Episode:20
「どのくらい、かかるの?」
「走って十分ちょいってとこだな」
「よかった、近いんだ」
この答えに内心悩む。
――近くはねぇと思うぞ?
まぁ日常的に戦争してちゃ、近い部類に入っちまうのかもしれねぇけど……。
なんか複雑な気分になりながら、それでも俺は走った。
駅が見えてくる。列車も停まってて、どうやら間に合ったらしかった。
「よかった……」
「乗るまで気ぃ抜くなって」
目の前で行かれた日にゃ、シャレにもなんねぇだろうし。
ルーフェイアのやつがポーチから、長距離線専用の、記録石がはまったカードを出す。最近駅で切符代わりに売るようになったやつで、これがないと乗っても客室へは入れねぇから、デッキであっさり車掌に掴まるって寸法だ。
「どこまで行くんだ?」
「国境超えたとこで降りて、あとは車……かな?」
けっこう遠い。
「ンなとこから、日帰りで来たのか?」
「だって、太刀をちゃんと研げる人って、少ないから……」
そういやコイツ、元々は太刀を受け取りに来たんだった。けどあの改造屋のオヤジがそんなの出来るなんて、俺は初耳だ。
「あのオヤジ、ンな隠し芸あったのか」
「え?
確か研ぎ師だけじゃ食べてけなくて……改造屋も始めたって、聞いたけど……?」
「へぇ」
改造屋のほうもあんだけ腕がいいのに、それが副業だってんなら、そうとうのもんだ。
そのとき、アナウンスが流れた。もうすぐ発車らしい。
「行かなきゃ。
ありがと。すごく、楽しかった」
言ってこいつが列車のデッキへ上がりかけて――振り向いた。
「あのね、えっと……」
「どした?」
歯切れ悪くためらってから、こいつが口を開く。
「この町から――逃げて」
「は?」
思いっきり意味が飲み込めなくて、悩んだ。だいいち俺、逃げなきゃヤバくなるような話にゃ、首突っ込んだことない。
けどこいつは、けっこう真剣だった。
「理由が言えないけど……お願い、ここから早く、離れて」
「あ、あぁ……」
ともかくうなずく。
もっともルーフェイアのほうも、それ以上は期待しなかったらしい。
「ごめん、ヘンなこと……言って。
――さよなら」
背を向けたこいつの金髪が、落ちてきた陽を受けて見事なくらいに輝いた。
「あ、あのな」
呼び止める。
「え?」
ルーフェイアのやつがもっかい振り向いて、ふわりと髪が踊った。
なんか、どきっとする。
「そ、その、俺さ、シエラ学院の寮にいるんだ。だから気が向いたら……遊びに来いよ」
「ほんとに?」
陽の光以上に、こいつの表情が輝いた。
同時に海の碧の瞳から、また涙がこぼれる。
「そんなふうに言われたの……初めて……」
当てなんざ、ホントはどこにもねぇ約束。
けどそれでも、友達ってのを知らないこいつには、嬉しいらしかった。
「ありがと。きっと、きっと行くから……」
「ああ、待ってる」
発車を知らせる汽笛が鳴った。