Episode:14
「こっからロープでも使えば、どうにか……」
「それじゃ、逃げ遅れちゃう。このままネミちゃん抱いて、飛び降りて」
「む、ムチャ言うなって!」
俺ひとりだって三階なんてヤバいのに、抱いてたネミを落っことしたら笑い話じゃ済まない。
でもルーフェイアのやつは譲らなかった。
「絶対、大丈夫だから。信じて」
言いながらこいつ、水系の魔法で毛布を濡らして、ネミのやつを包む。
「冷たいけど、我慢してね。
――ねぇ、お願い」
「わかった」
こいつのまっすぐな碧い瞳に、信じる気になる。
それに炎の中から出るには、こうやったネミを抱いて飛び降りるのが、いちばん早くて確実だろう。
「クマさんもぉ!」
さすが姉貴の娘。マイペース過ぎる。
「これか?」
さっきまで持ってたんだろう、床に放り出されてたぬいぐるみを拾って持たせて、俺はネミを抱きなおした。
窓を開けた瞬間、熱風が吹き込む。
「頼むぜ!」
「うん」
ネミのやつを頭まで包んで、ぎっちり抱いて飛び降りる。
近づく地面。
「――セレスティアル・レイメントっ!」
聞いたことのねぇ呪文をルーフェイアが唱えて、落下が一瞬止まる。
それからごく軽く、地面へ足が着いた。
次いで今度はルーフェイアが飛び降りてくる。
「大丈夫だった?」
「ああ。
っと、このチビ、姉貴に返さねぇと」
とたんにこいつの顔が曇る。
「あたし……ちょっと違うとこ、行っていい?」
「へ? なんでだ?」
「だってその……目立ちすぎちゃったから……」
――そりゃそうだ。
ただでさえ人目引くヤツなのに、こんなことすりゃ目立つどこの話じゃない。
ともかくなんかこの辺ワケありらしくて、しかも路地の向こうから人の声が聞こえてきてるから、もう気もそぞろって風だ。
「そしたらそうだな、そこ左に曲がって真っ直ぐ行くと、ガッコの隣に公園あるんだ。
そこだったらほとぼり冷めるまでいても、目立たないと思うぜ」
「――ありがと」
言ってルーフェイアが駆け出して、立ち止まる。
「どした?」
「ううん、えっと……あとでそこへ、来てもらって……いい?」
「へ?」
いきなり何を誘う、と思ったら違った。
「だって、その、精霊……」
「なら、今取ってけよ」
「え、でも、強制でつけたのに、いきなり取ったら……」
そういうことらしい。
「分かった。んじゃこいつ返したらちゃんと行くから、待ってろな?」
「うん、ありがと」
今度こそルーフェイアの姿は、路地を曲がって消えた。
「おねえちゃん、いっちゃった?」
「ああ。
――さて、ネミ、ママんとこ行くか?」
「うん!」
どこまで状況がわかってんのかわかんねぇこいつを抱いたまま、ぐるっと遠回りで表通りへ戻る。