魔剣との出会い
他の方の異世界ものを読んでると、自分の正体を隠そうとするのが目立つので、そんなの気にせず強さを邁進する主人公を描いてみる事にしました。
あまり深く考えず、行動ありきの主人公は、苦手なタイプなのでどうなりますか……。
「うらあっ」
魔剣ソウルガストニーが、防御を試みた盗賊の剣もろとも、その体を両断する。振り向きざまに近づいてきた男も切り裂いてやる。
一撃は致命傷となり得なくても、魂から貪り食われ放心したように崩れ落ちる。
村を襲撃しようとした盗賊達は、いきなり現れた俺の手によって、ドンドンと無力化されていった。
事のはじまりは二時間ほど前だったろうか、今にも崩れそうな廃屋で俺は目が覚めた。
見知らぬ土地での目覚めは、夢の続きかと思ったが、どうやらそうではない。辺りのものを触ってみると、リアルな触感がある。
起き上がり体をみると、みすぼらしい服。ごわごわとして、着心地が悪い。それと一本の剣。
こちらは意匠の凝らされた逸品で、鞘までが装飾で縁取られていた。両手で持って引き抜いてみると、その刀身は美しく、曇り一つ浮いてはいなかった。
『お前が今回の主か』
その声は唐突に響いた。辺りを見回しても人の姿はない。というより、その声は耳からではなく頭の中で響いたように感じた。
『なるほど、お前には渇望があるな。我が主に相応しい餓えっぷりだ』
「勝手に話を進めるな、ちゃんと説明しろ」
『そうよな、我が名は魔剣ソウルガストニー。魂を貪り食らう魔剣だ』
唐突に語られる言葉。しかし、現物を手にして不思議な声を聞いていると、それが嘘ではないと信じられる。
『我はただただ奪う魔剣、相手の自信を食らい、意欲を食らい、心を貪る』
「心……感情を無くすということか?」
『まあ、そんなところだな』
「なら、俺の恐怖心を食えるか?」
『くくく、かははっ。面白いぞ、主。まずは自分を食わせようというのか』
魔剣から流れ込む笑いの声にイラッとする。
「できるのか、できないのか」
『ああ、できる。主を死を恐れぬ戦士にできるであろう』
俺は今まで生きてきて、肝心なところで臆病だった。それは体の大きな奴に迫られた時であり、いじめを受け続けた時であり。一言、勇気を出して物事を打開する事ができなかった。
『わかった、主よ。我が刀身に、己を切らせてみよ』
すらりと魔剣を抜き放つ。不思議な程に手に馴染み、重量はあるはずなのに重さを感じない。
曇り一つ無い刀身は鋭く光り、よく切れそうだ。それに自身を切らせる。その事、自体が恐怖を呼び起こす。
「くっ」
どれほど逡巡してただろう、何度も切ろうとして躊躇い、呼吸を整えた。
ようやく左腕を刀身に押し当て、僅かな傷を付ける頃には、魔剣も面倒そうに早くしろと言ってたものだ。
魔剣は俺が逡巡している間に、この世界の事を語っていた。いわく中世ヨーロッパを舞台にしたファンタジー世界であり、剣や魔法が当たり前に使われ、モンスターがはびこる世界。転生し魔剣と契約したことで、身体能力の向上をはじめ、様々な恩恵を受けていること。この世界では力がものをいい、魔剣の主たる俺はそれを手にしていると。
『もう語るほどの事はない。主が望みさえすれば、この世界は開かれる』
左腕に走る痛み、そこからこぼれ落ちていく何か。浮かび上がる奇妙な入れ墨で描かれた紋様。ただ今まで逡巡していたのが馬鹿らしいほど、あっさりとそれは終わった。
『これはまた、思わぬ量の感情よな。これだけの恐怖を抱え、生きてこられた主はそれだけで強者たる資格があるぞ』
「そうか」
恐れを失い、それに伴って自信が浮かび上がってくる。今まで何をするにも躊躇して、決断できなかった自分はもういないのだ。
「きゃぁぁぁっ」
「盗賊だ、盗賊が出たぞ!」
廃屋の外が急に騒がしくなっていた。廃屋の側を幾人もの足音が過ぎ去っていく。
今までなら騒動が終わるまで物陰に隠れてやり過ごしてきただろう。しかし、今の俺にはワクワク感しかない。
「グラトニー、最初の仕事になりそうだ」
廃屋を出て状況を確認する。そこは村のようで、まばらに家が建っている。舗装されてない土の道に、二階建てのない藁葺きらしい家屋。家畜のものだろうか、少しの異臭が鼻についた。
騒がしいのは右手側か。人の怒号のようなものが響いている。
俺はゆっくりとそちらへと向かった。
村の入口にあたるところだろうか、剣を持った男たちと、藁を掬うためのホークや鍬を手にした男たちが向かい合っている。
「抵抗ぜずに金目の物を出せば、命は助けてやる」
「色々な物を奪われたら、俺たちは死んじまうんだよ!」
余裕のある盗賊側と、必死な様子で返す村人。このままぶつかれば、どういう結果になるかは既に見えていた。
