Episode:07
◇Imad
――試し切りしてもいいですか、だって?
太刀を抜く動作だけでも驚いてたのに、こいつとんでもないことを言い出しやがった。
まぁあの身のこなしじゃ無いとは言えねぇけど、それにしたってこの太刀、ちょっとやそっとで使いこなせるわけじゃない。
けど当人は「あたりまえ」って感じで、さっさと店の裏へ回っちまう。しかも不安や迷いは、ぜんぜん伝わってこない。
なんとなく、俺とおっさんも後に続いた。
ワケわかんねぇ妙なアイテムやら木切れやらが置いてある裏手で、こいつがぴたりと止まる。
――ってちょっと待て、普通そんなもんに狙い定めるか?!
そうはいっても俺の思いなんて、他人に伝わるわけがない。
一方でこいつのほうは、何の躊躇いもなく太刀を正眼に構える。
外見からは想像できないような、すさまじい気迫。
こいつが太刀に流してる魔力が、見る見るうちに高まってく。
辺りの空気が張り詰める。
ややあって、すうっとこいつが太刀を振りかぶった。
「破っ!」
裂帛の気合と共に刃を振り下ろす。
――あれ? なにも起こんねぇ?
少なくともそん時、俺にはそう見えた。けどこいつは満足げに微笑む。
そして伝わってくる、自信。
「ありがとうございます。いい仕上がりですね」
同時にこいつが狙い定めてた、腰掛け代わりの石が真っ二つに割れた。
「あわわ……!」
おっさんが腰をぬかす。
「マジかよ……」
俺も心底、度肝をぬかれた。
これでも俺、入学してからずっと、かのシエラ学院じゃ学年首席だ。だからまぁ、手前ミソをさっぴいてもけっこう出来る部類に入る――はずだ。
だけどこいつ、そんなのとはケタが違う。
もっとも当人にとっちゃ、これは別段変わったことじゃないらしかった。
「あの、これ、代金です。
それと……どこか珍しいアイテム置いてる店、ご存知……ありませんか?」
何事もなかったって顔してる。
「え? あ、ああ、アイテムね……? ゲイルの店ならいいかもしれないが……」
おっさんがようやく身を起こした。
「そのお店……どこですか?」
「そうだなぁ、ちょっとややこしいとこにあるから……お、そうだ。イマド、お前案内してこい」
「へ、今なんて?」
もの思いにふけってたからおっさんの声、よく耳に入ってなかった。
「なんだ、また聞いてなかったのか」
あきれた調子で、おっさんが同じことを繰り返す。
「ってわけだから、お前が案内するんだ」
「分かったよ。えぇと……?」
名前を呼ぼうとして、まだ聞いていなかったことに気づく。
「そういえば、名前も言ってなかったよな。俺、イマド=ザニエス。よろしく」
言いながら俺、右手を差し出した。でもこいつ、握らない。
「イマド――? 珍しい名前……ですね。あたしはルーフェイア=グレイスです。
それとすみません、あたし右手出す自信がなくて……」
――とんでもねぇヤツ。
ただ言葉といっしょにすまなそうな感じが来てるから、根は悪いヤツじゃない。
「なんか、すごいんだな。まぁいいや、行こうぜ」
「はい」
俺らまた、並んで歩き出した。