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顔を赤らめながらも、ワープは話を進めた。
「ぼくは、今回、なんでここ隠岐島に旅しに来のだろうと、自分で不思議に思ってた……。
ドールくん、きみに出会って、ああこの子に引き寄せられたのか、と納得しかけてたんだ……」
「奇遇だね。ボクも同じさ。でも、お互い勘違いだったわけだ」
「リューシィに、引っぱられたんだなぁ……」
「フフン」
「まるで運命的だよ。それほど……」
そしてワープは言葉を紡ぎ出したのだった。
「リューシィはすごい。自分の生まれ育った島が、島流しの島だということがストレスになっていた。その心理的な枷を、逆用してゲームに構築しなおしてしまうなんて、見事な解決法だと思う。
でも、その見事なゲーム、見方を変えれば……。
彼女以外の島民は、“ゲームしないから島に残されて当然のダメな奴ら”だと、言ってるのと同じことになる。
言わば、リューシィ自身が同胞に、忌避していた呪いを上塗りしてるんだ……。
これは不本意だろう。
ゲームを作ったはいいけど、自分一人だけが赦免状をゲット。罪人たちの島よバイバイ……というエンディングの有様に、無意識に憤懣を感じているのではないだろうか? 風呂場では何回か『ストレス』と口走っていたけど、彼女のストレスは、そんなとこに原因があるのではないだろうか……?」
急いで続ける。
「いや、ゲームにケチつけるつもりはないんだ。リューシィ自身、個人的なこだわりだと理解してたし。別にゲームしない人がいたっていい。人の考えはそれぞれだから、正義は、見方しだいで何とでも変化するものだから……。
でも……ええと……。
つまり――彼女のために、ぼくらがお節介できる余地はないものかと、そういうことを言いたかったんだよ。
今回のぼくらの“旅”は、そのためにあるのではないか、と思ってしまうんだ……」
ワープとしては頑張った大演説だった。ドールはフンと、鼻で応じる。
「つまりキミはどうしたいのかがさっぱり分からないじゃん」
ワープ、今ひらめいた。
「心置きなく島から送り出してあげたい。島に、後顧の憂いなく……」
ドール、容赦なかった。
「だから、どうやって?」
ワープ、しごく真面目に、「わからない……」
ドール、呆れたふうに、声なく笑う。
「キミのこと“先走迷走守絶対方向音痴之助”に格上げしてやるよ。ハッキリ言って、滅茶苦茶だぞ」
ワープは顔を上げる。
「呪いの存在を前提にしてるんだから、これを消せればいいんだ……。
けど、彼女自身が認めているとおり、文化的伝統的に到底消せるものじゃない。島が存在するかぎり、呪いも存在し続ける。
仮に消せたとしよう。すると……そうだよ、ゲームも消えてしまうんだ。呪いに寄りかかって成立してるんだから。
呪いは消えなく、消せないものなんだ。
じゃあ、どうする? さぁ、どうしよう……」
ドールは立ち止まり、「ボクらはまだ子供なんだよ」と一言。
首を振り、いきなり流し目をくれてくる。それはそれは――思わずドキリとさせられる、子供ばなれした凄みのある色気だった。
「ボクらは子供だ。酒も飲めない、オンナも抱けない。フンッ。
もう寝ようぜ。楽しみは未来に託して、今はただ明日の本番に備えるだけさ!」
背を見せて歩き出す。
「そう、ぼくらは子供なんだ……」
結局、しぶしぶ頷くワープだったのである。