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11:31、別世界へ消えてから1分後の現世に出現した。
対する“システム”は、ある意味、容赦なかった。
“ドールのパムホ”を、“今”、鳴かせたのである――
キュルッ、キュルッ、キュルッ――
ドール、画面を見て、「ボクだけか?」と余裕。そして次の瞬間、ようやく見落としに気づいたのだった。
「しまった!」
「どうしたの? 早く認証を――げぇえ?!」
ワープも気づいた。
ドール、体質が変化したままだったのだ!
嗚呼! TT&WTは――ドールが“青瞳”の“本人”に戻ってから、やるべきだった!
もう遅い! 後の祭――!
「認証内容は?!」
「“虹彩”!」それはいかにも皮肉的で――
「別空間に待避しよう!」
「いったん査察が掛かってからのWTは、アウトだ……! それよか、過去へ!」
「いったん現在に、だ! その瞬間、アウトだ」
「――」
「――」
絵に描いたようなパニック。冷静になれれば、適切な対処法に気づけたかも知れない。だがこの瞬間、二人とも真っ白になって、なにも考えられなくなり――
「あ――でもそこから、11:31からさらに1秒でも前に行けば……? あれれ?」
「2回目だから“穴”――?! え、穴なのか?」
「ええと……ええと……?!」
「早く! 早くしないと――!!!」
キュルッ、キュルッ、キュルッ――!
穴ではないことに気づけない。穴は13:10からだ。でも気づけない。とどのつまり、二人して、一番安直な解決法にすがりつくことになる。「――じゃあトンネルだ!」
「速攻でもとに戻るんだ!」
キュルッ、キュルッ、キュルッ――!
「時間がない! 現世のトンネルはここから遠い――あわわわわ、もとよりアウト領域にあるんだったっ――け!? だめだ……!」
そして――
「そうか!」「そうだ!」
二人して同時に気づく。
「変態の、もう一つの発動条件――!」
ワープは旅行鞄の口をもどかしげに開く。そこから取り出したのは――
小学生男子が思いつく、鞄に入るサイズの、要求を満たす一品。
登山用寝袋だった!
「パムホ持ったか? じゃあ入って――!」
熱した地面に冬山用寝袋を敷き、ジッパーを開いてその中にドールを潜り込ませる。
ジッパー上げて、顔以外をすっぽり覆って――
キュルッ、キュルッ、キュルッ――!
「まだか――?」
じれて、見守るさなか――
神秘的に、ドールの瞳の色が、宇宙の青紫色に変ずる――
シャープな顔かたち、それは、まさしく美しい、ドール少年そのものだった!
キュルッ、キュルッ、キュルッ――!!!
「早く!」
ドールは急かされるままに、シュラフの中で、身をよじり、腕を曲げて、パムホを瞳の前にかかげる――
パムホが鳴ったのだった。
ピコ~~ン……。
認証成功! この瞬間――
どゥ――っ、とへたれた二人だったのである。




