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「今回は……いい、勉強……させてもらったよ……」

 息荒く、そう強がるドール。

「スマンが……ジッパー下げてくれ。暑くて……死にそうだ……」

「ううん……」

 これもへたり込んでいたワープだった。のろのろと起き上がり、ジッパーを引き下げる。


 猛暑に、溶けたバターのように出てきたのが、いつものドール少年――

 汗でびしょびしょになり、衣服を肌に張り付かせている。

 地に、弱々しく四つん這いになるその姿はどこかの王国のお姫様のようでもあり、妖しくも美しいその姿であった。


 ワープは旅行鞄を彼の目の前に置いた。

「その衣服、24時間ごとに“買った当時の新品”に戻してたんだろう……? もうどれくらい使い回してるかしらないけど、この際……、いい機会だと思って、新品に替えようよ……。

 差し出がましいけど、用意させてもらったよ……」

「ぐう……」

 それしか言葉がないドール。いやそれほど、キツかったのだ。

「中に、新調の開襟シャツにデニムパンツ。それと、バスタオルと汗ふき取り用ボディペーパー(さらさらパウダー入り)入れてる。冷たいミネラルウォーターのボトルも入れた。遠慮なく使ってほしい……」

「ここで、ハダカになれってか……?」

 へろへろになりなからも、さすがの誇り高きドールだった。

「現世のここは、トンネルのない、森の中の、袋小路のどん詰まり。誰も来やしないよ……」

 真っ赤になってドール、

「あっち向け……!」

 これも真っ赤になって、

「うんうん……」

 応じるワープだった。

 向こうを向きながら、ワープ、

「風があるうちにどうぞ……。でなきゃ、蚊に喰われちゃうよ……?」

 それで、意を決したドールなのであった。


 がさごそ、という衣擦れの音が収まった。

「おい……」とドール。

「うん……?」とすっとぼけのワープだ。ゆっくりと、期待を秘めて、振り返る。

 そこに、まさしく思い描いてた通りのドールの姿があった。

「このシャツ、ずいぶん、シースルーぎみなんだけど? それに、デニムパンツも前よっかローレグで、面積が少なくなってるし?」

 両手で腰を隠しもするのだ。「後ろは見るなよ?」

 焦って弁明するワープだった。

「涼しい方がいいだろうし、なにぶん、目見当で選んだから……。でも」

「ん?」

「とても似合ってるよ……。かっこいい。ちゃんと着こなすあたり、さすがドールくんと感服する……。まじイケてるよ。ヤバイ、参ったな……。ぼくはドキドキしてる。どうしたらいいんだろう……」

「そ、そんなに? エヘッ!」

「そうですよ……」

「フフン……♪」

 そういうことになったのだった。


 ドール、半分になったボトルを放って寄こす。嬉しさを露わにし口にするワープだ。自分も喉が渇いてる。体にしみこむような冷たさだった。


 ちなみに、シュラフと着替えた衣服は、ワープ、鞄にて無難に処分した模様である。

 無限の世界には、無限の需要があるということだった!


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