壊滅するパーティー
翌日、ダンジョン攻略を再開する。転移魔法陣を使用して、五階層から続けて攻略できるのは、便利だ。もしかすると、このシステムを作ったのも異世界人だろうか。
五階の敵は、ブッシュクラブ。1m程もあるカニだ。ハサミはかなりの凶器といえよう。
またその甲羅の堅さが厄介だった。フェネの矢は弾かれ、レイラの剣もスマッシュを使ってようやくダメージが入る程度。倒そうとすると、かなり繰り返さないと駄目だった。
魔剣ソウルグラトニーは、流石の切れ味で、甲羅をモノともせずに倒せたが、倒せるのが一人というのは、心許ない。
「防御力を下げる魔法とか、攻撃力を上げる魔法はないのか?」
「そういうのは、神術の領域ではないのぅ。魔道士なら使えるのじゃろうが」
攻撃系の魔法使いは別にいるようである。そうなると純粋にダメージを与える魔法もあるのだろう。
「いないものは仕方ないか」
この階は、俺が力づくで突破することになった。魔剣は『この魂は旨い』とご満悦だ。ドロップ品も、カニ足とかなので、晩ご飯にできそうだ。
ボスはジャイアントクラブで、2m近くあり面倒だった。まあ、魔剣で魂を食らっていったから、爪を攻撃するだけで倒せたが。
六階層は、グリーンアント。緑色のアリだった。人と同じくらいあり、四本の足とアゴによる攻撃は、なかなかに厄介だった。
正面を俺が受け持ち、レイラが横や後ろに回り込み、腹を攻撃して倒した。
ボスはグリーンアントソルジャー。兵隊アリらしい。アゴが大きく発達していて、四本の足と斬り合ってると、頭を噛まれそうになる。スマッシュでノックバックさせながら、レイラとフェネがダメージを与えるのを待つ。
ドロップ品の蟻酸は、相手の防御を少し下げるそうだ……順番が逆だろう。
七階層がグラスキャタピラー。芋虫である。女性陣の受けは悪く、俺としても気持ちいい相手ではない。粘性のある糸を吐き出し、こちらの動きを阻害してくるが、フェネの矢の恰好の的になっていた。
レイラが糸に捕らわれるハプニングはあったが、鎧なのであまりご褒美感は無かった。
八階層はビークスパイダー。蜘蛛である。いいかげん虫シリーズは何とかならなかったのか。網に掛けるタイプではなく、毒を使うタランチュラタイプだったようだ。セラドが治せるとはいえ、食らうのは厄介そうなので、早めに倒していった。
九階層、ようやく虫は終わって食人植物だ。ハエトリソウのように、目標を挟み込み消化するのだろう。しかし森ならばともかく、ダンジョン内ではぽつんと植物が立っているのでバレバレだ。不意をつかれることもなく、撃破していけた。
初心者ガイドに載っていた最後の階層、十階はリザードマンが待っていた。
思わず話しかけてみたが、全く取り合ってくれず、襲いかかってきた。ダンジョン内のリザードマンは、かなり攻撃的らしい。
人と同じ大きさで、槍を武器に戦うので、相手としてはなかなか厄介だ。もちろん、魔剣で切れば問題は無いのだろうが、全体としての訓練でダンジョンに来ている。俺が倒せるだけじゃ意味がないだろう。まずはレイラに相手させてみた。
槍使い相手の戦い方も習っていたのか、穂先を軽くいなして懐に飛び込み、リーチの差を活かして圧倒する。
「ラッシュ!」
密着状態から、連撃を叩き込んで倒してしまった。パーティーのステータスを見ると、いつも間にかLv8に達している。俺はまだLv11と1しか上がってない。
「十階も行けそうだな」
そう思ったとき、セラドから赤い光が発せられた。
「む、救助要請か?」
光は水平に伸びている。この階で要請があるようだ。今までにも二回、発光する事はあったが、全てかなり下を指していて、行けそうに無かったのだ。
今回は同じ階での救助要請だ、向かう方がいいだろう。一応、皆の顔を見渡して確認。
「行くぞ」
同じ階とはいえ、ダンジョンは迷路状になっている。何度か通路を曲がり、魔剣でリザードマンを切り捨てながら目的地へ走った。
一つの小部屋の中に、少女が追いつめられていた。周囲には、冒険者らしき者達が倒れている。リザードマンは、四匹。今までは、単体を相手してきたが、このくらいなら何とかなるだろう。
ガーン、ガーン。
手甲で壁を殴って音を立て、リザードマンの気を引いた。三匹がこちらを向くが、一匹は少女を狙ったままだ。
「フェネ、あいつを頼む」
そう叫びながら、俺はリザードマン二匹の間に入る。槍の対処法は、レイラに習った。穂先が危険でもあり、弱点でもある。テコの原理で、横に弾かれるとこらえにくくなるのだ。アームガードを発動しながら、左の穂先を叩きつけ、右からの穂先は魔剣で切り払う。
残り一匹にレイラが向かってくれたのを確認して、まずは左のリザードマンに肉薄。槍を戻そうとする間に、懐へ潜って腹を裂く。
振り向くと、穂先を失った槍で殴ってくるリザードマン。手甲でそれを止めながら、さらに槍を切断。そのまま、横なぎに腕を切り落とす。致命傷にはなってないが、魂を食われて戦意を失っている。
