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「で、ぼくの能力についてなんだけど……。
ぼくには、並行世界間で、自分自身ふくむ万物(全体・部分)を、“トレード”できる能力があるんだ……。
さらには、他世界のぼく自身と協力して、物品を互いに融通しあうこともできる。“取り寄せ”、と呼んでいるけどね……。
ぼくにも、なぜこんなことできるのか、知らないことだよ……」
「……」
「どちらも、サイズ的な制限がある。余りに大きいものは、ムリ……」
「……」
「更に――
きみのように、複数の仲間とで、別世界へ旅行することも可能だ……。
ちなみに、旅行先への“移動時間”は、ゼロ秒だ。ここもきみのと同じだね……」
「……」
「ただ、きみのばあいと違って、旅行に、とくに制約はない。
無限個の並行世界には、“これが本筋の世界”という概念はないから。
どれもが、“本当の世界”だから……」
「……」
「が、“この宇宙”をぼくの現世とし、何をしても、必ず現世に帰ってこなければならない! という制約を自らに科している。でないと、行った先で、ぼくは二人になってしまうから……」
「……」
頭がクラクラする話だった。ドール、頑張って理解に努める――
「ボクは、一本の世界をタテに移動できる。たいしてキミは――」
「多数の世界を、ヨコに移動できる……だね」
「具体的な話をしよう」ドールが賢く提案した。
「昨日、キミは船の中で席替えをした」
「左舷席に座ってた世界の“ぼく”と、船の中の環境をトレードした……」
「ホテルに空き部屋があった」
「同様に、空き室があった“36室のホテル”と、これは一日だけ限定で、トレードした……」
「……」無言である。そりゃ、そうだろう、ご都合主義きわまる。余りにも荒唐無稽すぎる。
ドール、ようやく口を開いた。
「……環境をトレードされた別世界のキミは、“別世界のボク”の隣に座れて、さぞかし幸せだったろう。あ、意識が共通なら、結局キミもいい思いしてたんだ……?」
ドールにとっては、気分なおしの、軽口のつもりだったのかもしれない。
だが、これにはワープ、
「……」
シリアスに無言になってしまったのである。
ドール、焦り気味に声を発した。
「なんだよ、ヤだなぁ、不気味だなぁ、反応してくれよ……」
ワープははっきり言った。「じつは――」
「別世界のぼくの隣には、きみはいなかったんだ……」
「それどころか、ぼくの知覚する限りにおいて、数多ある並行世界に、きみは、いないんだ。
羽生ドールは、どこにもいなかった。
きみは、この世界にしか、ぼくの現世にしか――いない、唯一の存在なんだ……!」
きみは、何者なんだ? その言葉を飲み込んだワープだったのである。
やがて、「そうなのか……」ドールが反応。
蝉の声が、空気を沸騰させるかのように、響き渡っていた。
「なんだか、淋しいな」
後ろで、そんな囁くような声がしたのだった――




