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次の目標へ向けて

 たっぷりと風呂などを堪能した俺達は、夕方に街へと戻ってきた。せっかくなので、どこかで食事してから帰ろうということになった。

 俺も久々にしっかりとした肉を食べたかったので、少し奮発した感じの店だ。冒険者の姿も見かけるが、少しこじゃれた店は騒がしさもなく、くつろげた。

 フェネは獣人なので、結構な肉食らしい。逆にノームであるセラドは、野菜などにこだわりのある草食系。別に食べない事はないが、好んで食べるわけでもない。

 それぞれの料理を堪能して人心地ついたところで、これからについて話し合う事にした。

「実のところ、金にはそんなに困ってないんだよな」

「そうなんですね」

「フェネを買うつもりで用意した金貨十枚が手元に残ったし、そういえばネフェルを捕まえた報酬もでるのか」

「報酬はわからんが、やつらも奴隷行きとなれば、その代金は入るじゃろうな」

 最低でも金貨三枚、もしかすると一連の騒ぎの件で色をつけてもらえるかもという打算もある。

「念願のフェネも手に入れたし、目下の目標が無くなったんだよな」

「私はマモルと一緒なら、何をしても楽しいかな」

 フェネは嬉しい事を言ってくれる。それがお世辞でもないことは、さすがにわかる。まだ二日だが、かなり打ち解けてくれている。

「わ、ワシも、マモルといて楽しいぞ?」

 張り合ってくるセラドは、かなり可愛い。普通に過ごすだけでも楽しそうではある。

 ただせっかくの異世界、色々と楽しんでみたい気持ちもある。

あるじよ、我との約束も忘れんでくれよ。様々な魂を食らいたいのでな』

「ここ最近でも狐人の魂を食えただろうに……」

「マモル、ソナタのたまに出る独り言は、誰かと話しておるよな?」

「マモルも念話が使えるの?」

 特に隠すつもりもなかったが、魔剣に話してなかった事に気づいた。

「この魔剣と会話してるんだよ」


 俺がこの世界に来てのあらましを話してしまう。この二人なら特に問題はないと思ったのだ。

「ふむ、それはまた、大変な話を聞かされたような……」

「やっぱり、私を救ってくれたのは、マモルなのね」

 フェネは魔剣で呪いを上書きしたくだりで喜んでくれた。セラドの方は色々と思案を巡らせている。その思考は本当にありがたい。

「フェネを操っていた嫉妬エンヴィという魔剣の存在も気になるところじゃな」

『主よ、言い忘れておったが、ラミアにも同じような形跡はあったぞ』

「っておい、それは忘れていい問題じゃないだろ」

「な、なんじゃ?」

『ラミアが正気を失っていたのも、嫉妬エンヴィが森の主たるラミアを妬んだのが原因のようだ』

「ラミアが正気を失っていたのも、嫉妬エンヴィが絡んでいたらしい」

「ふむ、となるとその魔剣の持ち主は、色々と騒動を起こしたがっているのか?」

嫉妬エンヴィはその名の通り、他人を妬む心に同調する。優れた才能や人徳、地位など、自分に無い物を奪いたくなる衝動だな』

「ただ食らうお前より、陰険な感じはうけるな」

「嫉妬すると、熱くなるのはあるよね。そういえば、マモル。ラミアと何かしたよね?」

「えっ」

 唐突にフェネの矛先が俺に向いた。

「止める事はできないけど、隠されるのは辛いかなって」

「え、えーと、すまん。ラミアとも約束があったしな」

「それは血を分ける話で、子種は別ではなかったのかの?」

「え、えーと、やりたくなって、やりました」

「そういうところも素直になってね、下手に隠される方が妬けちゃうから」

