30
「さぁ、こっから、道があやしくなる……」
ようやく、ドールは続きを口にした。
パムホを手にしながら、
「このエリアでは、青線のように国道485号に出ちまうと、アウトだ。かといって、他にルートはない」
ワープが一本の小道を指摘する。
「この、田んぼの中を伸びてる細道はどうだろう?」
「見ての通り、あと少しのところで途切れている。ワープクンは、それを知ってて、なぜそんなこと言うのかな……?」笑いをふくんだ声。
対して、「……」もどかしそうに口を閉ざすワープだ。
一度くちびるで笑んで、ドールが言葉を続けた。
「まあ、正解はその通り! この細道なんだけどね」
ふたたびパムホを操作する。
「“システム”はグッド社と提携してるからこの、グッドマップなんだけど、別の地図、たとえば国土地理院のマップで見てみると、ここ、つながってるんだよね……」
パムホ同士リンクしてるので、ワープにもすぐに画像で確認できた。
「というわけで、細道で問題なし。さぁ、出発だ」
何事もなかったようにワープの肩を叩き、発進をうながした。
「……」
「……」
「……」
暑いけど長閑な、夏の田んぼの中の小道。トコトコと走る、二人乗りの赤いスクーターだ。
沈黙に耐えきれなくなったのは、やはりというかワープの方だった。
「ドールくん、きみは、“時間”を操ることができるんだね?」
いきなりの直球ド真ん中な物言いに、弾けるように笑い出すドール。
「うまい誘い水だよワープクン。ならば、ボクはこう言葉を返そう――そういうキミは、なにやら“不思議な空間”を操ることができるんだね? と!」
「むむ……!」
汗の流れる暑いさなか、ドールは体を密着させ、耳元、更に熱い囁きを吹き込む。
「まず、キミから考察をのべたまへ、ウフフ!」
学生かよ、と呟きつつ、ワープは誘いに乗ったのだった。
一度息を吸って。
「きみは時間を操ることができる! 具体的には、任意の他者を随伴して、時間旅行ができる。でしょう……?」
「見た、そのまんまだ。キミの解答とはその程度のものなのかネ(笑)」
「ぼくもきみに、同じ事いえるんだぞ……たぶん」
「ウフフ、まぁいいか。こんなこと話しするのは、実際キミが、生涯はじめての人だよ。キミだから話すんだからな――」
そして自分語りを始めたのだった。




