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道場での成果

 道場に来て三日目。午前中は、基礎練習。昨日で型が固まったので、その素振りも加えられた。

 午後からの模擬戦で、ジョン、マックス、レイラと対する。

 ジョンとマックスは、まだまだ攻撃が雑で、慣れない型でも十分に対応可能だった。

 しかしレイラは流石の太刀筋だ。不慣れな構えというのもあるが、どうしても後手に回らされる。一撃目で崩されると、二撃目は止められない。かなり強かに肩や胴を殴られる羽目になる。

 初日の恨みも募っているのか、殴る度に口元に笑みが浮かんでいるのが悔しい。

 散々にいたぶられてその日は終わった。



 四日目。予定の半分を消化して、基礎鍛錬にも慣れてきた。きっちりとウォーミングアップに使って、午後に備える。

 ガラハドの指導の際に、小手を渡された。左手用で前腕から手の甲までを守るタイプだ。

「昨日のレイラとの一戦で、やはり左手は防御に使えた方が、ぬしには向いているようだったからな。それと合わせて技を教える」

 ガラハドの容赦ない一撃を、手甲で止めたり、受け流す練習が繰り返される。骨に響くというか、骨が砕かれる事も度々おこり、治療士の魔法で癒してさらに壊されるという酷い修行を行った。

 夕食では全く左腕が動かなくなり、片手での食事となったくらいだ。そのおかげで『アームガード』というスキルが身について、防御力を増すことができた。


 夕食後、少し外に出てみると、レイラが走り込みをしていた。ジョンやマックスとは違って、かなりストイックに自分を追い込んでいるように見える。

 邪魔にならないように、遠目で観察していると、黙々と体力作りに励んでいた。アスリートとして引き締めた体は、それはそれで魅力的だ。男ばかりの生活で、そろそろ性欲も沸いてきているらしい。ただそれがレイラに知られたら、さらなるしごきを受けそうだ。

 レイラの観察はほどほどに切り上げ、俺も右手の使い方を反復する。左手で防御を行う以上、右手での振り出しはより強さを求められるのが今のスタイルだ。明日は攻撃用のスキルを教わる予定だが、それ以外でも使えるようにイメージは必要だった。



 五日目、左手の張りも取れて、いつもの練習をこなす。

 午後からの指導で、『スマッシュ』という初歩の技。強い一撃を放つスキルだ。巻き藁に向かって打ち込むと、手応えの違いは感じられた。

 ジョンとマックスの二人相手の乱取り。アームガードで裁きながら、スマッシュをヒットさせる。かなり攻守のバランスが取れてきている。

「マモルさん、凄いですね。こんな短期間で、型からスキルまできっちりこなして」

「もう手も足もでないですよ」

「まあ、初日の試合からでしたけど」

 ジョンとマックスには、どこか甘さが感じられるのは、実戦経験がないからか。まだまだガラハドにしごかれるのが続くのだろう。



 六日目になり、ルーティンをこなして午後を迎える。

 レイラとの模擬戦だ。

 先日は一方的にやられたが、あれからスキルを取得し、攻守ともに成長している。

「くっ」

 俺のスマッシュにレイラが崩され、次の一撃がクリーンヒットする。

 しかし、ひるまずにレイラもスマッシュからのラッシュで連続的に攻撃してくる。アームガードでそれらを受けると、なかなかに重い。ただガラハドに比べるとやはり軽いので、何とか凌ぎきれた。