 そういって怒る素振りのフェネもまた可愛いとか思ってたら、大事に繋がりそうなので反省しよう。

「セラドさんも、はっきりした方がいいですよ。こんな人なんですから」

「ふぇっ、ワシはその、まだ、そういう関係ではないし……」

「もう、どう見てもマモルの事好きなんだから、嫉妬に付け入られないように予防しないと!」

 なぜかフェネはセラドをけしかけている。風呂での裸の付き合いが、二人の仲をよくしたのだろうか。

「でも、ワシは……」

「セラド、俺はずっとお前の事を好きだからな」

「はぅっ」

 照れてしまうセラドが可愛い。フェネが勧めたから言ってみたのに、フェネからの視線が痛い。難しいです、乙女心。


「そ、それよりもじゃな、その嫉妬エンヴィは放っておけぬと思うのじゃが!」

「あ、逃げた」

 フェネが冷たく突っ込むが、ここはセラドに味方する方がいいだろう。

「他にも嫉妬エンヴィが災いの種を撒いてると?」

「その可能性は十分に考えられるのじゃ」

 俺はこの世界を楽しみたい。それを滅茶苦茶にする奴がいるのなら、それは止めた方がいいだろう。

「わかった、次の目標は嫉妬エンヴィ探しだな」



 宿に戻ると俺の隣にはフェネが、セラドは隣のベッドへと移動する。フェネは何とも言い難い視線をセラドに送っているが、セラドはこちらを見ないようにしている。

「マモル、セラドさんにも優しくしないと」

「俺としてはセラドの心の準備を待ってるつもりなんだが……」

 そこでフェネに深いため息をつかれた。

「それは優しさではなく、怠慢です。セラドさんのような女の子に、自分から迫るように求めるのは酷です。マモルから迫ってあげないと」

「でも駄目って言うし……」

 セラドはやはり拒否するだろう。無理強いして離れられるのは嫌だった。

「大丈夫です。セラドさんは十分にマモルを好きですし、準備もできてます。最後の一押しはマモルがしてあげないと駄目です」

「そ、そんなもんか……」

「セラドさんを抱かないなら、私も拒否します!」

 強い口調で言われてしまう。すすっと距離を取られて寂しい。


 ギシッ。

 セラドのベッドに上ると、二人分の重さにベッドがきしむ。その音にセラドが体を固くするのが分かった。

 俺はセラドを傷つけたくない。ただ手を出さない事で傷つけるというなら、俺から動くしかないのだろう。

 こちらに背を向けるセラドの肩を掴む。ビクッと震える体を引き倒し、覆い被さるように正対する。こちらを見上げるセラドは怯えているように見えて、俺の心をくじきそうなんだが。フェネを信じるしかないのか。

 徐々に顔を近づけていくと、セラドはぎゅっと目を閉じる。何かを堪えるような表情に、躊躇いは生まれる。拒絶されるなら、無理はしたくない。

 前髪をかきあげ、その額にキスをする。

「あっ」

 思わぬところへのキスに、セラドは目を開けて俺を見た。やはり赤と紫の瞳は美しい。少し潤んだ瞳は、より俺を惹きつけた。

 目元、頬へと口付けを続け、セラドが逃げることは無いのを確認して、その唇を奪う。震えを感じつつも、しっかりと合わさった柔らかな感触を味わった。

「んんっ」

 セラドから漏れる甘い声。再び閉じられた瞳には、わずかに涙も浮かんでいる。それは拒絶なのか、別の意味なのか。

 ただここまできて止める事もできなかった。何度かキスを繰り返し、その服へと手をかける。

 震えつつも逃げることのない小さな体を俺は求めていった。



 小柄な体を抱き留めたまま朝を迎えた。心地よい達成感に、温かな体温。セラドの安らかな寝顔に癒される。少し離れた感じのあったセラドの心を、たぐり寄せる事ができたようだ。

