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憧憬 ルーフェイア・シリーズ02  作者: こっこ
Chapter:4 再会
32/33

Episode:32

「いいに決まってるでしょ」

 おふくろさんは即答。親父さんの方も微笑してうなずく。

 でもそれに、まだルーフェイアのヤツは食い下がった。


「だって……もう、会えないかも……」


 重い言葉。

 確かにそうだ。戦地を渡り歩く傭兵は、いつ死ぬか分からない。

――こいつの、兄貴みたいに。

 だけどおふくろさんも親父さんも、そんなこと気にしてなかった。


「いいわよ。あたしたちがあなたが、幸せならいいんだから。

――行きたいんでしょ?」


 長い沈黙。

 そしてルーフェイアのヤツが、顔を上げた。


「……行きたい。あたし、行きたいの。

 ダメかもしれない――でも、行ってみたい!」


 こんな風にコイツが言うの、もしかしたら生まれて初めてじゃねぇのか?

 なんとなく、そう思った。

 おふくろさんが嬉しそうにうなずく。


「決まりね。すぐ入学の手続きしてあげるわ。

――ディアス、この子連れてちょっと、その辺散歩でもしてきてくれない?」


 おふくろさんがウインクして、ルーフェイアを親父さんに押し付けた。

 二人が外へ出て行く。

 それを見送りながらおふくろさん、背中向けたまま今度は俺に話しかける。


「こんなこと初対面の、しかも子供のあなたに、言う事じゃないんだろうけど」

 さすがにカチンとくる。

――どーせ俺はガキです。

 と、ルーフェイアのおふくろさんが笑い出した。


「あらゴメンゴメン、悪気はないのよ。だってあなた、子供なんだもの」

「子供ですいませんね」


 人の神経、わざと逆撫でしてんのか?

 そんな俺に向かって、お腹抱えて笑いながら、おふくろさんが言った。


「ほら、そんなに怒らないの。

 だいいちね、あたしあの子の親よ? だもの学校行ってる子なんて、みんなまとめてあたしの子供みたいなもんよ」


 まぁ確かにそうなんだろうけど、なんか釈然としねーんですが。

 もっともこの人、そんなのに構う人じゃないわけで。

 と、おふくろさんが不意に哀しい表情になった。


「ねぇ、あの子のこと、守ってやってくれる?」

「――え?」


 予想外すぎるセリフ。

 おふくろさんの表情もあって、上手い言葉が出なくなる。


「……あいつ、俺より強いですよ?」

 やっと言えたのはそれだった。

 ウソ言ってるわけでもない。火事騒ぎの時だって、あいつひとりでどうにかしたようなもんだし。


 ただ、ホントの意味はなんとなく分かった。

 あいつはめっぽう強いけど――。

 少しだけためらってから、俺は訊いてみた。


「どうして、俺なんです?」

 おふくろさんが不思議な、でも寂しい笑いで答える。

「あなたが初めてなのよ、あの子と本気でケンカしたのは」

 そして一瞬、遠い瞳をした。

 また言葉が繋がる。


「分かったかも知れないけど、うちって複雑でね」

「そりゃ分かりますって」


 ガキ連れて戦争行ってるだけでもどうかしてるって気はするけど、さっきの話はなんとなく、そんだけじゃない。

 なんつーかこう、もっとデカいバックがありそうな……ンな雰囲気だった。

 そしてあいつは当然、モロそこに巻き込まれてる。

 おふくろさんがため息をついた。


「少しだけ……うちとあの子の事、話すわ」



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