Episode:33
◇Caleana
かなり長く続いてるうちには、ひとつの言い伝えがある。
そしてそれは……あの子と関係があった。
ただの言い伝え。自分でも、そう思うのだけれど。
でもどうしても引っかかった。それも今になって。
あの話には、後日談があると言われてる。
でも、そう言われているだけだった。内容は家に伝えられてる物のどれを見ても、きれいに消されている。
誰が何の意図で消したのかは、分からない。けど徹底してるとこから見ても、その内容を伝えたくなかったのは分かる。
それが果たしてあの子を守るものなのか、それとも破滅へ追い込むものなのか、それも分からない。
そんなものをなんで、いま急に気にするのか。自分でも理解できやしない。
なのに……何かがそうしろと、頭の奥から告げてた。
だから、この子に言う。
「あの子のこと――頼むわね?」
◇Imad
「すごい、ここが……シエラ学院?」
船に揺られながら、ルーフェイアのヤツが呆然と見上げた。
行く先の島は濃い緑で覆われて、その間からそびえる尖塔が見える。およそMeSっていう先入観とは、かけ離れてるってやつだ。
「けっこう、大っきいだろ?」
「うん」
なんたって、小さいたって島が丸ごとだ。つか実地訓練用の場所まで入れたら、このチビ群島全部が学校だった。
俺らあのあとアヴァンから海越えてユリアス国入って、そのあと列車に乗り継いで、ケンディクまで帰ってきた。
そのあとルーフェイアのヤツがいろいろ手続きだのあるってことで、シエラのケンディク分校でちっと足止めくらったけど、今日許可が下りたとこだ。
つか学院長、本気でこいつのおふくろさんの知り合いだったらしい。
ホントなら親アリは審査で何ヶ月とか待たされるし、春までは分校生やるのが決まりだ。なのにこいつよっぽどなのか、速攻って言っていい速さで、分校飛び越えて本校への入学許可出てたりする。
たぶんあの複雑な事情を話したんだろけど、それが言えるってことは、かなり仲がいいんだろう。
逆に考えると、最初っからここ来てりゃさっくり入学できたわけで、その意味じゃルーフェイアのヤツはかなり運がない。
まぁ、いまさらだけど。
「この本島に、寮と校舎あってさ。実地訓練なんかは別の島でやるんだぜ」
「そうなんだ……」
その間にも船は進んで、船着場に着く。狭い場所に高速艇まで停泊させてるから、間縫って接岸するのが大変だ。
綱が渡されて、船がしっかり繋がれる。
「気をつけろよ、時々落っこちるバカいっから」
「うん……」
揺れる足元を確かめながら、桟橋へと飛び降りる。
切り立った崖の間の、坂道を登ってくと、いつもみてぇに視界が開けた。
「きれい……」
ルーフェイアが声をあげる。
石造りなのに微妙な曲線が多い建物と、上手く配置された五つの塔。周りの木とか草花も専門の庭師――半分ボランティアのじっちゃんばっちゃん夫妻だ――がきっちり手入れしてるから、絵に描いたみたいな調和ぶりだ。
じっさいけっこう評価も高いらしくて、年に何回か、庭の一般解放までされてる。
「……なんか、夢みたい」
ルーフェイアのヤツが立ち止まった。
「でも、夢じゃない……よね? あたし、ここに行けるんだよね……?」
不安げな表情で、こっちへ振り向く。
「夢なわけねぇって。
――おい、頼むからここで泣くんじゃねぇぞ。おれが泣かしたと思われるかんな」
「だいじょぶ……」
――そしてこの後二人は、この学院で十年の歳月を重ねることになる。
Fin
◇あとがき◇
最後まで読んで下さって、本当にありがとうございます。
現在第3作「抱えきれぬ想い」を連載中です。リンクを貼っておきますので、読んでいただけたら嬉しいです。なお、毎日“夜7時”過ぎの更新です。
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