Episode:23
「お前、ケガしてんのか?」
「ううん……ぜんぶ、返り血……ふふ、やられた……」
こいつが低く嘲う。
たぶん自軍のやつが裏切ったことを、言ってるんだろう。
「なんか、元ワサール人のやつが、密告したんだってな」
「それも……あるんだけど」
また低く、こいつが嘲った。
「他になんか、あるのか?」
「ロデスティオの正規軍、あたしたち傭兵隊を見捨てて盾にして……部隊、壊滅したの」
「じゃぁ、あの壊滅ってのは、まさか――」
「うん。そういう……こと」
俺は、うちの先輩たちがやったことだと思ってた。
けど違う。あれは味方に、見殺しにされたってワケだ。
「考えとくんだった……読みが、甘かった……」
こんなちっちゃいやつが言うとは、思えねぇセリフ。
なんか一瞬背筋に冷たいものを感じて、俺は慌てて話題を変えた。
「でもよ、なんでお前、こんなとこにいるんだ?」
こっから国境はたいして距離はねぇけど、戦闘やってた場所はそのまた向こうの、けっこう離れたトコだ。
まして敗走してんなら、こっちへ来るワケがない。
「たまたまあたし、最前線にいて……前線が、後退してたから……」
疲れてんのか、そこでこいつはいっかい言葉を切った。
「ともかく、下手に撤退するより……こっちへ来た方が、助かると……思って。
それにあたし……小さいから大人みたいに、言われないし……」
よくわかんねぇけど、要するに自分がガキなのを逆手に取って、うまく大人の兵士の目を躱しちまったらしい。
で、あとはどさくさ紛れに国境超えて、町へ入っちまったんだろう。
けど確かにこいつが公園あたりで血だらけで倒れてても、敵だなんて誰も思わねぇはずだ。あとは当人がそゆことさえ言わなきゃ、それで終わる。
――すげぇヤツ。
内心舌を巻きながら、俺は違うことを言った。
「ともかく叔父さんち行こうぜ? 医者だからさ、診てもらえるし」
「うん、ありがと……」
まともに歩けそうもねぇこいつに、手を貸す。
「だいじょぶか?」
「だい……じょうぶ……」
言ってるうちに、こいつの身体から力が抜けた。
「お、おい、しっかりしろよ!
――叔父さん、こっち来てくれ!」
叔父さんは医者だから、こゆ時は頼りになる。
「どうした? お、こりゃ大変だ」
わけもわかっちゃねぇまま、でもばっちり、叔父さんがこいつを抱え上げた。
「すぐ、うちへ運ぶぞ。
イマド、その懐中電灯で足元照らしてくれ」
「わかった」
叔父さんと二人、いつもの道を戻る。
「うん、呼吸はしっかりしてるな。ひどい出血もなさそうだし、顔色もそれほど悪くはないし……。
しかし驚いたな、これは全部他人の血か?」
ルーフェイアのやつ運びながら、しっかり容体チェックしてるし。
「叔父さん、こいつだいじょぶなのか?」
「外傷も見当たらないし、顔色から見て内臓の損傷もなさそうだから、たぶん大丈夫だろう」
「そっか……」
とりあえず、ホッとする。これならたぶんよっぽどじゃなきゃ、ヤバいことにはならねぇだろう。それに叔父さんの家はたいして遠くねぇから、すぐ手当てもできる。