Episode:29
「けどお前、ヤなんだろ? ガッコ行きたいんだろ?
じゃぁ、そう親に言えよ」
「……だめ……」
呆れる。
ンなとこ頑固じゃなくたって、構わねぇだろうに。
けど何度言っても、こいつは首を縦に振ろうとはしなかった。泣きながら、「だめ」の一点張りだ。
「お前、頭冷やせよ!
今度はどうにかなったって、次はねぇかもしれねぇだろ!」
「だって、だって……」
泣きじゃくる。
「やめて……言わないで……」
泣きながらこう言われると、俺も弱い。
「その、だからさ、ともかく親に言ってみろよ。ちゃんと『イヤ』だって」
「………」
そこへ、呼び鈴の音が響いた。
「お、お客さん……?」
「お客ってなぁ」
医者に来るのはお客じゃなくて、患者だ。
――もっともそれじゃ、困んだけど。
診てもらいに来る人に「帰れ」っつーのは、ちょい楽しくない。
もっかい呼び鈴が鳴った。
「どなたかいらっしゃいませんー?」
「すいません、いま開けるんで」
慌てて走ってって、ドアを開ける。
「すいません、今ここ医者が……あれ、もしかしてルーフェイアの?」
ドアの外に立ってたのは、大人が二人。男と女だ。んで女の人のほうが、髪とか瞳の色とか顔立ちなんかが、ルーフェイアと似てる。
これはどう考えたって、こいつの親父さんとおふくろさんだろう。
「じゃぁ、あなたが連絡くれたのね? ルーフェイアは今どこかしら?」
おふくろさん(たぶん)が、俺にいきなり訊いてくる。
それをルーフェイアの声がさえぎった。
「かあさん! いきなり質問攻めにしたら、だめよ」
「――なんか、元気そうね」
「うん」
いつの間にやら涙も拭いちまって、あの落ち込んだ様子なんざ微塵も感じさせない。
――バカかよ。
あれだけ嫌がってたってのに、親の前じゃ知らん顔してる。
まぁもしかしたら、親子ってのはこゆもんなのかもしれねぇけど。
ただなんせ俺、さっさと親父もおふくろもいなくなっちまったから、そのあたりはよく知らなかった。
ンなこと考えてる間にも、ちゃっちゃと話は進んでる。
「いまね、朝ご飯……食べさせてもらってたの。
その、太刀取ってくる」
ルーフェイアのヤツが、ひょいと奥へ引っ込む。
俺も思わず後を追った。
「おい、ホントに行くのか?」
「――うん。
迎えに来てくれたのに、待たせてられないから」
またか、そう思う。
どう見たってこいつの本心は、そんなとこには、ない。
「いいかげんにしろよ! お前、ホントはンなこと思ってねぇだろ!」
「でも!」
珍しく、ルーフェイアの口調が強くなった。
「でも、これはあたしの、あたしの……!」
「だから、頭おかしいってんだよっ!
だいたい、お前が学校――」
「だめっ! それ言わな――」
「あんたたちやめなさいっ!」
もひとつかぶった迫力の声に、思わず二人で黙る。