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 川岸に建てられた隠岐ブラザーホテルのフロントマンは、二人をみとめると、手を止め、凛と真っ直ぐに、そしてニッコリと、歓迎の態度を表した。

「いらっしゃいませ、お客様。お名前をお聞かせください」

 一応アニキ分たるワープが、それゆえに代表に立つ。相手を見上げながら、

「すみません、飛び込みです。泊まれませんか……?」

 交渉を始めたのだった。

 フロントマンは優秀なのだろう、優しげな顔を崩すことなく返答した。

「あいにく、満室でございます。なにしろ、シーズンですから。今からですと、他の宿泊施設も、相当きびしいのではないでしょうか……」

 気の毒そうな顔になる。でもこれは当たり前のことだった。1ヶ月前でも予約が取れないこんな時期に、ノーリザーブで来る方がおかしいのである。ワープも、そして、ドールもだ!

 ところがワープは、平然と無理押ししたのだ。

「一度でいいから、今一度、部屋の空きを確認してくれませんか……?」

 二人(コンビ)にとって幸いだったのは、このフロントマンが優秀だったということだろう。

「かしこまりました」そう応じたのだ。そして実際に、お客(ふたり)の目の前でデバイスに指当て操作し始める――


 きゅんっ。


 フロントマンが驚いた顔をあげた。

「1室、ツインが空いてございます!? あれ? あれ? 総部屋数36? 1室多い……?」最後の方は小声になっている。でもこうなればワープは元気なものだ。ほやん、と――

「ここは、もとから36室のホテルでしたでしょう……?」

「……そういえば、たしかに。あれれ? いや、まことに――どうも」

 優秀なフロントマン、さすがにすぐに立ち直った。現実が現実ならば、それが現実なのである。一度首を振って、シャキッと集中、さわやかな顔に戻る。

「ではツイン一室……」そしてせっかくのその顔を、たちまちに曇らせた。「お連れ様は、その……?」

 問題発生だ。これには慌てて、

「ぼくの“男”友達です!」とくに男を強調してうったえるワープだった。

 でもこれは――心配しなくても、パムホで名刺、証明書付きパーソナルデータを送れば、性別年齢その他は、誰もが文句なしに納得なことだったのである。

「――頂きました、ありがとうございます」安心の顔。「では御一泊ということで。食事はどうなさいますか?」

 ワープはここで、素知らぬ顔して気取ってる相方に意見を求めた。面倒ごとを押しつけやがったコイツにも、なんか言葉をしゃべらせたい思いもある。

「どうする……?」

「夜も朝も、ここのレストランで頂こう」即答だった。ワープは意外そうに、

「朝はともかく、きみは夜は、外に出るかと思った……」すぐに気づいて言葉を続ける。「ああそうか、あのトリオを警戒してるんだね……」

 綺麗な男の子はわざとらしくため息をついた。

「バカ。きゃつらよりキミの誘導の方が難儀だからだよ。わかれよ」

「……」

 難儀返し。ぐうの音も出ないワープだった。


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