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銀髪の子は、小さなあごをさりげなく、ある方向に振る。黒髪の少年も自然なままに、視界の片隅にその光景を取り込んだ。
金、緑、赤――
あの、若年性非常識的粗暴人の、三人組だった。七類港出航時、船内で、銀髪くんを囲い込みそうだったので、機先を制して割り込んで事なきを得たんだが、諦めずにまだ、付け狙っていたらしい。向こうで不自然なまでにさりげなく、立ちタバコ。こちらにチラチラとした、色の悪い視線を送ってきている。
髪の毛を染めているのだろう、一番の長身が金髪。ついで、金髪男子よりも年下なのだろう、双子かも知れない、姿形が似通った二人が、それぞれ緑、赤に、頭髪を染めている。
未成年だろうに、こんな場所で“タバコ”だなんて――“隙”だらけだ。黒髪の少年は彼らの服装と手荷物の観察を続けて、三人ともプレイヤーだと判断したのだった。
人出があるから今はいいけど、付きまとわれたらやっかいだ。無意識にため息をつく。目線を戻し、
「美人は得だね……」のんびり皮肉ったら、
「罪なのさ」ムフンッと鼻息荒く返される。「――で、当然、ボクを守ってくれるんだよな?」目をキラキラさせている。
「きみ一人で、余裕であしらえるんだろう? それに、船内じゃ結局ぼくも追い払われた。よけいなお節介をしたと、実は反省してたところなんだ……」
「かんぐりすぎ! キミの旅を気遣った、ただそれだけさ。実際、左舷席には満足したろ? でもボクは、キミに隣に座っていてもらいたかったんだ!」
「どうだか……」
「現に今! この通り、キミに一緒にいてほしいと表明してるじゃないか」わざとらしい作り笑い。
どうやら口では敵いそうになかった。む~~と一つ唸って、やがてしぶしぶと頷く黒髪少年だ。
「安全はお金で買おう。まだ明るいけど、今のうちホテルに入っちまおう……」
「フン。まぁ、君のレベルに合わすよ。文句は言わないさ」
「それを文句と言うんだよ……」
「かんぐりが好きだね」
「……」肩をすくめ、振り向いた。
きゅんっ。
「はいそこの三人! そうお前らだ。逃げんなよ!」
いつの間に出現したのだろう、一台のパトカーの拡声器が、高圧的な音声を響かせたのだった。
突然の事態に、タバコを指にし、あるいは咥えていたDQNトリオは、まさに幽霊でも目撃したかのように身を凍らせる。次の瞬間、息をそろえて逃げ出した。見てて思わず吹き出してしまうほど、それは慣れた挙動だった。
一瞬の間で、
「待て、コラ――!」
真っ赤になったお巡りさんの顔が見えるようだった。サイレンを鳴らしタイヤを音させ急発進したはいいが、いかにパトカーとは言え、街中に逃げ込まれたらトリオの勝ちだろう。いや、されど、パトカーもまた、地元のアドバンテージを生かして追い詰めるだろうし、これはけっこういい勝負になりそうだった。
黒髪はほくそ笑んだ。とにかく――
ああなったら、こっちに構っていられまい。その間に、ぼくらはどこにでも隠れることができるのだ……。
「ウーン……。こんな偶然もあるんだね? 判断保留だ」
銀髪がそう評して、つまらげに、小さくあくびした。