初めてのダンジョン
ダンジョンのある街『ベラド』は、冒険者の街でもある。行き交う者のほとんどが武装していて、少し物騒な気がしないでもない。
ダンジョンに潜る前に、冒険者として登録が必要なはずなので、詰め所へと向かう。
そう言えば捕まえた盗賊の引き替えがあるが、まだ早いか。
「新しくダンジョンに登録される方ですね」
ベラドの受付は女性だった。二十代半ばといったところか。落ち着いた雰囲気の事務職員といった感じ。
「マモル様、セラド様、フェネ様、レイラ様で登録を行います。間違いはございませんね?」
「ああ、それで頼む」
「救助保障はどうされますか?」
「それは何だ?」
「もし何らかの危機で、ダンジョン内で動けなくなった場合に、他の冒険者に救助依頼を出すことができます」
「それは中から連絡をつけられるということか?」
「はい、マジックアイテムを購入していただき、それを発動させると救助要請が可能です。また、他のパーティーの救助要請が入ると、そのアイテムが反応する事になります。救助に参加されたパーティーには、報酬も支払われます」
「なるほど、いいシステムのようだ。料金は?」
「救助一回につき、銀貨50枚となっています」
なかなか高価な値段の様だが、ここは払っておく方がいいだろう。
「よし、それは申請しておく。手配してくれ」
「了解しました。それでは、こちらをお持ち下さい。この石を砕くと、その場に呼び出しがかかります。他のパーティーの要請がきた場合は、その方向に光が発せられます」
赤い宝石のような物を渡された。セラドに管理させるのがいいかな。
「この石をお持ちであれば、いつでもダンジョンの利用が可能です。入口で見せてもらえば大丈夫です」
通行証の代わりにもなるらしい。一通りの説明も聞けたので、ダンジョンへと向かってみる。
ダンジョンまでは街中に案内板が出ていて分かりやすかった。入口自体は祠のようになっていて、すぐに下りの階段が見えている。二人が並んで入れるくらいの広さで、入口には衛兵が立っていた。
「初めてダンジョンに潜る冒険者だな。救助保障は受けているか?」
セラドが石を見せると、衛兵は頷いた。
「確認した。しかし、無理はしないようにな」
それだけを言って、通してくれた。中に入ってみると、壁が発光しているようで明るさがある。どうやら魔力か何かで明るさが保たれているようだ。
俺達は、俺とレイラが前衛。フェネとセラドが後衛という形で進行する。
「私、偵察術もあるんだけど」
そういえば、フェネにはそんなスキルもあった。
「一階なら大丈夫だろう。ひとまず進んでみよう」
ダンジョン内は色々なモンスターが出るはずだ。
『左に何かいるな』
魔剣の魂感知が役に立ちそうだった。種類までは分からないのか。
『色々な気配が混ざっていて、判断が付きにくいのだ』
まあ、方向が分かるだけでもありがたい。通路を左に向かうと、人影が見えてきた。木で作られた人形のようで、動きもぎこちない。
「パペットゴーレムじゃな。初歩的なモンスターじゃ。単純に殴ってくるだけだ」
パーティーの知恵袋、セラド先生が教えてくれた。
「レイラ、やってみるか?」
「はい」
剣を抜いて構えた。見えない糸で吊られたような人形は、意外とその動きが読みにくい。人間相手に訓練を積んだレイラがどう対処するか。
しかしレイラは様子を見ることもなく、切りかかっていく。スキルの『ラッシュ』を使用して、一気に勝負を決めてしまった。レイラは剣士Lvこそ5と低めだが、技量では俺よりもかなり上だ。実力を発揮すればこんなものだろう。
「あっさりだったな」
「木偶を叩くようなもので、やりやすかったな」
盗賊の時のような動揺はみられない。やはり人と魔物では、感じ方も違うのだろう。
「このくらいなら、サクサクいけそうだな」
