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再び口を開くワープだ。
「例えば、こう……。
(破線はゼロ時間移動)
12:00 S スタート。
13:00 A 到達。ここでかまわずゾーンアウト。ゲームオーバーとなる。
14:00 B 到達。山を大きく回り込んで、再びゾーンインしたわけだ。そして、
ここで、ゾーンアウト前、つまり“13:00以前”の時点にTTするんだ。
(12:59)B ←たとえば、こんな感じにね……。
ちなみに、TTのジャンプ時間(移動時間)は、ゼロ秒ってことだったよね。
ゼロ秒で14:00時点から12:59時点に移動したってわけだ。で……。
(13:59)G そのままゴールまで行く。
ゴール後ただちに現世(現在)に帰還するとすると……。
このとき、時間旅行時間はB~G間の1時間だから、
14:00 + 1時間となり……。
15:00 G の現在に戻って来ることになる。めでたしめでたし……。
さぁ判定は……?」
「当然ペケだ。
なぜなら、13:00含む13:00以前にジャンプすると、ゾーン内に、ボクのパムホ反応がAB、2個生じることになるからさ。これは明確な物的証拠となる。何か不正が行われていると判断され、ゲームオーバーとなる」
「ならば、13:00以降にTTするんだ。
(破線はゼロ時間移動)
(13:01)B ←たとえば、こんな感じにね……。
(14:01)G ゴール。判定は……?」
「まったくペケだ。理解のためわざと例に出したんだろうが、さっきよりヒドイ。
なぜなら、13:00含む13:00以降の世界は、ボク自身のゾーンアウトにより、“ゲームオーバーが確定した世界”だからさ。
なおかつ、ゾーン内と外に、ボクのパムホ反応が2個生じていることに変わりはない。
さっきよりもヒドイと言った意味がわかったろ」
「ならば、ゲーム有効時間となる、スタートの12:00よりも前に……具体的には、最悪でも11:00よりも前の時点に、TTするんだ……。
なぜ、11:00なのかというと、A~B間に1時間かかるからだ。
例えば、こう……。
(破線はゼロ時間移動)
12:00 S スタート。
13:00 A 到達。ここでTT。
(10:00)A ←たとえば、この時点にジャンプ。
ここで平気にゾーンアウト。“まだゲームは始まってない”からね。
(11:00)B 到達。ここで重ねてTT。
((13:01))B ←たとえば、この時点にジャンプ。
なぜ、現世である14:00(13:00 + 1時間)に帰還しないのかと言うと、
パムホが消える13:00直後に、ただちに査察にかけられるから。
1分後の13:01だったら、認証手続きにまず間に合う。
ここで注意。
“システム”からすれば、たったの1分間でA~B間を移動して見えることになるし、かつ、その間の走行ログがノーデータになって、怪しさプンプンなんだけど……。どこのだれが、“時間旅行”をやったなんて話、マジメに相手にするだろう……? トリックを証明できない以上、“システム”と言えど、セーフと判定するよりない。
ぼくらは平気で旅を続けて……。
((14:01))G ゴール。ただちに帰還。
旅行時間はA~B間の1時間と、B~G間の1時間。計2時間。
13:00 + 2時間だから……。
15:00 G 現世に帰還。
さぁ判定は……?」
「判定は……ペケなんだ。残念。
後出しで悪いけど、ボクのTTには、いくつか制限があるんだ。
まず、TT中に、重ねてTTできない。
かならず、一度は現世に戻ってこなきゃならないんだ」
「なら、修正すればいい……。
(破線はゼロ時間移動)
(11:00)B 到達。ここで現世にいったん戻る。
14:00 B 13:00 + 1時間だから、こうなる。
この世界は“ゲームオーバーが確定している世界”だけど気にしない。
なぜなら、今から13:01にTTするから。
(13:01)B にジャンプ後、査察を受けて、認証された世界に歴史を“上書き”するから。
(14:01)G そしてゴール。ただちに帰還。