 レイラはどうにも前のめりな感じを受ける。攻撃に偏り、それを凌がれると無防備で、今も軽く足をかけただけで転がってしまう。

 息を切らしながらもすぐに立ち上がり、打ち込んでくる。必死なのはわかるが、実戦では既に死んでいる。これでは良くないだろう。

 レイラのスマッシュに、スマッシュを当てて、木刀を飛ばしてやる。

「なっ!? くそっ」

 慌てて武器を拾いに行き、再び打ち掛かってくる。どんどんと精細を欠いて、単調になって、対処しやすくなる。これは技量というよりも、精神的な焦りなのだろう。


 練習後、ガラハドに呼び出され、意見を求められた。

「レイラについて、どう思う?」

「技量はあるんでしょうが、焦っている感じですね」

「家の事は聞いたか?」

「ジョン達から軽くですが」

「弟ができて以来、どうしても精神的な焦りが出てな。結果にこだわるあまりに、余裕がない。それはレイラの良さを消しているんだが」

 ガラハドの目には、俺に何かを期待しているようなんだが。

「命の大事さを教える……難しいところですね」

 恐怖心を封じてる俺が言うのもおかしいが、レイラには恐れが足りてないんだろう。

「命のやりとりをすると変わるんだろうが、今のままだと初陣で死にかねん」

「それを俺に期待しますか……」

「やり方は任せる」

 俺も大して実戦も積んでない若造なんですが。



 夕食後、一人で練習するレイラを襲ってみることにした。ランニングをするレイラに声を掛ける。

「何をそんなに焦るんだ」

「!?」

 暗がりから現れた俺に、敵意むき出しで睨みつけてきた。

「貴様に何がわかる!」

「うーん、なかなか美味しそうな体だなとか」

「馬鹿にするな!」

 レイラは拳を固めて殴りかかってきた。どうみても喧嘩慣れはしていない。剣術の延長での攻撃では、狐人の動きにも対応できた俺の目には通じない。

 右の拳を受け止め、続けて繰り出された左は殴ると言うほどの拳でも無かった。下半身も使えてないので、あっさりと内股にかけて押し倒せた。

「焦りすぎだ」

「くそっ、どけっ」

 元気に暴れるが、既に自由は奪っている。すぐにスタミナを使い果たし、動けなくなってしまった。

「お前は何をしたいんだ?」

「何って、何がだ!」

「ここで剣を学んで、どうしたい?」

「それは、もちろん、剣士として、名をあげて……」

「今のままだと死ぬだけだぞ」

「だって、そうするしか、無いんだ」

 レイラの心の決壊が起こる。ポロポロと涙が溢れて、表情が崩れる。俺にはこの世界の仕組みはいまいち分かっていない。必死に騎士を目指していたが、男の世継ぎができただけで全てかひっくり返るものなのか。

 でも目の前に泣いてる女の子がいれば、やることは一つだろう。その唇をふさいでしまう。

「んんっ、ぷはっ、何をする」

「いや、可愛かったから、つい」

「ついじゃない、馬鹿ぁ」

 本格的に泣き出してしまった。俺は彼女の上からどいて、彼女を座らせてやる。

「どうせ、私みたいな、男女、誰も、相手に、しないもん」

「いや、レイラはかなり美人だと思うぞ」

「でも、こんな、筋肉ばかりで、誰も、相手に、しない」

「いやいや、ジョン達だって、お前に触りたくて仕方ないみたいだし」

「こんな、限られた、ところだからよ、外に、でれば、見向きも、されないもん」

 すっかり弱気の女の子になっていた。魔剣使ってないよなぁ。

「大丈夫だよ、レイラほど魅力的な女の子は、ほとんどいないから」

「だったら、証拠みせて」

 レイラがすわった目でこちらを睨む。

「証拠って」

「私を抱いてみなさいよ」

「残念ながら、それは駄目だ」

「やっぱり、そうなんじゃない」

「今のレイラは、自棄になってるだけだ。俺を男として欲しがってない。そんな状況じゃ、抱けない」

「な、何よ、それ」

「俺をちゃんと見て、抱かれていいと思ってくれたら、抱いてやる」

「わかんないよ、そんなの……」

「なら時間をもらうだけだな。しばらくうちのパーティーにくるか?」

「ふぇ?」

「騎士とか家とか関係なく、一人の冒険者として過ごしてみろ。ちょっとは、世の中が見えるだろうさ」

「そ、そんな事……」

「ガラハドには俺が話してみるよ、あとはお前の気持ち次第だ」

「す、少し、時間を頂戴」

「俺の修行期間は明日までだから、それまでにな」

 コクンと彼女は頷いた。



 最終日。レイラは目に隈を作って現れたが、いつものメニューはこなしている。

 午後はガラハドも交えての模擬戦だ。ジョンやマックスにも、今日が最後だと伝えてあるので、頑張って挑んできた。でも、やはり動きは甘く、軽くあしらえてしまった。

 ガラハドの最終試験的な模擬戦は、実戦さながらの気迫で攻撃された。生存本能を刺激されるほどの一撃を、何とかアームガードで裁きつつ、返して放ったスマッシュは見事にたたき落とされた。

「いや、一週間にしては見事。また時間を見つけて通いに来い」

 そう誘ってくれたのは嬉しかった。

 最後にはレイラとの模擬戦。いつもの攻撃性はなりを潜め、こちらの出方を伺うような、戸惑うような動きになっている。

 こちらから仕掛けると、巧みにいなされる。返しにも力みがなく、かなり鋭い一撃になっていた。

 一進一退が続き、ガラハドの水入りで引き分けとなった。


「レイラに何をした?」

「ちょっと冒険者に誘ってみました」

 レイラの返事待ちではあるが、ガラハドには打ち明けても大丈夫だろう。

「新たな道を示されて、がむしゃらさが減った結果か。やるな、ぬしは。指導者に向いてるかもしれん」

「偶々ですよ」

 俺とガラハドが話しているのに気づいたレイラが近づいてきた。

「師匠、私……」

「ぬしは、ちと視野が狭い。剣術はここだけではないのだぞ」

 その言葉にレイラは俺を向く。

「昨日の提案は、本気、なの?」

「もちろんだ」

「そう……私が答えを見つけるまででいい?」

「ああ、当然だ」

「わかった、貴方のところで勉強してみる」

「いいかな、ガラハド」

「構わんさ、いつでも戻っていいからな」

「ありがとうございます、師匠」


 こうして新たにレイラが俺のパーティーに加わる事となった。まだ怪しい部分はあるが、剣士としての技量は俺よりも上のはず。経験を積めば、優れた剣士になるだろう。

 俺は久しぶりに自分たちの宿へと戻った。

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