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 見てると、リューシィは早々に帰宅にかかる様子だった。傘を手にして、出入り口に向かってる。

 と、黒髪金メッシュの男子学生が近づき、いきなり、乱暴にも彼女の腕を鷲づかみにした。

「!」

 表情を硬くさせ振りほどこうとするリューシィ。そうはさせじと、男はにやつきながらも力尽くで自分に振り向かせようとした。そして、何やら言葉を放つ――

 ぱんっ、という乾いた音がここまで聞こえた。

 リューシィが、平手打ちをかましたのだ――


「かわいそうに……」

 偶然横に立って、自分と一緒に目撃してた真面目メガネの女子生徒がつぶやいた。ワープはとっさの機転だった。その女子に話しかけたのだ。

「ねぇ、リューシィお姉ちゃん、なんでいじめられてんの……?」

「え? 君、だれ?」

「お姉ちゃんの従兄弟だよ。お姉ちゃんを助けてくれないの……?」ここぞとばかりに瞳をうるうるさせる。

 プレイヤーの基本スキル。“住民なりすまし”の技だ。

 女子――かわいそうに、実に窮した顔になったのだった。「リューに従兄弟っていたっけ……?」とつぶやいたものの、結局一つ頷き、決死の顔になる。

「これは、本人ではなく、サイゴー家と島家の、おうちの問題だから……。あたしらには口の出しようがない。でも、そうね、今リューを逃がしてやることくらいはできる!」

 そう言うと口結び肩怒らせて、出入り口の方へと歩いて行く。でもその頃には見かねた周囲の何人かが二人の間に割って入っており、粘着性を見せる男(サイゴー?)との間で、一騒ぎになりかけていた。

「まずいな……」

 とドールがつぶやいた。こちらを意味ありげに見て、

「リューシィ、最悪でもPM4時前にはホテルのお風呂に入っててもらわないと、まずいんだけどね」

 ああ困った困った、と脳天気に繰り返す。

「――!」

 一度振り向き、そしてワープは答えた。

「おいドールくん、トイレに顔かせよ……!」


 きゅんっ。


「わっ!? 何だなんだ? どうなってんだ――?!」

 想像してたどおりの、癇に障る声質だった。ここは男子トイレの中。今まで無人だったのに、いきなり存在している黒髪金メッシュの男子生徒だ。

 ワープ、相手の動揺にかまわず、質問をぶつける。

「サイゴーのお兄さん、なんでリューシィお姉ちゃんをいじめるのさ……?」

「へ? え? お? う、あ――? お前、だれよ?」

「お姉ちゃんの従兄弟だよ。なんで“リュー”に意地悪すんのさ? 許さないぞ!」

 ここぞとばかりに瞳をキラキラさせる。

 対して、事情を理解して急速に心理的復活を果たした男子だった。

 フッ――とキザっぽい笑みを浮かべたかと思うと――

 パンッ、と平手打ち。

 ついで喉元を締め上げてくる。見下したように鼻を鳴らした。

「親の教育がなってねぇな」

「あいにく、尊敬に値する父母(ちちはは)でね。教えてくれないんだ……」

 男子、顔をどす黒くさせる。

「ふてぇな、クソガキが――」

「ガキって、餓鬼って漢字なんだよ、お兄さん。まじで“バカ”だね。理解しやすいようにカナでしゃべってあげたよ――」

 思い切り殴られた。

「痛いな。これじゃ殴られ損だよ……」

「じゃあその分、チビカスにも分かるように教えてやる。お前んちはな、オレんちに、借金してんだよ。それも正当な手続きでだ。俺らは何も無茶なこた言ってねえぜ? げんに、お前の親には手段が二つもあるんだからな!

 一つ。ホテルを寄越すこと。

 いま一つ。てめぇの親戚に頭さげること、だ。聞くところによると、リューシィの親、学費ため込んでるそうじゃないか。それそっくり回してくれたら、済む話なんだよ――」

 何が尊敬する親だ、無学の貧乏人が――と反り返る。

「これが“ゲーム”ってやつよ! 立場を理解したか、底辺厨? アハハハハ……」

 事情がわかった。


 きゅんっ。


 そして、うまくタイミングを見てくれる相方だったのである。

 ガチャッ、と音してトイレ室の扉が開く。

 ドール、いかにも可笑しそうに、報告してくれたのだった。曰く――

「ドーム出入り口で、そこのお兄さんが、丸出しで小用を足してるよ。みんな大パニックさ!」

「え――?!」とは、もちろん男子生徒サイゴーくん。


 きゅんっ。


 ワープの目の前に、小便器を前に立ちすくんでいる男子生徒が――

 訳が分からず、ただ垂れ流しているサイゴーくんが、いたのだった。

「え、え、え――!?」

「貴方にはとんだとばっちりでした、すみません……」

「え――」


 きゅんっ。


 ドールが感深げに声に出す。

「ほんにキミは――」ニマッとする。「チンコが好きなんだねぇ」

 ワープ、顔をしかめる。

「偶然なんだからね……」

「ハイハイ!」


 ピュンッ。



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