろうけど、やはり気になるのかな。
そういえばと思って、兵の詰め所に寄っていく。救助要請に応えた形なので、報酬があったはずた。
「マモル様ですね、ロイド様のパーティーの救助要請に応えた件で、銀貨20枚の報酬があります。あと宿場町で届けられた盗賊の販売価格が、金貨四枚でした。併せて支払わせて頂きます」
そういうのもあった。忘れるところだ。ラミアの財産もあって、どうにも金にルーズになりがちだ。ちゃんと管理しないとな。
パーティーのメンバーに、それぞれ金貨一枚を渡しておく。
「え、な、何!?」
「盗賊を捕まえたお礼だって。レイラも一人相手してくれただろ」
その理屈でいうとセラドは何もしてないことになるか。いや、最初の戦力分析は偉大なんだけどね。相手がLv30とかだとヤバいわけだし。
「あんな無様な戦いで、こんなにもらうわけには……」
「そんなに俺のパーティーにいるのはイヤか?」
「え、なぜ、そんな?」
「パーティーの報酬は均等に分ける。それがイヤなら、一緒の……」
「この馬鹿は放っておいて、受け取るがよい。変なところで意固地じゃからな、付き合ってると損をするだけじゃ!」
セラドが間に入って、レイラに話している。俺としては大事な話のつもりだったんだが。
「マモル、貴方の考えはわかりますが、相手の気持ちも考えてください」
フェネにまで俺が説教される形に。金にルーズになるのはダメだと、ちゃんとしないと、と思っているだけなのに何故だ。
こうなるとフェネとセラドを相手に俺がどうこうできるはずもなく、レイラも報酬を受け取ったので、話は終わってしまった。
ダンジョンは十階層から探索だ。レイラとフェネに任せる形で進めてもらう。俺は昨日の戦いで、ある程度は掴んでいる。
そういえば変異種の話もあったな。
「セラド、変異種って知ってるか?」
「魔物に稀に生まれる奴じゃな。ダンジョンは特殊な環境ゆえ、生まれやすいのやもしれぬな」
二槍のリザードマン、ああいうのが他にも生まれるとすれば、レイラやフェネを守らなければならない。
「まあ、ダンジョン内でもそう起こる事でないから、昨日のような事になるのじゃろう。万一に備えるのは大事じゃが、気にしすぎてもダメじゃぞ」
セラドのこういう年長者ぶりは、どこで培われているのか。ベッドの上ではあんなに幼いのに。
「また変な事を考えておるな。ソナタは顔に出やすいから、交渉はできんなぁ」
レイラとフェネのコンビもかなり様になっていて、次々とリザードマンを撃破していった。
そのままボス戦へとなだれ込む。一回り大きなリザードマンが、穂先が刃になったグレイブというか、薙刀というか、そういった武器を振り回していた。
「どうする?」
「やらせてください!」
「フォローします」
レイラは朝の一件から、報酬に見合う活躍をする事で、報いる事に決めたらしい。俺としては無茶はして欲しくないが、元々は彼女の修行の為のパーティーだ。反対はしない。
「では任せた」
二人は一気に攻めかかる。フェネの矢で牽制し、それを薙刀で切り払うところに、レイラが間合いを詰める。柄の中心を握り、回転させるように接近を防ぐ相手に、その軸へと打ち込むように攻める。回転を止めて、レイラの剣を受ければ、フェネの矢が飛び、無理に避ければレイラが追撃。見事な連携でリザードマンを追いつめていった。
「見てるだけって辛いな」
「ワシはずっと思っておるよ。昨日は特に肝が冷えた。マモル、ソナタは強いが、死なぬ訳ではない。覚えておいてくれ」
戦闘中というのに、ピトリと頭をくっつけてきた。そこは昨日、あのリザードマンに貫かれた場所だ。
「ああ、気に止めておく。俺を想ってくれる人が居る事をな」
「ま、また、そんな、言い方を!」
久々に顔を赤くわたついたセラドを見れて満足した。その頃には、レイラとフェネがボスリザードマンを撃破。こちらを見て渋い表情をしていた。
「ダンジョン内でいちゃつかないでください」