 ふとフェネの視線を感じて振り向くと、ぷいっと顔を背けられた。

 フェネの指示に従ったのに、何故か怒られている。どうすれば良かったというのか。俺は困惑しながらも、柔らかな朝陽の中、再び微睡んでいった。



 完全に夜が明けて、起き出したセラドの気配に俺も目が覚めた。ベッドの上で髪を梳き始めたセラドの頭を撫でてしまう。

「もう、乱れるではないか」

 文句を言われるが仕方ない。その撫で心地の良さは、今まで以上に感じられるのだ。セラドもその手をはねのけるまではしない。少し手を止めて、受け入れてくれる。

「ゴホホン!」

 わざとらしすぎる咳に、二人して振り返ると、少し機嫌が悪そうなフェネがいた。

「もう十分じゃないかと、私は思うのですが!」

 どうやらフェネも構って欲しかったようである。苦笑いしつつ俺を押し出したセラド。転がされるままに、ベッドを落ちてフェネに近づく。

「フェネの言うとおりにしたつもり何だが……」

「別に朝まで相手しなくてもいいじゃないですか。セラドさんは初めてで体にも負担はあったはずですし」

 その辺はかなり気を使ったつもりなんだが、フェネは単に拗ねているだけなのだろう。その様子は可愛くて嬉しい。

「うん、ごめんね。お詫びにフェネにも櫛をプレゼントさせてくれ」

「うー、仕方ないですね。受け取ってあげます」

 などといいつつ満更でもなさそうだ。今日は詰め所でネフェルの確認をした後で、買い物だなと予定を決めた。



「あ、マモルさん。いらっしゃいませ、先の犯罪に関して結果がでてますよ」

 詰め所にいくと、いつもの兵士が対応してくれた。

 ネフェルの不法侵入には、窃盗も追加されたそうだ。どうやらフェネを身請けする際に支払った代金を、あの屋敷の備品で行ってたらしい。

 奴隷商からはその際の費用が持ち主へと返済されたようだ。となるとフェネを失った分、奴隷商が損した形だが、三人の狐人を得たことでその辺もチャラらしい。

 改めて話があるとのことで、奴隷商で奴隷の売却費用を受け取る事になった。


「マモル様に、フェネさん。今回は私共の為に迷惑をかけて申し訳ありませんでした」

「前も言ったが、フェネと引き合わせてくれただけでこちらは感謝している」

「私もマモルに会わせてくれたおかげで、呪いを解くこともできましたし、感謝しています」

「呪い?」

 フェネが保護された時に、感情が乏しかった原因が、魔剣の呪いであった事を伝えた。

「そのような事が……」

「その件に関して、俺からも聞きたい事があるんだが、他にも似たようなケースは無かっただろうか。記憶や感情がないだけでなく、性格が変わったような話が」

 奴隷商の方では記憶にないとのことだが、他の担当や詰め所の方と連携して情報を集めてくれる事になった。

「あと今回の狐人三人に対する売却額ですが、金貨七枚でどうでしよう?」

 以前盗賊を捕まえた時は一人につき金貨一枚だったので、かなりの額になっている。

「ふむ、こちらはそれでいい。あと、狐人三人についてだが、性欲を呪いで封じてある。その辺は容赦してくれ」

「そのような処置がなされてるのですか? フェネに対する強姦罪は公にできてないので、その手の対応ができてないのですが、そうした去勢がされているのなら、藻金貨もう一枚追加で払わせてもらいます」

