Episode:17
「どした?」
「あ、ううん、なんでもない……」
口じゃそう言ってるけど、伝わってくるのは涙だ。
――それも、こっちまで悲しくなっちまうような。
そのまま俺らは沈黙した。
木の葉がざわめく音と、水の流れる音とが吹きぬける。
そのうち耐えきんなくなったんだろう、こいつが取ってつけたふうにつぶやいた。
「精霊、回収しなくちゃ……」
「そいや、そだっけな」
話に乗ってやる。
「えーと、どうすりゃいい?」
「えっと……そのまま動かないで、くれる……?」
言いながらこいつが水から上がった。
んでそれから、どっからかタオル出して足拭いて、靴下とブーツ履いて……。
「おーい、早くしてくれって」
「ご、ごめん!」
慌てたら今度は、足もつれてやがるし。
「落ち着けって」
「う、うん」
結局、仕切り直してもっかいになった。
「ごめんね、ほんとに今度は……動かないでね」
「分かってるって」
なんでも強制憑依ってのは、合わねぇ形のとこに無理矢理押し込むようなもんらしい。だから外す時は、引っ張り出す(?)のが大変だって話だった。
こいつがなんかしてるんだろう。ずーっとしてた違和感が強くなる。
――マジで気持ち悪りぃぞ?
しかもルーフェイアのやつもなんだか、苦労してるみてぇだった。
「おい、だいじょぶなのか?」
「たぶん……」
コワいこと言うし。
「もうちょっと……待って。なんだかしっかり、くっついちゃってて……」
「そゆもんなのか?」
岩場に貼っついてる貝みてぇな言い方だ。
「あたしもこんなの、初めて……あ、戻ってきそう」
それからまた少し騒いで、ようやく精霊が取れた。妙な感じも同時に収まる。
「ごめんね、その……大丈夫?」
「ぜんぜんなんでもねぇぞ?」
答えに、こいつがほっとした表情になった。
「んでよ、それ、精霊か?」
「うん」
ルーフェイアの手の上に二つ、水晶の塊みたいなのがある。ひとつは碧っぽい色で、もひとつは妙にきらきらした感じだ。
「なんか、いっぱい持ってんだな」
「母さんの……借りたの」
「ンな簡単に、貸せるもんなのか?」
学院の先輩たちなんざ、ほとんど見せてもくれねぇのに。
ルーフェイアのほうは、俺のつぶやきは聞いてなかったらしかった。公園の中をひととおり、眺め渡してる。
そして、言った。
「いいよね。こういう……平和なの」
「あ、あぁ……?」
なんか不思議な言葉だった。
誰でも言う。この言葉は。それに実際ここは、どう見たって平和だ。
けどこいつが言うと、この言葉はなぜか重かった。
そしてまた、沈黙。
と、流れる風に押されたみたいに、ふわりとこいつが顔を巡らした。