「そ、そうではないのじゃが……」
フェネの追求に、セラドが押されている。
「11階層からは情報なしだな、気をつけないと」
俺に飛び火しないうちに先に進む事にする。11階は少しダンジョンの雰囲気が変わって、石造りの壁から石の柱が立ち並ぶ、少し広い空間になっていた。
「これは見通しは良いけど、逆に向こうから狙われそうだな」
「壁に矢傷が見られます、注意してください」
フェネの注意を受けて、壁伝いに進む事にする。
『主よ、既に狙われておるな。右前方』
魔剣の声と共に、左手を掲げるとそこに矢が跳ねる。フェネがすかさず撃ち返し、その間に間合いを詰める。レイラも一歩遅れて続いた。
「フェネは、セラドの警戒も頼む。こいつら、ゴブリンみたいだ」
柱の影には、ゴブリンが複数いた。弓を持った奴の他に、短めの剣を持ったのが三匹。柱から飛び出しながら切りかかってくるが、間合いさえ間違えなければ遅れは取らない。俺が二匹、レイラが一匹を仕留め、弓持ちにはフェネの矢が当たっている。呻くそいつに止めを刺して、フェネ達と合流する。
「ゴブリンがパーティーを組んでる感じか」
「柱の影に入られると厄介じゃのう」
盾持ちはいないので、警戒するのも難しい。
「セラドに盾でも持たさないとだな、どんくさいし」
「どんくさいわけではないぞ、戦闘職でないだけでっ」
何にせよ、回避能力がないのは心配だ。街に戻ったら検討だな。ゴブリンの矢自体は、警戒してれば弾くなり、切り落とすなりできるとは思う。
早めに探索するのがいいだろうと思い、壁伝いに進みながら、いくつかの襲撃を退け、ボス部屋へとたどり着く。
ボス部屋にはホブゴブリン二匹に、小剣ゴブリン二匹、弓二匹、あとは魔法使いか? 杖を持ったゴブリンがいた。
「俺がホブゴブリンを引き受けるから、レイラが小剣、弓はフェネがやってくれ。セラドは負傷者を素早く回復」
「任せるがよい」
「フェネの影に隠れて、自分がダメージ受けないようにな!」
反論は聞かずに飛び出した。ホブゴブリンは1m80cmほどの巨漢のゴブリンで、腕も長く力も強い。その代わり動きは単純で、攻撃はしやすい。体力は多いが、魔剣の前では関係なった。
手にした棍棒を力任せに殴ってくるのを手甲に当てつつ、懐に飛び込めば楽に切れる。二太刀もあれば、意欲を削ぐには十分だ。二匹のホブゴブリンを手早く仕留めると、レイラと対するゴブリンへと向かう。
その間に弓ゴブリンとフェネの射撃戦。フェネは獣人の機動力で避けながら、ゴブリンを射掛けて牽制している。それについて行こうとするセラドが不安なぐらいだ。
レイラは二匹のゴブリンをしっかり牽制して、動きを止めている。
『魔法がくるぞ、主』
レイラの元へ走ろうとしていた俺に、魔剣から忠告が入る。そういえば、俺はこの世界の攻撃魔法を知らなかった。魔法使いゴブリンの杖からほとばしった火の玉が、俺に飛んで来ていた。咄嗟に、左腕でガードするとミスリルが打ち消してくれる。それでも熱い火の粉が、顔とかに飛んできていた。
魔法使いは面倒だが、遠くにいる。フェネには弓ゴブリンの対応も任せているので、小剣を片づけて走るしかない。
レイラと対するゴブリンの背後から切りつけて一匹を倒すと、レイラもそのままもう一匹を倒してくれた。
「レイラは弓を。俺は魔法使いに走る!」
「わかったわ」
魔法を避けるために、左右に動きながら間合いを詰める。
『魔法には追尾能力があるから、避けても無駄だぞ』
魔剣のありがたい言葉に、途中から直進。間合いを詰め切る前に、火の玉が飛んできた。
左手でガードするが、弾けて細かな玉に分裂。あちこちが痛い。その怒りをゴブリンにぶつける。防ごうとした杖ごと、ゴブリンを両断して黙らせた。しかし、勢いのままに突っ込んで、ゴブリンと一緒に転がる羽目になった。
遠くからゴブリンの断末魔が聞こえて、戦闘の終了を感じた。
「何故そう無茶をするのじゃ」
