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タオルとバスタオル、浴衣を手にして、ドールに誘導されるまま、脱衣室の紺色した暖簾をくぐった。
ピュンッ。
ワープが不思議がることに、そこには誰もいなかった。
「あれ……? 今、いい時間だよね……?」
「そうだよ」ニマニマしてるドールだ。「場所も間違ってない」
「……」
首をかしげるワープだが、偶然にしろ何にしろこれが現実なのである。ま、いっちゃ、いんだけど……と受け入れて、服を脱ぎだすのだった。ところが――
「あれ……?」
相方が突っ立ったままだ。
「ボクは後から追いかけるから、先に行っててくれたまえ」
誤魔化すようにヘラヘラしている。やはりか、と勘ぐるワープだ。
「恥ずかしがり……?」
「そういうことにしといてくれ」
「わかった……」
もう意識することはやめたと決めたワープ、素裸になってタオルを手にして「じゃあ……」と引き戸を開けて浴場に足を踏み入れる。
そこでワープ、摩訶不思議な体験をするのだった。
無人である。湯気がもうもうとしてて、カポーンと広い洗い場で――奥側にあるのが、これがまた、広い湯船である。
湯船の向こうが一面のガラスで、西郷の港が見渡せるのだが、なぜか、“うす暗い昼の光景”なのだ――?
なにか特別な照明装置付きのディスプレーなのかと考えて、そうして、確かめる間もなく、いきなり「キャッ!」という短い悲鳴を浴びせられ、そちらに顔を向けたその瞬間、ソレ以外のいろんな疑問点は綺麗さっぱり頭から追い払われたのだった。
湯気の湯船の中に、両手で体を隠す、裸の(←当たり前だ!)お姉さんがいたのだから。さぁ――
硬直するワープ。一生の過ちというものだった。やはり何か間違ってたんだ――!
お姉さんは更に悲鳴をあげようとして、直前、まじまじとワープの股間を見て――やがて。
ナゼか、「……ふぅ」と息を吐いたのだった。そして綺麗な声で、
「ダメじゃない、僕? ここは女湯で、さらに貸し切りの立て看板もあったでしょ? なにより、今の時間はダメじゃない……」
めっ、という、悪戯好きな弟を叱る顔つきになる。
ワープ――
「す、す、すみません――」それしか言葉が出てこない。ぐっ、とつばを飲み込んで「何か、勘違いか、たいへんな見落としが――」あたふたとして――
そのときだった。ドールが入って来る引き戸の音がしたのだ!
瞬間、顔から血の気が引いた。いやまずい、ドールくん入ってくるな、と叫びかけて、顔を向けて――
目が点になった。
ドールが、バスタオルを、胸元から股にまで巻き付けている。
女の子、だった――?!?!?!
「――きみ!?」この時ばかりはワープ、瞬間的に、真実怒ったのだ!
「キタナイじゃないか。ねぇ、いくら“プレイ中”とはいえ、こんなワルゴトが許されると――!!!」人生で数えるほどしかない、怒声を発する。プレイヤーとしての矜持、いやその前に、恥も、信頼も、芽生えかけてたと思ってた友情も、何もかもぐるぐるしだして――!!!
「おちつけ」
ドールは平然としている。
真実の響きを感じ取ったのだろう、
「――まずは僕、前を隠しなさい。しょうがないから、一緒にお風呂しましょ」
お姉さんがなだめ役に回ったのだった。




