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無事に小道を通過し、国道485号に到達した。
「さぁ――!」
自らを元気づけるように声出すドールだった。
「ここで、はっきりとさせておきたい」
なにかを振り切るような、ガンとした声音である。
「これより先、コース中盤において、走行予定ルートである国道が、ゾーンから大きくアウトしているエリアを迎える。
このエリアは山岳地帯で、正真正銘、細道も抜け道も、助けになるようなルートは何もない。この国道しか道はないんだ。
さぁ――
出発時にキミからは、『一つの“賭け”をするつもり』とのみ、意思表示されてなかったんだが、今――!
“いろんな事情”が明らかになった今――
具体的に、どうするつもりなのか、あらためて態度を明確にしてもらいたい!」
対してワープ、まずスクーターを降りて、旅行鞄を手にした。
観客の視線を一身に浴びるかのような振る舞いで、中から取り出したのはラジコン。“多プロペラ式ヘリコ”だった。
先んじて、何よりもまず、ドールが言ったことには――
「さっきまで鞄の中に、そんなもの入ってなかったんですけど!」だった。
うん、と一つ頷くワープ。
「これが“OG”だよ……」もはや平然と、のたまうのだ。
「“四次元ポケット”か!」
わざとボケるドールにワープ、「そう。すばらしいよドールくん……」
真面目に返すものだから、更に窮するドールなのだった。
「“システム”が監視してんのは、結局のところ、パムホなんだ……」
説明するワープ。
「ならば、ドローンにパムホを乗せて、ラインに沿って一直線に山を越えさせたらいい……。
ぼくらは、かまわずゾーンアウト。ふつうに国道を回って、山向こうのゾーン内でドローンを回収したらいいってわけ……」
ドールが不満げに言った。
「まず“賭け”の意味を、明確にしろよ」
ワープ、了解するように頷き、
「“システム”によって監視されている、そのことなんだ……。
きみも気づいてるように、パムホの“位置情報”が、急速に、高度を変えたり、移動速度を変えたりしたら……“システム”にかぎらず、誰だって不審に思うだろう?
ただちに査察にかけられる。
ドローンにパムホ搭載の状態でこれやられたら、対応のしようがない。本人認証に失敗して、結局、ゲームオーバーとなる……。
ドローンを使ったとして、査察に引っかかるか、否か。
そここそが、ゲームの勝敗を決する、賭けとなる――」
ワープ、言いなおす。
「いや、賭けになるはずだったんだ……」
ドール、ウフフと応じる。
「なるほどね……。しかし、そして、今は違うと」
「もう、事情が変わってしまった……」
「賭けなどという、あやふやなコト、してられる状況ではなくなった、と――!」
ワープは答える。
「ぼくたちは、望む望まずに限らず、深い事情を知ってしまった……。
そして、リューシィを、それ以前に知ってしまっていた。
このことに運命を感じる」
「そうだな……」
「驚くべきは島一族だ。そして従業員たちだ。お客である僕らに、毛ほどの影響を見せはしなかった……。
この一点を以てして、ホテル経営は継続して彼らに任すべきだと――そしてリューシィは、後顧の憂いなく大学へ進学すべきだと、その認識を改めて強くしたんだ……」
ドール、満足げに息を吐いたのだった。
「フンッ……その言葉を聞きたかった」
ワープもまた、相方のその言葉に力を得る。目の色を強くした。
「そうとなれば、今回の“旅”は、確実にキメなくちゃ話にならない……!」
「キメられたら?」
「“そのあとの旅”という手がある……!」
「筋道が立って来たじゃないか兄弟!(笑)」
「だから……」
「だから、ドローン作戦はナシだ」話を受けるドール。
今度はワープが、声を励ましうったえたのだ。
「きみと出会ったのも、運命と感じている……。
パムホが人生の主役なんじゃない。
ぼくたちが、主人公なんだ……!」
やがて、ニヤリと、表情で答えたドールだった。
にこりとするワープ。
「ぼくらは、子供でよかったねえ……!」
「遊ぼうぜ、思いっきり――!」
ドールがそう、話を締めくくった。




