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「“黒髪のプリンス”……」
それは、当人以外の全員が、成長したワープの姿を見て異口同音に発した言葉である。
なんとドール、そしてリューシィまでもが、ワープに畏怖している。
ましてや――
金頭が、諦めたように、両腕をあげたのであった。
降参――である。
「せめて、タメ歳でやり合いたかった……」
とは、二人の共通した思いだったのだが、ともかく――
ワルゴトは、ここにきっちりと決着をみたのであった。
「バツを受けてもらう……」
大人ワープが仕切って言う。
「ホテル乗っ取りの件だが?」
土下座の三人、これには否定的な返答だった。いや、それしか出来なかった、と言うのが正しい。
一兄が代表して説明する。
「オレらの権限をはるかに越えます。この案件に関しては、島一族様が、現金を用意して頂かぬかぎり、どうしようもないとのみ、オレらからは言えませんのです……」
顔を暗くさすこちらの三人だった。
首を振り、ワープは裁定した。
「じゃあ、単純に。お前らの不作法についての、バツだ……」
一回、身を震わせるトリオだった。今のワープには、それほど得体の知れぬ怖さがあったのである。第一、目の前で成長したのだ。化け物と同義であった。
そのワープが言った。
「タバコ、吸えよ……」
「へ……?」
「いいから、ゆっくり味わって吸えよ。なんも言いやしないし、警察とも無縁だから……」
そんな優しげな言葉に逆に、覚悟を決めたか――
素直に、おのおの、ポケットから箱を取り出し、煙を飲み始める。
きゅんっ。
青い顔した三兄弟が、逃げるように走り始める――
その後ろ姿に大声で呼びかけるワープであった。
「約束しよう! 今日の最終便に間に合えば、この“呪い”から解放される、と!
さもなくば、毎夜ごとにここに連れ戻され、同じことを繰り返さすぞ! わかったか!
ならば気張れ、頑張れ。今こそ頑張るのだ――!」
果たしてそのエールは届いたか、どうか……。
「……」
後ろ姿を見送り、その後ろ姿をまた見守る、ドールとリューシィなのであった。