フェネが射掛けて接近を遅らせていたリザードマンと、少女の間に走り込む。鱗に三本の矢を生やしたリザードマンは、怒りの目で俺を睨むが問題ない。穂先を魔剣で弾いて隙を作ると、手甲で殴りつける。ミスリルの手甲は、武器としてもそれなりに使える。このトカゲ、二本の槍を持っていたらしい。弾かれた左の槍はそのままに、右の槍で突いてきた。
「マモル!」
セラドの声が響く。脇腹をかすめた槍は、背中の方に抜けている。多少は痛むが問題ない、左腕でその槍を固定すると、右の魔剣でその胸を貫いた。
その間にレイラも一体を仕留めて、この場のリザードマンは駆逐できた。
「マモル、大丈夫か」
慌てて駆け寄ったセラドが治癒魔法を唱えている。かすめた程度で大げさなと思ったが、結構血が落ちていた。
「セラド、他の連中も見てやってくれ」
止血を確認したら、セラドに指示する。フェネとレイラが見回ってくれているが、二人は動く気配がない。残る二人も、肩と足をやられていて、重傷そうだ。
「わかった、ソナタもまだ無理に動くでないぞ」
セラドが去っていったところで、背後の少女を振り返る。よく見ると耳が尖っている。エルフだろうか、両手で杖を握りしめ、ずるずると座り込んでいた。
綺麗なストレートの金髪と、線の細い美形。血の気が失せた唇は、少しわなないていた。
「もう大丈夫だ。仲間も、神術士が見てくれる」
コクコクと頷いた。
「すまぬ、ワシの術では止血がせいぜいじゃ」
「いや、助かった。ありがとう」
戦士であろう男は、セラドに礼を言うと立ち上がった。その右肩は大きく抉れ、腕は動いていない。
「君がパーティーのリーダーかな。救助要請に応えてくれてありがとう」
「間に合わなかったみたいで、すまない」
「いや、三人も助かれば御の字だよ。まさか変異種がいるとは……」
「変異種?」
「ああ、ダンジョンには偶に特別に強い個体が生まれることがある。君が最後に倒した奴さ」
あの二本の槍を持った奴か。
「個体でも強いのに、群れてやがったから、一方的に追い込まれた」
悔しそうに唇を噛んでいる。
「とりあえず、外にでようか。レイラ、そっちの怪我人を支えてやってくれ。セラドとフェネで一人運べるか?」
「そんな、そこまでしてもらう訳には……」
「同じ冒険者だろ、困ったときはお互い様だ」
俺も偵察兵だろうか、動かない男を一人抱えて立ち上がる。
十階の入口まで、そのパーティーを連れて行き、転送陣で戻ってもらった。俺達もそれに続いて戻る。
片腕の戦士は、衛士と何かはなしている。片足をやられたのも戦士か、エルフの少女に何か話していた。
「じゃあ、俺達は帰るか」
「マモル、腹は大丈夫か?」
「ああ、シャツを買って帰らないと駄目か」
「そういうことじゃないですよ」
フェネが傷口を覗き、指で触ってくる。くすぐったいって。
「待ってくれ!」
片腕の戦士に呼び止められた。
「君達は四人で、魔道士はいないみたいだが、エイレスを連れて行ってくれないか?」
エルフの少女が驚いた顔をしている。
「彼女は優秀な魔道士だ。きっと役に立つ」
「いや、待て。彼女自身の確認も取ってないんだろう? ちゃんと話し合え。俺達はまだしばらくこのダンジョンにいるから。蛇の湖畔亭という宿にいる」
「う、すまない。焦りすぎていたみたいだ。ちゃんと話し合うよ」
「ああ、そうしてくれ」
魔道士はいると便利だろうが、納得しないままうちに来ても辛いだろう。
俺達は、彼らに挨拶して帰ることにした。
宿『蛇の湖畔亭』は、その昔、湖で溺れたところを美しい娘に助けられた店主が冒険者を辞めてから開いた店らしい。
本人とは思わないが、ラミアの縁者か同族か。何にせよ、縁を感じて泊まっている。
今日はダンジョンで拾ってきた素材でカニ鍋である。やはりこの世界でも食べる時は無口になりがちだ。みんな必死にほじっている。
「しかし、エルフか……またおなごじゃな」
ひと心地ついたセラドが、その話題を切り出した。
「まだ決まったわけじゃないだろ」
「あの子を売り込みに来るのは決まったようなものでしょう」
フェネも同意している。
「あの怪我だと治療院で治してもらって金貨二、三枚。そんな蓄えのある冒険者は少ないのじゃよ」
そんなにかかるのか。まあ、現代医療じゃあそこまで腱を痛めたら、復元は無理だろうしそんなものなのか。
「自分達がかなわなかった相手を、あっさり倒したパーティーに入れれば、彼女の身も安全だと考えたのかもね」
レイラも同じように感じているらしい。俺としては、あのエルフの子の反応を見ると、パーティーとして頑張りたいのかなと感じたんだが。
「まあ、相手次第だから、俺として積極的にどうこうはないよ……」
「本当かのぅ、かなり美人じゃったぞ」
セラドの目は疑惑に満ちている。
「俺には、セラドとフェネがいるからね」
まあ来る者を拒むような無粋な真似もしないけどね。




