31
「ボクには、なぜかは知らない。時間を操る能力がある」
ドール、続けた。
「特に分かりやすい能力は、キミが言った、時間旅行だ。
具体的に、現在から、-100年の範囲内で時間旅行ができる。複数の仲間とでも可能だ」
「マイナス100年って……?」
「未来へは、行けないんだよ。未定なものだからかもしれない。つまり、現在が、最先端の未来なんだ。だけども……」
「どうぞ……」先をうながすワープ。
「未来へは行けない。それはそうなんだけど、現在にいたままで――自身含む、あらゆる対象を、±50年の範囲で、時間変化させることができる。
そのやり方でなら、対象を、その未来の姿に変化させることができるんだ。
でもね、その姿は、沢山の選択肢の中の、一つの可能性の姿でしかない。将来かならずその姿になると保証されたものではない。あくまで未来は未定なままなんだ」
ワープ、理解を確認するように口を挟んだ。
「仮に、未来変化させたぼくの姿が、お巡りさんだったとする……。けれど、実際は、長じるとヤクザになってしまってた、てこともあるということ……?」
「キミは飲み込みが早くて助かる……」
ドール、いったん区切った。整理して再び話し出す。
「ボクの時間能力にはルールが存在する。
仮に、時間旅行に1時間使ったら、帰ってくるべき“現世”は、出発時から1時間後の世界だ。
必ず、“最先端たる現在”に戻らないとならない。
これはつまり、時間というものは、ボクに関係なく、自ら流れている、てことだな。
ちなみに、旅行先への“移動時間”は、ゼロ秒だ。
――
ここまで、ボクがなに言ったか、わかるかい?」
「ぼくときみ、二人の肉体的年齢差は、一生変わらない、ということ……」
満足げに腹を叩くドールだった。モゾモゾするワープだ。
「TTも、TCも、結局は元に戻さなくてはならない。旅行したら必ず、現世に、つまり現在に帰ってこなきゃならないし、変化させた物もまた、元の姿に戻さないといけない。
これは、ボクが仮にド忘れしたとしても――ほっといても、24時間後に自動的に元に戻る仕組みになっている。一種の親切機能だね」
「時間パラドックスだけど……」ワープが聞いた。
「……過去を変革させたらどうなるの?」
「書き換えられる。
今、この場所で、ボクとキミがこうして会話している。
ここで、ボクが昨日に行って、ボク自身を殺したとしよう。
その瞬間、今のキミは消え、書き換えられた以降の歴史のキミがどこかに現れる。
そしてボクは、自身を殺した自分として存在し続ける」
「なら、確かに存在してた、このぼくは? 書き換えられる前の歴史は、どこに消えるの……?」
「わからない。ボクの知覚できない異世界に行ってしまうのだろうか? ボクの記憶にしか残らない。
戻って来ても、ボクは新しいキミに、『きみは誰?』と言われてしまうだろう」
「……怖いな」
絶句だった。さすがにこれは、想像の埒外である……。




