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TTする前にワープが言い出した。
「ローソク島の画像とりたい!」
「ああ、ボーナス点狙いの、ね」
「それもあるけど、純粋に趣味として……」「ふうん……」
すかさず、ドールがリューシィに、ワープの写真好きを説明する。納得して一歩引き、微笑みながらワープを見守る彼女だった。
「でも、この展望台にもがっかりね。せっかくここまで下りてきても、この位置からは、夕日に重ねることできないんだから。ただ眺めるだけ。そして見た後は、苦労して帰り道を登らないといけない……」
「船代を取れなくなるから、ワザとこうしたのでは――?」
ドールと二人して好き放題言っている。
ワープは笑いながら振り返り、口を挟んだ。
「リューシィは地元民なんだから、もっと頑張ろうよ……!」
「言われてしまった。(笑)……でも、何を頑張れと?」
「新しい観光価値を見いだすことに、ですよ!」
「う……。その言葉は心に効きますわね」
「たとえば、あれ。ローソク島の根元で、岩礁に、波が白く砕けているでしょう……?」
「そうね」
「あの白波、“炎”に見えませんか?」
これは――意外な指摘だったのだろう、目を見開く。
「そう言えば……わあ君すごいじゃない!?」
そして瞬時に理解する。感嘆の声をあげる、聡いリューシィだった。
見方を変えると、新しい価値が生まれる。マネをしに、この地に訪れる観光客が増えてくれるかもしれない! そういうことなのだ――
ドールも理解し、されど冷静に、
「でも、この角度だと、ずっと沖の方で白波が砕けてくれないと、ローソクの芯と重ならないよね?」
「否定的になったらいけない!」こうなったらすぐにリューシィがフォローする。ワープはそれを励みにリューシィにモデルを頼み、二つ返事でオーケーしてくれる彼女だった。
ローソク島とリューシィを重ねて、ローソクを手に持つ格好で数分……。
しかし――
人生、いつも、うまくいくとは限らない。
白波は発生してくれない。
ドール、気の毒そうに、
「あそこら辺だと、岩礁もないだろうし……」
さすがに諦めかけたのだった。
そのときだ。
偶然、“この世界”の、ジェットフォイルボートが沖に現れたのだ。
個人の船、レジャーなのだろう、無軌道に海上を走り回っている。その楽しげな様子にこちらまで感化される。まるでここまで、船上の歓声が聞こえてくるかのようだった。と――
ボートが沖から、島影に、縦方向に消える――
「今だ!」
シャッターボタンを押す。その後すぐに――
ボートがUターンしたのか、縦方向に現れ、直角にターンし、横へと走り去っていく――
ワープに天啓が舞い降りた。
「リュー、息を吹いて火を消すポーズ!」その勢いに押されて言うままになる彼女――
「――!」
できあがった画像は――
「青海原をバックに、白熱光を放つローソクを手にする少女……」
「少女に息を吹きかけられ、白く煙をたなびかせるローソク……」
の、二枚。
正直、芸術作品としての写真、の価値はわからない面々である。
だがそれは――それぞれに、満足感を覚えさせた、そんな確かな二枚になったのであった。
うれしさに思わず独白するワープだ。
「それにしても、偶然にしても、あのボート、都合よく現れて、良く働いてくれた……」
意外そうにドール、
「ボクはまた、キミのMTの能力かと思ってたんだが?」と白状。わりと本気で演出と思ってたらしい。
ワープは首を振り、答えた。
「あんな遠くまでは、力は及ばないよ……」
「ふうむ?」
ワープ、感謝の意をこめて笑い、
「だから、ひょっとして……」期待もこめて――
「ん?」
「未来のぼくたちが、ヘルプしに来てくれたのかもしれないね……」
と言ったのだった。
なんとも、ドール、少し困惑げに、
「現在が最先端の未来で、“いわゆるそんな未来”は、未定でまだないはずなんだがなぁ?」
穏やかに主張する。
「だから、ぼくらと違う、ぼくらの知覚できない時空間からの訪問者かもしれないってことさ……」
「……さすがに都合よすぎ。偶然に一票」
「偶然でないとしたら、粋だよね……」ここは押す、ワープ。
ドール、
「つまり、ボクらの未来の予定が一個、増えたということさ。ウフフ!」
そう、話を納めたのだった。




