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憧憬 ルーフェイア・シリーズ02  作者: こっこ
Chapter:3 約束
20/33

Episode:20

「どのくらい、かかるの?」

「走って十分ちょいってとこだな」

「よかった、近いんだ」

 この答えに内心悩む。


――近くはねぇと思うぞ?

 まぁ日常的に戦争してちゃ、近い部類に入っちまうのかもしれねぇけど……。


 なんか複雑な気分になりながら、それでも俺は走った。

 駅が見えてくる。列車も停まってて、どうやら間に合ったらしかった。


「よかった……」

「乗るまで気ぃ抜くなって」

 目の前で行かれた日にゃ、シャレにもなんねぇだろうし。


 ルーフェイアのやつがポーチから、長距離線専用の、記録石がはまったカードを出す。最近駅で切符代わりに売るようになったやつで、これがないと乗っても客室へは入れねぇから、デッキであっさり車掌に掴まるって寸法だ。


「どこまで行くんだ?」

「国境超えたとこで降りて、あとは車……かな?」

 けっこう遠い。


「ンなとこから、日帰りで来たのか?」

「だって、太刀をちゃんと研げる人って、少ないから……」

 そういやコイツ、元々は太刀を受け取りに来たんだった。けどあの改造屋のオヤジがそんなの出来るなんて、俺は初耳だ。


「あのオヤジ、ンな隠し芸あったのか」

「え?

 確か研ぎ師だけじゃ食べてけなくて……改造屋も始めたって、聞いたけど……?」

「へぇ」


 改造屋のほうもあんだけ腕がいいのに、それが副業だってんなら、そうとうのもんだ。

 そのとき、アナウンスが流れた。もうすぐ発車らしい。


「行かなきゃ。

 ありがと。すごく、楽しかった」

 言ってこいつが列車のデッキへ上がりかけて――振り向いた。


「あのね、えっと……」

「どした?」

 歯切れ悪くためらってから、こいつが口を開く。

「この町から――逃げて」

「は?」


 思いっきり意味が飲み込めなくて、悩んだ。だいいち俺、逃げなきゃヤバくなるような話にゃ、首突っ込んだことない。

 けどこいつは、けっこう真剣だった。


「理由が言えないけど……お願い、ここから早く、離れて」

「あ、あぁ……」

 ともかくうなずく。

 もっともルーフェイアのほうも、それ以上は期待しなかったらしい。


「ごめん、ヘンなこと……言って。

――さよなら」

 背を向けたこいつの金髪が、落ちてきた陽を受けて見事なくらいに輝いた。


「あ、あのな」

 呼び止める。


「え?」

 ルーフェイアのやつがもっかい振り向いて、ふわりと髪が踊った。

 なんか、どきっとする。


「そ、その、俺さ、シエラ学院の寮にいるんだ。だから気が向いたら……遊びに来いよ」

「ほんとに?」

 陽の光以上に、こいつの表情が輝いた。

 同時に海の碧の瞳から、また涙がこぼれる。


「そんなふうに言われたの……初めて……」

 当てなんざ、ホントはどこにもねぇ約束。

 けどそれでも、友達ってのを知らないこいつには、嬉しいらしかった。


「ありがと。きっと、きっと行くから……」

「ああ、待ってる」

 発車を知らせる汽笛が鳴った。



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