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16:40、西郷港到着。こちらではどうやら一雨あったらしく、桟橋から埠頭に降り立つと、地面のコンクリはさっぱりと洗い清められていた。
夏である。PM5時とはいえまだ日がある。冷房の効いた船内との温度差、湿度差にあらためて驚きながら、黒髪の少年は、隠岐島さいしょの一歩を、楽しそうに元気に踏み出した。
多くの観光客が内陸に向かう。対して少年は、一人、埠頭の先、突堤に歩いた。
大勢の島民が、カラフルな釣竿を操っていた。ウミネコが賑やかに鳴いていた。誘われて見上げると、白い入道雲だった。
突端で立ち止まる。やさしく風が吹き、はじめて、海がきれいだな、と思った。
西郷湾。入り江の中は、深く青く、静かな波なのだ。
若草色の旅行鞄を地に置き、腕で顔の汗をぬぐう。
来てよかった……。
少年は一つ頷く。そしてパムホを手にし、なにやら操作をし始めた。そのときだ――
「おい、一人でさっさと行っちまうなんて、つれないじゃないか!」
どこか笑いを含んだ張りのある声。マジでびくっとなり、目を丸くして振り返るとあの銀髪の綺麗な子。腰に手をおいて、スタイル良くも偉そうに立っている。
少年は動揺のままに、
「え? え? え? きみぼくのこと知ってるの?」まるで頓珍漢な応答をする。だが銀髪は鼻で笑って、
「キミこそどうしてボクのこと知ってるのさ?」これもまた不自然な返答をするのだった。
ただ、このやり取りは二人には通じるものがあったらしい。黒髪の少年が先に反応を見せた。
「初めてだ……」
少年は万感の思いか、あるいは逆に、今更ながらの警戒感からか、それ以上言葉が出てこない様子。
「にらんだとおりだ!」
対して銀髪の子はあっけらかんとしたものだった。得意げに、かつ楽しげに、さらにはズケズケと、
「そして、キミは“プレイヤー”だろう?」
隠しておきたいことをオープンにしてしまう。抗議しようとして、瞬間的に気づいた。「――きみもかい?」
「遅い遅い。ノロマだな」
そう言って自分のパムホをさらす。画面には隠岐島のマップが表示されている。
「キミの“ライン”をコピーさせろよ。コンビ組んでプレイしようぜ!」
さすがに笑った。
「――ダマシの常套句だよそれ」
「一緒にやりたい心は真実さ」
「ただやり方の解釈が異なる、だろう……」
「言うね。けど、互いに相手のこと、知りたいと思うだろ?」
「そりゃ思うけど……。きみは、なんだか難儀そうだしなぁ……」
「アハッ、意気地なしだな。じゃあ、ここでチャンスだ」
思わせぶりに言葉を続けた。
「敵となるか味方となるかは、キミしだい、てことでどうだ?!」
「どうゆうこと……?」