 男としての機能を奪っているのに、逆に感謝されてしまった。単純な労働力としてみると、性欲は邪魔になるのかもしれない。

「では、性格が変わったり、失っている者に関する情報はお願いする」

「はい、できる限りを尽くさせていただきます」

 臨時にしてかなりの額を受け取って、奴隷商を後にした。


 そのまま商業施設の多い三等区で買い物をする。高級品の多い地区だが、今の懐具合なら大丈夫だろう。

 まずは約束の櫛からだな。

 露店と違って、一つ一つの細工が見事な櫛が並んでいる。

「セラドもいいのがあったら言ってくれ」

「ワシはあの櫛が良いからなぁ……」

 そういいつつ並ぶ品々には、目を奪われているようだ。

「櫛に限らず髪留めとかな。いっそ、前髪をあげれるようにしてもいいんじゃないか?」

「そ、それは……」

「セラドさんの瞳は綺麗だとおもいますよ」

「でも……」

「狐人の間では、左右の瞳が違うのは凶事とはされないのか?」

「そんな話は聞いたことないです。旅先でもそんな話はなかったですよ」

「だそうだ、セラド。俺はその瞳は綺麗で好きだぞ」

「う、うう……」

 恥ずかしそうに俯く。その様子に、店員が近寄ってきて、すかさず商品をアピールしてきた。なかなか良い品がありそうだ。

 結局、カチューシャの様に頭の上で前髪を留めれる髪留めをセラドに、銀の細工が綺麗な櫛をフェネへとプレゼントできた。


 その他にも色々と買いたい物があった。今後の事を考えた装備品、特にフェネも戦える装備が欲しかった。

 フェネは機動性を活かした獣戦士で得物は、短めの剣が良いそうだ。また動きを阻害しない革製の部分鎧などを揃えていく。

 あと常々思ってきたのは下着だ。麻のインナーは、七分丈のシャツとパンツ。色気がないのである。フェネの場合は、胸が固定されないと色々不便なのではないかと思う。という事で防具屋で聞いておいた下着を扱う衣服店に向かう。

 男一人では入りにくいが、綺麗どころを二人連れての来店だ。店員も文句を言えないだろう。

「何を買うのじゃ?」

「下着だよ、下着」

「ええ?」

 驚くセラドを置いて、店内を見て回る。すると一角に下着のコーナーを見つけ、少し驚く。そのラインナップが、現代的なのだ。

 女性用のブラジャーやショーツ。男性用もトランクスなどが置いてあった。

「こ、これが下着なのかや?」

 いつも七分丈のシャツやパンツしか持たないセラドには、目の前の物が理解できないのかも知れない。フェネも興味深げに見ている。

「こ、こんな小さかったら、裸と同じではないかっ」

「上から服を着るんだし、問題ないだろ。あとフェネは、ブラジャーが必須だ」

「ブラジャー?」

「ああ、胸用の下着だ。とにかくサイズを見てつけてもらうといい」

 店員を呼んで、フェネとセラドに合う下着を選んでもらう。見た目は大事だが、これから旅も増えるとすると機能性の方が大事だろう。スポーツブラのような少し固定できるものがいいはずだ。その辺を店員に指示すると、少し意外そうな顔をされた。

「男性の冒険者でそこまで詳しい方は知りませんでしたので」

「そうか……とにかく、合うのを頼む」

 待つことしばし、セラドはもちろん、フェネも恥ずかしそうな声を上げている。

「どうだ、少し動くと違いがあるだろ?」

「そ、そうですね」

「でも恥ずかしい……」

「セラドの場合は、服を着たときに違いがでるかもな」

「そ、それはどういう意味じゃ!」

 もちろん服を押し上げる効果の事だが、語気が荒いのが、認めている証拠だろう。

 とりあえず三着ずつ揃えて、俺も自分の分を買った。


「服の業界にも異世界人がいたんだな」

「え?」

 まだ落ち着かないのか、胸元を気にするセラドが疑問の声を上げる。

「俺の世界では普及した下着だが、ここでは珍しいだろ?」

「はい、初めて見ました」

 答えるフェネの胸元も、綺麗に整ってみえる。揺れは少なくなるが、張りが綺麗に見えていた。将来を考えたら、必須のアイテムでもある。

「異世界の知識を持つ者が、必要と思って作らせたのだろう。一度使えば戻れないだろうしな」

「はい、すごく落ち着きます」

「そ、そうかのぅ」

 感想には個人差があります。


 何はともあれ、これから調査を行うための装備は整った。あとはどこから調査するかだが、奴隷商からはまだ情報は難しいだろう。

 となるとやっぱりフェネとラミアが関わってる森からか。

 ひとまず調査は明日からとして、宿に戻って休むことにした。新たな下着姿も堪能させてもらえた。

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