旅行時間はB~G間の1時間。14:00 + 1時間だから……。
15:00 G 現世に帰還。
これでどうだ?!」
「よく考えてくれたけど、申し訳ない、判定はペケなんだ。
制限その2。
2回目以降のジャンプでは、以前のジャンプで穴を開けた時間帯へは、24時間待たなければ入れない」
「はい……?」
「そんな顔すると思ったよ……」
「ねぇ、ルールの後出しはやめようよ……」
「最初にルールを全部、完璧に、詳細に語りだしたら、キミ、ぜったい引くだろう? 仕方ないんだよ」
「む~~……」
「じゃ、制限その2の説明だけど……」
ドールが語り出した。
「具体的に例をあげる。
(破線はゼロ時間移動)
12:00 S スタート。
13:00 A 到達。ここでTT。
(10:00)A この時点にジャンプ。ここでゾーンアウト。
(11:00)B ゾーンインして到達。ここで現世にいったん戻る。
14:00 B 現世着。以降、現世にいるとする。
現世の時の流れは、ボクと関係なしに自ら流れている。
それからすれば、13:00~14:00のあいだ、ボクは現世から消滅していたことになる。これを“穴”と呼んでいる。
この穴の時間帯に、他の時点からジャンプして来れないんだ。
(破線はゼロ時間移動)
仮に、それならばと、(12:59)時点にジャンプして来たとするよ。この場合、1分後に自動的・強制的に、現世(現在)に送還されてしまう。
なんでこうなってるのか知らない。
そうゆうルールなんだとしかボクには説明できないんだ」
「でも、24時間まてば、行けるようになるんだね……?」
「そう。だけど現実、こんなショートコースで、24時間もじっと待機するのはやってられんだろう?」
「今はゲームオーバーで終わらせていいんだよ……。たとえば数年後、戻ってきてやりなおせば、それこそ無敵状態じゃないか……」
「少々……どころか盛大にズッコイこと考えるね。さすがに良心がとがめる。なんたって、未来知識があるんだから、言うとおり無敵プレイヤーになれるだろう。だけど――
第一に、そんなことして、楽しくないよ。
第二に、数年分だから、歴史が大きく変わってしまう。どんな現在になってるか、とても怖いよ。
第三に――実は引っかかるんだ、査察に。
A地点以前とB地点以降で、それぞれの年齢で査察にかかったら、まず確実に、成長による肉体的変化が察知されて、両者を同じ本人と認めてくれなくなる。
はたしてどれだけの年月の差までなら許してもらえるか知らない。けど、しょっちゅう査察が入るという現実から鑑みて、あまり“システム”を甘く見ない方がいいというのが、ボクの結論だ」
「ちなみに、1回目なら許される? たとえば……。
(破線はゼロ時間移動)
12:00 S スタート
13:00 A 到達。ここでTT。
(12:59)A わざとこの時点にジャンプ。
このばあい、1分後に、穴の時間帯になってしまうんだが……」
「ぜんぜんOK」
「ところで、制約の抜け道を発見したと思うのだけど……」
「どうぞ?」
「きみの、TC能力を使うんだ……」
「アハハン。さらに、どうぞ……」
「今はゲームオーバーで終わらせてもいい。一年後、戻ってきてやりなおす……。
このとき、自分にTCをかけて、一年前の肉体に戻ればいいんだ……」
「判定はペケだ。
TT同様に、TCにも使用制限がある。
現在から過去24時間以内の時間帯でしか、その魔法は使えないんだ。
一年なんて、論外もいいとこさ」
「後出しはやめようよ……」
「仕方ない」
「24時間と24時間だから、ちょうどぴったし、この手は使えないってことか……」
「ボクがなかなかランクアップできない理由がわかったろ」
「まぁ、ぼくの考えつくこと、専門のきみが思いつかないことあるはずないからね……。
結局のところは……」
「セーフのまま、一回のTTで、(13:01)B。つまり……。
B地点の(13:01)時点に、ジャンプアウト。
これを、実現できたら、いいんだ」
笑ったのだった。二人して――
(破線はゼロ時間移動)
「じゃあ、そろそろ出発しようか!」




