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「この世には、お互いに少しずつどこかが異なった、無限個の宇宙が存在するんだ……」
ワープ、語り始める。
「ぼくらのいるこの宇宙のとなりには、この宇宙とそっくり同じ宇宙が存在するんだ。ただ、そこの世界では、若草色の旅行鞄が茶革になっている、そんな違いしかない……。
そんな世界が無限に並んでいて、ここから遠く離れるほど、差異は大きくなってるんだ。
そして、それぞれの世界に、“自分”が存在している。少しずつ、性格、能力が異なった自分がね……。
ぼくはその内の、状況が近しい多数の世界にまたがって、その自分の意識を、共用してるようなんだ。
他人からはよく、顔が『ぼやけている』と言われるんだけど、これがその理由なんだな……」
一区切りつけた。
これもまた絶句ものの話である。
ドール、理解を確認するように口を挟んだ。
「平行世界ってやつか?」
「さすがドールくん。でも、どうやら時間進行は同時みたいだから、どちらかと言ったら、“並行世界”、という文字かと……」
「時間進行が同時、とは?」
「並行世界同士は、“現在”という“端面”を揃えて、横一列並びでいっしょに未来に進んでいる、とイメージしてくれたらいいと思う……。
世界のその数は無限個。それがいっせいに未来へと進行してる……。
さっききみは『時間は止められない』と言ったけれど、その時間ってやつは、無限個宇宙を一気に動かす途轍もないエンジンみたいなものだから、誰にも止められないのだろうと思ったよ……」
ドール、攻撃するように鋭く、
「時間は一つなのか?」
対して、ワープ、長閑に、
「このような、ぼくたちの属する並行世界の“一つの群”は、こことは違う時空間にも多数存在するのかもしれない。そこにはそこの、エンジンがあるのかもしれない。
けど、ぼくには知覚できないことなのだよ……」
諦めたように、先をうながすドールだった。
「どうぞ……」




