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「痛い……いたいれす……」
ドールに沈痛薬を頬に塗ってもらってるワープだった。
甲斐甲斐しくふるまいながら、ドール、終始晴れやかな笑顔だ。
「ちょっと、キミのこと見直しちゃったよ」花のように微笑んでいる。
「いや、どあも……」
珍しいことではあった。その幸せを存分に享受するワープであった。今はそういう甘ったるい図である――(笑)
“元に戻って”即座に査察が二人に来た。指紋認証である。
場所の移動がないと、パムホの反応が現れてから、査察は来るようだ、とは経験者たるドールの言葉だ。時空を超越して観察できるのかもしれない、とも。
ともかく、結果としてそれぞれ無事に認証し終えたのであり、今は気分も軽い彼らであった。
暑い風、蝉の声、かんかん照りの空の下。ここは、隠岐国分寺。牛突きドームの隣に位置する、後醍醐天皇の行在所と伝えられている場所だった。
石材の立て杭で囲まれた、十数メートル四方の緑の草地、平地である。明治期の廃仏毀釈、そして昭和期の出火により本堂は完全焼失。今やガランと何もなく、ただ、平たい礎石が地面に並んでいる、それだけの空間だった。
薬を塗り終わって旅行鞄に戻し、ドール、皮肉に空間に視線をやる。
「これだけを見せられて、想像しろ、自分は何者か自照しろ、て言われてもね、アハッ!」
「そこを何とかすぅのが、毎年の学生さんなのら……」
「まさに伝統だな!」
「うふっ! あたたたた……」
「アハハ!」
しばし寛ぐ二人なのであった。
ゲームとしてちゃんと画像を撮ってから駐輪場に戻り、自販機で炭酸水を買う。日陰のベンチに座り、二人で乾杯した。
冷たい、シュワシュワとした、刺激的な爽快感! 実にうまい。グイグイと野趣ゆたかに喉を通っていく。暑さも、汗もまた快だ! ああ、夏! 友と飲む一本は、最高の気分だった――!
永久に続けばいいのに……。
一口飲んで、指先でボトルをブラブラさせて、そして、ドールが話し出す――
「ボクも、聞き出せたことを報告するよ……」
「うん……」
場の空気が、急にシリアスなものに変じた。




