Episode:08 素顔
アイテム屋の方はハズレだった。
ただ店のために言っとくと、別に品揃えが悪かったわけじゃない。ルーフェイアが欲しがるものが、レアすぎってやつだ。
いきなり「精霊石が欲しい」とか言われて、店のやつ目を白黒させてたし。
「欲しかったんだけど……」
「欲しいってなぁ、んな物、あるわけないだろ」
「そう……なんですか?
けど、これからどうしよう……」
お世辞にも明るいとは言えねぇ店内から出てきて、まぶしそうにしながらルーフェイアが言う。
「なんだ、予定ないのかよ?」
「列車の切符……夕方、なんです」
「じゃぁ、どっかほか案内してやろうか?」
「ほんとに!」
なんかこいつ、やけに嬉しそうだ。
「あたし、こういうとこ……あんまり、来なくて」
――はい?
いったい、どーゆー生活してんだよ?
けど貧乏でこれない、って感じじゃねぇし……。
――ま、いっか。
とりあえず、街の中心へ向かって歩き出す。
「小っちぇえ町だし、たいしたもんないけどな」
「いいえ」
なんでも街中歩けるだけでいいらしい。
にしても変わってる、つうのかな? ちょっと普通じゃ信じらんない反応だ。
と、大きな本屋の前でこいつが立ち止まった。
「あの、ここ……入ってもいいですか?」
「ああ」
別に入ったって、誰も困らない。
俺がうなずくと、ルーフェイアは喜んで店内へ駆け込んだ。しかもすっげぇ嬉しそうな感情、振りまいてくし。
――それにしたって女子ってふつう、服とかなんか見て回ると思ってたけどな?
どうもこいつ、普通とは違うみたいだ。
ただ当人はいたく満足げで、かなり広い店内をざっと一回りしてる。それからきっと好きなんだろう、歴史関係の棚の前で動かなくなった。
「すごい。ここっていろいろある……あ、もう!」
こいつ小柄だから、高い棚に手が届かないらしい。
「これか?」
代わりに取ってやる。
「すみません。――あ、これ詳しい」
やっと見つけた、みたいな調子でぱらぱら本をめくるけど、レジへ持ってく気配はなかった。
「買わねぇのか?」
「買いたいですけど……重くなっちゃう。
でもあとで落ちついたら、買いに来ようかな?」
本の題名を覚えるようになぞりながら、妙なことを言いだす。
けど落ちついたらって……旅行ってワケじゃなさそうだし、引っ越してきた感じでもないし。
なんとも見当つかない。
「これと……あとこれと……」
「なにメモってんだ?」
「ええ、いろいろ」
結局、こいつ一冊も買わずに出てきた。なんか題名と出版社、それにちょこっと内容をメモっただけだ。
――きっと店のやつ、ヤだったろうな。
もっとも本人はンなこと、考えちゃねぇけど。