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気を取り直して、ワープ、
「ちなみに、船の中ではどういう手順で三兄弟を躱したんだい……?」
ドール、答える。
「分かり易く、ボクを乗船一番目の船客とする。さらに、時間も適当に簡単な数字にするよ。PM3:30に乗り込んだとするんだ」
「うん」
「3:30。左舷席に着席する。
3:31。トリオが隣に詰めて座る。こいつらヤだなあ、よしTTしよう。
3:26。5分前に移動だ。
このとき、当然、船内はカラ。ボクは悠々、キミの知ってる右舷席に移動する。そして。
3:27。さぁ、現在へ戻ろうとするか。一分かかったから、戻るべき現在は。
3:32。に戻ることになる……。
こういうわけ。わかったかな?」
「3:26から一分間、きみは二人存在してたんだ……」
「そゆこと」
「もし、一分と言わず、十分くらいそのままにいたら、3:30から起こる状況を自分で目撃することになってたわけだ……」
「そゆこと」
「そうすればよかったのに! すごい見ものだよ……」
「それは慣れてないキミがそう思うだけだって。それよか、“現在の穴”を広げたくなかったからね」後半は小声だった。気づかず、ワープ、
「そうかぁ……」感嘆の声を発するのだった。
ドールは続ける。
「それに、十分も時間かけたら、船内は混み合ってしまう。現在に戻りにくくなる」
ワープ、すぐに食いついた。
「もし、TTした先に人がいたら、どうなるのさ……?!」
対して、余裕のドールである。
「そこは融通がきくようだよ。自然な形で衝突を避ける自動機能つきだ。親切なものだよ」
ワープ、食い下がる。
「集団がびっちり、というイジワル設定だったら?」
「逆らわず集団の外側に出ることになるな。だいたい、場所の相対位置追従機能や出現位置の自動補正機能がなかったら、過去に行ったら宇宙空間だよ」
「なるほろ……」
納得したのだった。
最後に、
「こんなボクの能力だけど、時間停止だけは出来ない。
時の流れそのものを止めることは無理のようだ。
以上だ。さぁ――」
ドールは囁いた。
「キミのターンだ……!」