「あれが盗賊の頭か」
両腰に剣を差して、腕を組んでふんぞり返っている男がいた。戦いの基本は、頭を倒すこと。元の世界の知識だが、大きな違いはないだろう。俺は直接奴を狙えるように、移動を開始した。
盗賊を挟んで村とは反対側に出る。辺りはまだ青々とした背の低い作物が作られている畑で、隠れる場所はない。
盗賊は全部で十五人か、頭とその左右に少し立派そうな幹部。村民の前には五人が抜刀して構えて、残りが周囲を見渡している。
頭までは500mほど、走っていけば程なく見つかるだろう。厄介なのは、弓を持った連中か。全部で三人ほど見える。
「いけるか?」
『主なら余裕だ』
魔剣の言葉を信じれなければ、この先はないも同じ。元より恐れる心は捨てていた。
木陰を飛び出て盗賊の頭に向かって走り出す。今までに感じた事のない速さで進み、200mを一気に駆け抜ける。
「頭、後ろだ!」
その辺りで周囲を警戒していた一人に見つかった。残り300m、ばらついた部下は集まれないだろうが、武器を構えるには十分な時間がある。
俺が駆けつける間に、六本の矢が飛んできたが、ほとんどは見当はずれ。唯一肩を掠めそうなのだけ、切り払った。目もかなり見えている。
「てめえ、村のモンか!」
左右の幹部が切りかかってきた。それを魔剣で切り払い、盗賊の頭へと肉薄した。
立っている盗賊はいなくなり、俺は剣を鞘に納める。中には絶命している者もいるようだが、盗賊だし関係ないだろう。殺人を恐れる心も無くしていた。
「あ、あのぅ……」
周囲を見回していた俺に、村人の一人が話しかけてきた。
「俺は通りすがりの旅人だ。盗賊に襲われて難儀しているようなので、助太刀した」
「は、はい、ありがとうごぜえます。ぜひ、村長の家さ、来てくんろ。せめてものお礼をさせていただきます」
俺のことを特に疑う様子もなく、村人は村の中を案内してくれた。
村の中心部にある大きめの家に、連れてこられた。集会所としても使われるのだろう、十数人が車座になれそうな板間だ。
そこで四十代と思われる体つきのよい男が、俺を迎えていた。
「この村で村長をしているジョナサンと申します。この度は、村を救っていただき、ありごとうございました」
村長というとヨボヨボの爺さんってイメージだが、村の取りまとめ役と考えたら働き盛りの男の方が不自然ではない。
「偶々、居合わせただけです」
「冒険者様でしょうか?」
「この国の仕組みはわかってないんだ。遠くから旅してきたからな」
「なるほど、そうでしたか。この辺りには冒険者と呼ばれる者達が、旅をしながら盗賊や魔物の討伐を行ってまわるのです。ええっと……」
「マモルだ」
「マモル様もこの辺りで旅を続けなさるなら、冒険者として登録しておくのが、良いと思います」
「ふむ、それはどこで?」
「近くの街へ行けば、手続き可能です。明日にでも盗賊の生き残りを連れていく際に、案内させましょう」
「それは助かる」
「いえ、助けて頂いたのはこちらなので。今宵は我が家にお泊まり頂ければと思います。おい、ベス」
村長が屋内へ声をかけると、十代半ば、俺と変わらないくらいの女の子が現れた。
「娘のエリザベスです。我が家の事は、これに何でもお言いつけ下さい」
エリザベスと呼ばれた少女はこちらをやや緊張した様子で見つめて、頭を下げた。
エリザベスは、赤っぽい茶色の髪を二つの三つ編みにして背中に垂らしている。俺よりも小柄なので150cmそこそこ。線は細目だが、胸の発育は良さそうだ。
顔立ちは化粧っ気もなく、そばかすの浮いた愛嬌のある顔立ちで、決して不細工ではない。
「こちらが客間になってます。何か不都合がごさいましたら、遠慮なく申しつけ下さい」
案内されたのは、四畳半ほどの部屋。簡素なベッドとクローゼット、サイドテーブルにイスが一脚。ホテルの一室といった感じで、清掃もできていて不満はない。
「湯か水か頂けますか、あと手拭いのようなものと」
「はい、ご用意いたします」
エリザベスはぺこりと頭を下げて出て行った。
「この世界で冒険者として過ごせば、お前の欲求は満たされるのか?」
『そうだな、魂が食えれば文句は無い。人であろうが、魔物であろうが』
「それで俺はどうなる?」
『主の望むままに。誰に気兼ねすることなく、怯えることもなく、我を通して生きればいい』
「そう……か」
魔剣は俺の過去を知っているようだ。取り繕う必要もない。ただ俺の望むままに生きる……か。
エリザベスに体を拭いてもらい、夕食を食べ、エリザベスと夜を共にした。
予想以上に男慣れしていたエリザベスに、リードされる部分があったのは悔しい。体力だけで激しい営みもしたが、楽しんでいたようだ。
思春期の少年なので、性欲にも貪欲にいくかも?