駆け寄ってきたセラドが治癒魔法を唱えてくれて、全身の痛みが引いていく。回復魔法は偉大だ。
「女の子に火傷を負わせるわけには、いかないだろう?」
「責任さえとってくれたら、文句は言わんじゃろ」
「俺としても、女の子は傷一つなく、可愛い方がいいから、俺が無茶するしかないなぁ」
「馬鹿者」
ぴしりと指揮棒のような杖で、額を叩かれた。
少し早いが12階層をアクティブにして、魔法陣で地上へと戻る。
弓矢や魔法といった遠距離からの攻撃があるなら、盾などの防備は必要だと思ったからだ。
『ベラド』の街はダンジョンに必要な物はある程度揃っている。武器や防具も当然のように扱っていた。リザードマンからのドロップ品である鉄の槍を売却し、盾を見繕う。
セラドは基本的に体力がないので、革の丸盾で小型の物を持たせた。レイラも行動が制限される盾に難色を示した。しかし、ガラハドの手甲では、魔法を完全に防ぐ事はできなかった。やはり盾で顔などを守れる方がいいだろう。
小型の金属盾を購入し、持つようにしてもらった。
「普段は背中や腰に下げれるみたいだから、必要な時に取り出すのでいいだろう」
フェネは両手を使う弓を使うのと、機動性の高さから今のところは装備しない。
「そのうち護符とかを用意したいのぅ」
矢除けの護符というので、矢や低級の魔法なら防げるらしい。さすがに希少性も高く、ベラドには置いてなかった。
『蛇の湖畔亭』に戻ると、三人が俺達を待っていた。フェネ達が言ったように、売り込みに来たのだろうか。旅立ちの挨拶という可能性もないわけじゃない。
「昨日は助けてくれて、ありがとうございました」
片腕の戦士、確かロイドだったか、改めて頭を下げられる。
「いや、俺達も報酬をもらったから、お互い様だよ」
「それと改めて、エイレスの事をお願いに来ました」
彼から一歩下がったところで、エルフの少女がペコリと頭を下げた。
「彼女は話すことができない。しかし、魔法の腕は確かだ。君たちの力になるだろう」
話せない……それはなかなかのハンデと言える。彼女の少し儚げな雰囲気は、エルフであると同時にそうしたハンデから来るものか。
「セラド」
「うむ、確かに《無声魔法》という固有スキルを持っておるな。あと魔道士のレベルは……10じゃな」
《鑑定眼》で確認したセラドは、まだ神術士Lv9と一つ低いので悔しそうだ。
「他人を確認できる能力か、優れた仲間を持っているんだな。おかげて話はスムーズに進めれそうだが」
「彼女自身の意見を聞きたい」
するとエイレスという少女は、板状の何かを取り出し、そこに何かを書き始めた。
「私はできれば冒険者を続けたいです。よければお願いします」
彼女が書いた文字を、フェネが代読してくれた。俺、まだ文字覚えてないんだよな。
「彼女が本当に望むなら、受け入れるのは問題ないか」
「彼女を金貨六枚で買ってくれ」
ロイドがそう告げた。一瞬何を言われたかわからない。仲間を、女の子を、金で売るというのか!?
俺は頭に血が昇るのを感じた。
「もちろん、今すぐに払ってくれとは……」
続けようとしたロイドの胸に、金貨六枚を握った拳を打ち付けた。仲間を売るような奴に、この子を預けておく訳にはいかない。ロイドは戦士であれば避けれただろうが、あえて避けずに胸で受け止めている。
「くく、そこで怒ってくれる相手で良かったよ」
胸を押さえながらロイドはつぶやく。その顔は痛みで歪みながらも笑みがある。
エイレスは俺を抑えるように、抱きついてきている。
「俺達は必ずこの金を返しにくる。あくまでこれは、ロイドがマモルさんに借りた金だ。エイレスは関係ない」
エイレスはその声に振り返る。その台詞は予定になかったのだろう。
結局、彼らとて彼女を売り払うなんてできないのだ。一人熱くなった俺が、恥ずかしい思いをしただけか。
ロイドはもう一度深く頭を下げると、もう一人の足を負傷した戦士を連れて去っていった。




