Episode:13
「炎と煙、だいじょうぶにしてあるから。
――いけない、早くしないと」
なんかいまいちピンとこないけど、炎やら煙やらでやられるってことはないらしい。
「えっと……二階?」
「いや、三階だ。姉貴んち、今そこだから」
こいつと二人、炎が舐める階段を駆け上がる。幸い石造りの階段は、まだしっかりしてた。
「ネミ、いるのかっ!」
「待って、なにか……」
どうもこいつ、耳も鋭いらしい。
「この先……泣き声?」
廊下の向こう、固く閉ざされた扉を指差す。
「間違いない、姉貴たちの部屋だ。行くぞ!」
「だめよっ、開けたら!
バックドラフトでいっきに部屋が燃え上がっちゃう!」
「じゃぁどうするんだよ!」
答えはなかった。代わりにルーフェイアのやつが、何か呪を唱えだす。
「幾万の過去から連なる深遠より、嘆きの涙汲み上げて凍れる時となせ――フロスティ・エンブランスっ!」
瞬間、冷気系最上級呪文が炸裂した。
通ってきた後ろに氷の壁が出来たうえ、周りの炎も弱まって消える。
――魔法って、こーゆー使い方もあんのか。
感心しながら、俺はドアのノブに手をかけた。こっちももう冷えてる。
それから慌てた。
「早くっ! 今なら開けられる!」
こいつが急かす。
けど。
「分かってるけど、開かねぇんだよ!」
炎にやられたのか、今ので凍りついたのか。ともかくドアはびくともしない。
「どいてっ!」
しびれを切らしたルーフェイアが、俺を押しのけた。
「ネミちゃん、ドアから離れてっ!!」
一言警告してこいつ、目にも止まらない速さで蹴りを叩き込む。
轟音とともに、一撃でドアが砕け飛んだ。
――信じらんねぇ。
どこをどうやったら、あの細っこい脚でンな離れ業ができるんだか……。
「ネミちゃん!」
もっともこいつにゃこれは当たり前らしくて、そのまままっすぐ部屋へ飛び込んでる。
「おねえちゃん、だれ……?」
「え、えっと……その、助けに、来たんだけど……」
そこで詰まるな。
あんだけ勢いよく魔法放ってドアを蹴り砕いたってのに、ネミの質問にしどろもどろだ。
「ネミっ、逃げっぞ!」
「おにいちゃん?」
一瞬俺のこと忘れてたらどうしようかと思ったけど、それはなかったらしい。
「おにいちゃん、あつかったよぉ……」
燃え始めたのと反対側の部屋にいたのがよかったんだろう、ネミはケガした様子もなかった。
「もう、だいじょぶだ」
すがりついてきたチビを、とりあえず抱きしめる。
けどルーフェイアのほうは、感動の再会になんざかまっちゃなかった。
「早く、ここから出ないと。火が消えたわけじゃ、ないから」
「そだな」
まさか通ってきたほうへ行くわけにもいかないから、手近な窓へ近寄る。幸いこっち側は、向こうほどには火は強くなかった。
でも窓を割って炎が押し寄せるのは、時間の問題だろう。