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15:01――ここは、現在から44分前の現世、第二展望台である。
「……」
ほう、と息つくリューシィだ。
「少しは驚いてくれないと張り合いがないですね……といっても、数十分前じゃインパクトはないか」
残念がるドール。
「最大、百年前に行けるんだけどなぁ……。興味ありませんか? 一世紀前の島民は、どんな人たちだったか? どんな意識だったのか? レポートが捗りますよ(笑)」
「時間旅行が想像できないくらい凄いってことは、頭では理解できるんだけどね。なにぶん、さっきのジャングル世界のインパクトの方が大きすぎて……。逆に、今のわたしの世界が、ショボく見えちゃって、仕方ないの」
これにはワープが真剣に答えた。
「あの世界のリューシィだって、貴女をうらやましがってんですよ。無限個の全員がお互いにそうなってんだ。だったら、自分が変わりましょうよ……。今、リューシィは、いろんな事を知っています。無限個とは、言わずとも、島の可能性を、少なくとも、沢山考えられるはずです。頑張りましょうよ……」
ドールもまた、口添えする。
「未来へはジャンプできない。現在が最先端の、ボクらの仕事場なんです。ボクらは、未来を信じながら、一生懸命現場作業をする。生きるって、そゆことだとは思いませんか?」
「ゴメン、グチっちゃった……」
そして、リューシィは悲しく微笑んだのであった。
「……」
「……」
「ところで――」リューシィが明るく声に出した。
「――なぜ、15:01の時点に来たんだっけ?」
ここでようやく、不自然さに気づいた二人だった。
「そう言えば、そうだ――」
「査察、来ないじゃん」
焦ったようにパムホを見るも、アウト判定はされていない。有効なままである。
つまり、本当に査察は来ていないのだ。
「絶対くると思ってたのに……」
「これは……?」
なんとも――気まぐれな“システム”である……。
「ねぇ」
リューシィが提案する。
「だったら、一度現在に戻らない? そこで、セーフな状態のままだったら、今度こそゴールすればいい。査察がない以上、この過去の世界でゴールするのは意味がない。これがわたしの記念すべき初ゲームということもあって、このままじゃ気分が乗らないわ」
「確かに。ここがすでにゴール位置なんだから……」
「もし現在に戻って、そこでアウトになっていたとしても、その時はまた“ここ”に来たらいい、か。その場合、穴は15:45からだから、TTのルールに抵触しない。パムホ反応が二つにならないよう、“今から1分後の未来”に、来たらいい。そこだけ注意したらいいんだ」
「じゃあ、そういうことで!」
今は15:06。つまり時間旅行の旅行時間、5分。
帰るべき現在は、15:45 + 5分の15:50。
ピュンッ。
こうして三人は、ある意味、“システム”の罠に落ちてしまったのであった。




