Episode:12
さっき上がってきた階段を二人で駆け下りて、街中を駆け抜ける。
にしても、華奢な見かけによらずルーフェイアはタフだ。俺だって学院で鍛えてるのに、ぜんぜん遅れないでついてくる。
そのうち、前のほうに人だかりが見えてきた。
――って、マジかよっ!
悪い予感ってのは当たるもんだ。姉貴たちのアパートメント――ってもかなり豪勢――は火元じゃなかったものの、もう隣の炎が移ってた。
「晴天続きだったからな……」
誰かのつぶやきが聞こえる。
「すいません、通してもらえますか!」
どうにか人垣をかき分けて家の前まで行くと、その辺の男連中に姉貴が、取り押さえられてるのが目に入った。
「姉貴、だいじょぶか?」
「イマド!」
声に気がついてこっちへ振り向く。幸いぱっと見、ケガだのヤケドだのはなさそうだ。
ただ、ほっとしたのも束の間だった。
「ネミがっ! ネミが中にっ!!」
「なんだって!」
お土産でも買ってって――そいや忘れてた――やろうと思ってたあいつが、まだこの中に取り残されてるって言う。
けど思いのほか火の勢いは強くて、誰もが二の足踏んでる状態だ。「消防はまだか!」とか、叫び声があがってる。
と、気配もナシにルーフェイアが隣へ来た。
「中に……誰かいる……の?」
「それが、姉貴の子のネミってチビが――」
「わかった」
俺の言いかけた言葉が終わらないうちに、こいつがふわりと身を翻す。
「なっ、ちょ、待てっ!」
止める間があればこそ、あっという間にその姿が、炎が縁取る建物へ消えた。
「ルーフェイアっ!!」
とっさに――あとで、よくンなことをしたと背筋が寒くなった――俺も後を追う。
「バカヤロっ! 死ぬぞ!!」
「イマドこそ、どうして?! あたしはともかく……死んじゃうじゃない!」
それは俺のセリフだろ、と思う。どこをどうやったら、炎の中でこいつが平気でいられるってのか。
けど、言い切るだけあってちゃんと理由があった。
「ちょっと待って、いま精霊、移すから」
突然、奇妙な感覚が襲う。
――なんなんだよ、これ?
背筋が逆なでられるような、独特の感覚。
「ごめんね、持ってた精霊……どうにか強制憑依、したんだけど」
「あ、それでか」
シエラ学院の傭兵隊は、従属精霊を利用した強力な魔法で有名だ。だから俺もいちおう、これについての知識はあった。
「精霊」って呼ばれる存在は、けっこうありきたりだ。ちょっと曰く付きの山だの洞窟だの滝だの、そういうところへ行けばたいていお目にかかれる。早い話そういう「場」で出来上がった、この世界を作るエネルギーの塊だ。
しかも、それぞれに意思があったりする。
なんでエネルギーの塊が出来たうえ意思まで持つのか、これはさすがに分かってなかった。神話の時代の超技術で作られたとか、死んだ人間の魂だとか、異世界から来てるとか、いろんな説があるけど真相は藪ン中だ。
ともかく精霊はそういうよく分かんねーモノで、でも捕まえて従えて上手に使うと、自分を強くしたりできる。
にしても。
精霊を使うとこうなるっては聞いていたけど、どうにもヘンな感じだ。
ただ、焼けつくような熱さは消えてた。