その後も魔剣の導きで、パペットゴーレムを見つけては叩き潰して、一階を探索して回った。
ダンジョンには階層ごとにボスが配置されていて、一階層のボスは燃えるパペットゴーレムだった。
「放っておいたら燃え尽きたりしないのか?」
「魔法の炎じゃから、そんなことは無いじゃろ」
燃えている分、攻撃力は上がってるらしいが、今までも攻撃は受けてないので、接近を許さず撃破できた。
「まあ、一階は初心者用なんだろうな」
「ドロップ品も木片とか、薪とかじゃからなぁ」
ボスを撃破すると下へ降りる階段が現れ、次の階層に進む事ができる。降りた先には、地上に戻るための転送用魔法陣があり、いつでも戻れ、地上からも進んだ階層に戻れるようになっている。
「誰かがシステムを作ったんだろうな」
「冒険者を育成するには、都合が良いな」
二階層で出てくる敵は、コボルトだった。二足歩行する犬といった感じで、爪と牙で攻撃してくる。ただ、体長は1mそこそこで、足取りも覚束ないのでそれほどの驚異は感じなかった。
ドロップ品も粗末な皮とか、いかにも安そうな素材だけだ。
サクサクと探索を進めてボスまで。
「ホブコボルトか」
「ハイコボルトじゃよ。ホブは、ゴブリンじゃろ」
「いくぞ、ホボルト!」
ハイコボルトは、二回りほど体が大きく、セラドと同じくらいはある。しかし、攻撃は牙と爪なので、まだまだリーチはこちらより短く、対処しやすい。
フェネの弓術も見事に決まって、被害なく撃破できた。
「こんなもので修行になるのか?」
「ガラハドさんを信じるしかないだろう」
疑問を呈するレイラは、実戦を重ねて頼もしさが戻ってきている。
勢いのままに三階層へと進む。ノールという暗がりに潜む小人が敵だった。
「このようなところに隠れ住んどるとは!」
どうやらノームとノールは、種族的に対立があるらしく、セラドが攻撃的になっていた。
「シャイン!」
セラドが魔法で光る。それに炙り出されたノールは、目を押さえて転がっているので、それに止めを刺していく簡単なお仕事だった。
途中、魔法を使いすぎたセラドが、息切れを起こす場面もあったが、少し休憩して何とか済んだ。
「回復役が、魔法使い切るってどうよ?」
「す、すまぬのじゃ」
「しばらく休んでて、大丈夫だから」
フェネが先頭に立つと、隠れているノールをすぐに見つけて、短刀で攻撃する。偵察術による敵探知の能力らしい。まあ、魔剣の魂感知もあるので、うちのパーティーは不意打ちに強そうだ。
階層のボスは、ノールキャプテンという少しごついノール。この時も再び光ったセラドのおかげで、苦戦らしい苦戦もなく終わった。
四階層は、RPGでお馴染みのゴブリン。コボルトと違って武器を使ってくるが、そうすると剣術で戦いやすくなる。
レイラと二人で安定して撃破していき、ボスの体が大きなホブゴブリンも、あっさりと片づいた。
そこでそれなりに時間が過ぎていたので、今日の探索は終了となった。
「十階くらいまでは、余裕ありそうだな」
詰め所で売られていた初心者用ガイドブックを見ながら、先の敵を確認していく。
「油断はせぬことじゃ」
「魔法使い過ぎたりね」
フェネの突っ込みに、セラドが赤くなる。ノールは森の地下を掘り進み、草木を枯らす習性があるので、森を大事にするノームとは犬猿の仲らしい。
「明日からは気をつけるのじゃ」
「まあ、ノールもそんなに出ないだろうしね」
「レイラはどうだ?」
「正直なところ、拍子抜けだな。もっと苦戦すると思ってた」
「今は余裕を持って対しているからな」
盗賊とやりあった一戦で、余計な力が抜けたのもありそうだ。
「今後、本当に生死を感じる一戦になれば、また何か感じるかもな」
「ああ、心しておく」
その夜、魔法を使いすぎたセラドは早々に寝てしまい、フェネとゆったりとした夜を過ごした。




